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当面の経済運営の課題と歳入・歳出改革の論点

~「責任ある積極財政」の次期課題~

永濱 利廣

要旨
  • 第2次高市改造内閣の発足を受け、政権は中長期的な政策推進期へ移行した。「責任ある積極財政」は単なる需要刺激ではなく、官民協調の投資による「潜在成長率」の向上を目指している。
  • 財政目標の転換として、単一のPB黒字化から、世界標準である「債務残高対GDP比の安定的低下」を真の目標とする規律管理へ移行。戦略投資を維持しつつ中長期の財政展望を示す。また、供給力強化と賃金の上昇を目指し、エネルギー・半導体・AI等の基幹産業への投資でボトルネックを解消し、生産性向上による持続的な賃上げサイクルを創出すべき。さらに、構造改革と規制撤廃の面では、農業の競争力強化・企業規制緩和や、持続可能な全世代型社会保障制度の構築が必要。
  • 単なる減税・増税の対立を超え、日本の供給力・イノベーション能力を高める戦略的ツールとして税制を再構築すべき。また、投資促進型税制の拡充を目指し、イノベーション・ボックス税制の導入や、経済安保などの重要分野での即時償却・大型税額控除により国内投資を誘発すべき。さらに、「年収の壁」の抜本解消を目指し、就労抑制の要因となる税制・社会保障の歪みを是正し、人手不足解消と所得上昇を両立すべき。加えて、資本所得課税と再分配の適正化として、スタートアップ投資等を優遇しつつ、課税回避を是正するバランスの取れた再分配を実施。
  • 高市政権の経済財政運営は、短期の景気対策にとどまらず「供給力を高める構造改革」と「債務の持続可能性を保つ財政運営」をいかに両立させ、明確なビジョンを示せるかにかかっている。
目次

(*)本稿は日経ビジネス電子版への寄稿(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00573/101300022/)を基に作成。

1.はじめに

第2次高市改造内閣の発足は、政権初期の政治的流動期を脱し、中長期的な政策体系の具現化へと移行する重要な転換点を示している。内閣が掲げる「責任ある積極財政」の実証論は、需要刺激を中心とした従来の財政出動ではなく、官民協調による危機管理投資および成長投資を通じた「潜在成長率」の向上を主軸に置くものである。

しかし、足もとの巨額な債務残高や為替・金利動向が交錯するマクロ経済環境下において、投資主導の成長戦略をいかに実現可能かつ持続的な形で定着させるかが厳しく問われている。

そこで本稿では、当面の政権課題として「債務の持続可能性と投資の構造」および「実質賃金・供給力の底上げ」を挙げるとともに、年末に向けた税制・歳入改革の論点について、従来の単なる消費税議論を超えた構造的視点から整理・考察する。

2.政権の当面する主たる課題

① 「債務残高対GDP比の安定的低下」に向けた目標管理の高度化

日本の財政持続可能性に関する議論は、長らく単一の指標であるプライマリー・バランス(以下PB)の黒字化に過度に偏重してきた側面がある。しかし、既に2025年度時点で国と地方のPBはGDP比でほぼ均衡を達成していることを踏まえれば、世界標準的な財政の持続可能性の担保となる「債務残高対GDP比の安定的引き下げ」を真の目標とする規律管理へと転換することが本質的課題となる(図1・2)。

図表
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高市政権においては、防衛・経済安全保障・先端技術などの戦略領域に対する投資のインセンティブを維持しつつも、単なる膨張予算との批判を回避するため、市場に対する明確な中長期財政展望を示す制度設計が求められる。

② 物価高超えの実質賃金上昇と「供給力強化」のサイクル形成

資源価格の変動や為替の動向などの外部要因は、マクロ経済および家計の実質購買力に対し直接的な圧迫要因となり、これらを一元的な総需要管理政策だけで相殺することは困難である。政権としては、エネルギー構造の強靱化や次世代半導体・AI等の基幹産業に対する継続的支援により、ボトルネックの解消、すなわちサプライサイド改革を果たすことが不可欠である。高収益な産業基盤の創出が生産性を向上させ、持続的な賃上げへと波及するサイクルを如何に創出できるかが、政権運営の試金石となる。

③ 構造改革と規制撤廃

成長の制約因子を取り除く攻めの構造改革も目下の焦点である。例えば農業分野においては、食料安全保障の強化と輸出競争力の向上の双方を見据え、農地所有にかかる企業規制の柔軟化や集積の促進、過度な生産調整依存からの脱却といった構造的見直しが問われている。

同時に、社会保障制度における就労インセンティブの阻害要因を除去し、全世代型社会保障として「給付と負担」の持続性を再構築することが求められている。

3.年末の税制改正および歳入・歳出改革に向けた論点

年末に向けた税制改正の議論においては、「消費税の引き下げ・所得連動型給付」のみならず、「企業の投資意欲を最大化する税制」や「多様な働き方を阻害しない課税体系」を整合的に構築できるかが焦点となる。

① 戦略的投資およびR&Dに対する投資促進型税制の拡充

「サナエノミクス」が掲げるイノベーション力の強化やスタートアップ育成、危機管理投資を実現するためには、企業が留保する現預金を投資へ導く強力なインセンティブ改革が必要である。具体的には、以下の税制措置が本格的に議論されるべきである。

  • イノベーション・ボックス税制等の本格導入・拡充:自国での知財開発・活用から生じる所得に対する軽減税率は、高付加価値なR&D拠点の国内回帰を加速させよう。

  • 特定重要分野における即時償却・大型税額控除:経