ガソリン補助金の段階的縮小を巡る論点

~物価上振れ・家計負担増と財政負担のジレンマ~

新家 義貴

要旨
  • 政府がガソリン補助金の見直しに向けた検討を開始。自民党は、12月以降、価格抑制の基準を現在の170円/ℓから毎月5円程度ずつ引き上げる案を取りまとめた。財政負担の増大を背景に、補助金の段階的縮小が進められる可能性が出てきた。
  • ガソリン・灯油の補助がともに10円/ℓ縮小された場合、CPIコアは0.15%Pt、20円/ℓの縮小では0.30%Pt程度押し上げられると試算される(ガソリンのみの場合、10円で0.11%Pt、20円で0.23%Pt)。今後、原油高の影響が電気・ガス料金や幅広い商品価格に波及することが予想されるなか、補助縮小によって物価の上振れリスクが一段と高まる可能性がある。
  • 今回の見直しでは、冬季の灯油補助の扱いや縮小幅、定額補助への移行、原油価格急騰時の対応などが論点に。現在の補助額は40円/ℓを超えており、短期間での完全終了は容易ではない。補助縮小による財政負担の軽減効果も注目される。
  • 今後は、ガソリン補助金の縮小を、灯油補助や冬季の電気・ガス料金支援、2027年4月からの食料品消費税減税とどう組み合わせるかが重要になる。家計負担軽減を重視して支援を継続するのか、27年4月からの減税を見据えて既存の補助金を整理するのか、政府の物価高対策全体の方向性が問われる。

浮上するガソリン補助金の段階的縮小案

政府がガソリン補助金の見直しに向けた検討を開始した。高市首相は10月23日、赤沢経済産業相に対し、中東情勢が物価や経済に与える影響を注視しながら、補助金の今後のあり方について検討するよう指示した。首相は、補助金の「支援単価や措置の出口も含めて支援のあり方を柔軟に検討する」と説明している。

これを受けて自民党は10月26日、ガソリン補助金の段階的縮小を求める提言を取りまとめ、28日には政調審議会で了承されたと報じられている。提言では、現在170円/ℓ程度に設定されている価格抑制の基準について、12月以降、2027年春先に向けて毎月5円程度ずつ引き上げることを基本としている。政府の正式決定はこれからだが、補助金縮小に向けた動きが進展している。 

政府は2022年から断続的にガソリン価格を抑制するための補助金を支給してきたが、2025年末の旧暫定税率廃止に伴っていったん終了していた。その後、2026年に入ってイラン情勢が悪化し、原油価格が急騰したことから、3月19日に補助金の支給が再開された。現在の制度では、ガソリンの全国平均小売価格が170円/ℓ程度を超える見込みとなった場合、その超過分を原則として全額補助する仕組みとなっている。原油価格が上昇しても補助額を増やすことで、店頭価格の上昇を抑えることができる。

補助金の支給額は、3月の再開時には30.2円/ℓだったが、その後の原油価格の動向に応じて大きく変動した。7月には一時2.8円/ℓまで縮小したものの、原油価格の再上昇を受けて9月には過去最高の51円/ℓに達した。その後はやや縮小したが、10月22日以降の支給単価も42.8円/ℓと、依然として高水準にある。

今回の見直し案に沿って、12月から基準価格が毎月5円ずつ引き上げられた場合、ガソリン価格は12月に175円/ℓ、2027年1月に180円/ℓ、2月に185円/ℓ、3月に190円/ℓ程度に上昇する見込みである。ただし、実際の引き上げ幅や時期については未定であり、今後の政府決定を待つ必要がある。

今回と同様の補助金縮小は2024年12月にも行われた。当時はガソリン価格の目安が175円から180円、185円へと段階的に引き上げられた。今回も、補助金の支給自体は継続されるものの、消費者にとってはガソリン価格の値上がりにほかならず、家計負担の増加につながる。

CPIへの影響

次にCPIへの影響を考える。補助金制度の対象となっているのはガソリン、灯油、軽油、重油、航空機燃料であるが、このうち消費者物価指数に直接採用されているのはガソリンと灯油だけである。軽油や重油への補助縮小についても、物流費や生産コストを通じて消費者物価に波及する可能性はあるが、直接的な影響を試算する際にはガソリンと灯油の価格上昇を考えればよい。

仮に、補助の段階的縮小によってガソリン価格が170円/ℓから180円/ℓへと10円上昇した場合、上昇率は約5.9%となる。この場合、ガソリン単体でCPIコアは0.11%Pt程度押し上げられると試算される(20円/ℓの上昇なら0.23%Pt)。また、灯油についても同様に10円/ℓの補助縮小が行われた場合、灯油価格は7.0%程度上昇し、CPIコアはさらに0.03%Pt程度押し上げられる(20円/ℓの上昇なら0.07%Pt)。両者を合わせると、CPIコアへの押し上げ効果は、10円/ℓの補助縮小の場合に0.15%Pt、20円/ℓの場合は0.30%Pt程度となる見込みだ。

なお、これはガソリンと灯油の補助が同じ額で縮小されることを前提とした試算である。自民党の提言案では、冬季の灯油価格への配慮が求められており、灯油についてはガソリンとは異なる対応がとられる可能性がある。仮に灯油への補助が維持されれば、CPIコアへの押し上げ効果はガソリン分に限られることになる。

今後の物価については、これまでの原油高や円安によるコスト上昇が時間差を伴って波及し、加工食品や日用品などを中心に価格転嫁が進むとみられる。加えて、原油高の影響が遅れて反映される電気・ガス料金についても、大幅な上昇が見込まれる。こうしたコスト上昇を背景に、CPIコアの前年比上昇率は今後再び拡大し、年末年始にかけて+3%を上回る可能性がある。 その上、ガソリン・灯油補助の縮小が新たな物価押し上げ要因として加われば、物価上昇率は従来の想定以上に高まる可能性があるだろう。

今後のガソリン補助金見直しを巡る5つの論点

今回の見直しでは、12月以降、ガソリンの基準価格を毎月5円程度ずつ引き上げることが自民党から提案されているが、具体的な制度設計については未定の部分が多い。今後、特に注目されるのは以下の5点である。

① 灯油への補助はどうなるか?

現行制度では、灯油にもガソリンと同額の42.8円/ℓが補助されている。これまでの補助金見直しでは、灯油についてもガソリンと同額の拡大・縮小が行われることが多かったが、今回は補助縮小が冬場の暖房需要期と重なることが問題となる。 特に寒冷地では灯油が生活必需品であり、価格上昇による家計への影響は大きい。自民党の提言案でも冬季の灯油価格への配慮が求められており、ガソリンとは異なる縮小ペースを設定する可能性もある。灯油についてもガソリンと同額の補助縮小を進めるのか、それとも冬場の家計負担に配慮して補助を維持するなどの対応をとるのかが注目される。

② 補助をどこまで縮小するか。急変時への対応は?

現在のガソリン補助額は42.8円/ℓに達しており、補助金がなければガソリン価格は210円/ℓを超える計算になる。仮に補助なし価格が213円/ℓで推移するとすれば、基準価格を180円に引き上げても33円、190円に引き上げても23円程度の補助が必要となる。

2024年末の補助金縮小時には、補助なし価格が190円/ℓ程度だったため、段階的な縮小によって比較的短期間で補助金を実質的に終了できる可能性があった。しかし、今回は原油価格が高止まりしており、事情は異なる。現状の原油価格や為替相場を前提とすれば、補助金を一度に完全終了させた場合の家計負担増は極めて大きい。このため、少なくとも短期間での完全終了は容易ではない。自民党案に沿って春先まで基準価格を段階的に引き上げたとしても、当面は10~20円/ℓ程度の補助縮小にとどめ、その後も何らかの形で支援が継続される可能性が高いのではないか。ただし、原油価格の下落や円高が進めば、補助金の必要額は減少するため、完全終了に向けた条件も変わってくる。

また、原油価格急騰時の対応も重要である。自民党は毎月5円程度の引き上げを基本としているが、原油高や円安がさらに進んだ場合にも予定どおり縮小を続けるのか、あるいは縮小を一時停止するのかは明らかになっていない。縮小スケジュールの予見可能性を確保しつつ、原油価格の急変時に柔軟に対応できる仕組みを設けるかどうかも論点となる。

③ 定額補助への移行はあるか?

現在の補助金は、ガソリン価格を170円/ℓ程度に抑えるため、原油価格や為替相場の変動に応じて補助額を調整する仕組みとなっている。しかし、この方式では原油価格や為替相場によって補助額が自動的に変動するため財政負担が予想しにくいことに加え、原油価格高騰時には補助額が急増するという問題がある。

そこで考えられるのが、補助額を一定の水準に固定する定額方式への移行である。実際、2025年5月には、価格抑制の目標水準に応じて補助額を調整する方式から、10円/ℓの定額補助へと変更された経緯がある。

現行方式は、ガソリン小売価格が概ね固定される一方、原油価格や為替相場の変動に応じて政府の財政負担が変動する仕組みとなっている。これに対し、定額補助方式では、政府の財政負担は概ね一定である一方、原油価格や為替相場の変動に応じて、ガソリン小売価格、ひいては家計負担が変動することになる。つまり、家計負担の安定を重視するか、財政負担の予見可能性を重視するかという違いがある。

今回の見直しでは、基準価格を段階的に引き上げる案が中心となっているが、途中で定額方式に切り替えることも選択肢となり得る。補助金の縮小幅だけでなく、補助金の仕組み自体が変更されるかどうかにも注目したい。

④ 軽油・重油への補助はどうなるか?

現行制度では、軽油や重油についてもガソリンと同額の補助が行われている。これらの補助が縮小されれば、トラック輸送などの物流費や、農業、漁業、製造業などの生産コストが上昇する可能性がある。

特に軽油価格の上昇は物流費を通じて幅広い業種に影響を及ぼす。企業が増加したコストを販売価格に転嫁すれば、加工食品や日用品などの価格上昇につながる可能性もある。原油高によるコスト上昇がすでに企業の負担となっているなか、補助金縮小がさらなる価格転嫁を促す可能性もある。ガソリンと同じペースで縮小するのか、それとも産業活動への影響を踏まえて油種ごとに対応を変えるのかが注目される。

⑤ 補助金の縮小で財政負担はどの程度軽減されるか?

今回の見直し案が浮上した背景にあるのが、財政負担の増大である。2026年3~8月の燃料油補助金支出額は約1.2兆円に達し、9月末時点の基金残高は約5,600億円まで減少した。小林自民党政調会長によれば、足元では1日当たり100億円を超える国費が投入されている。現行制度を維持するためには、追加的な財源確保が必要となっている。

補助金を縮小すれば、財政負担の軽減につながる。たとえば、2026年度のガソリン国内需要見通しである年間約424億ℓを前提にすると、補助金を5円/ℓ削減した場合には年間約2100億円、10円/ℓ削減した場合には約4200億円の支出削減に相当する。灯油・軽油・重油についても同様に補助を縮小すれば、削減効果はさらに大きくなる1。

政府は2022年以降、断続的にガソリン価格の抑制策を続けてきたが、自民党によれば、これまでの累計支援額は約9兆円にのぼる2。補助金は家計の負担軽減に大きな役割を果たしてきた一方、巨額の財政支出を伴う制度を長期にわたって継続することは難しい。今後は家計・企業への影響を抑えながら、財政負担をどのように縮小していくかが課題となる。

物価高対策全体の見直しをどう進めるか ~電気・ガス代補助、消費税減税との関係~

今回のガソリン補助金見直しは、ガソリン単独の問題として捉えるべきではない。灯油への補助や冬季の電気・ガス料金支援、さらには2027年4月からの実施に向けて法案が提出されている食料品消費税減税との関係を踏まえる必要がある。これらの政策をどう組み合わせるかによって、家計負担や財政負担、物価への影響は大きく異なってくる。

一つの考え方は、家計負担の軽減を重視し、各種対策を切れ目なく実施するというものである。ガソリン補助金については財政負担の大きさから段階的に縮小する一方、冬場の灯油補助は維持し、電気・ガス料金支援を拡充することが考えられる。この場合、冬場のエネルギー価格上昇による家計負担を抑えつつ、2027年4月の食料品消費税減税へとつなぐことができる。物価高対策を途切れさせずに実施するという政策運営である。

もう一つは、消費税減税を見据えて、既存の補助金を縮小するという考え方である。ガソリンに加えて灯油への補助も縮小し、電気・ガス料金支援も必要最小限にとどめることで、財政負担の軽減を図る。食料品消費税減税によって家計負担が大きく軽減されることを見据え、これまでの一律の価格補助を段階的に整理するという政策運営である。消費税減税自体が税収減を伴うことを考えれば、その他の補助金を縮小して財政負担の増大を抑えるという考え方も成り立つ。

実際には、両者の中間的な対応も考えられる。いずれにしても、ガソリン補助金の縮小幅だけでなく、灯油や電気・ガス料金への支援をどうするか、消費税減税との関係をどう整理するかが重要となる。今回のガソリン補助金見直しは、単なる燃料価格対策の変更にとどまらず、政府が物価高対策全体をどのように再構築していくかを見極める上でも、重要な動きになるだろう。


1 補助額の削減幅が通年で維持される場合の試算。実際の削減額は縮小時期や原油価格等に左右される。

2 自民党は累計支援額を約9兆円と説明。なお、基金への累計予算投入額は2026年9月時点で約9.6兆円に達している。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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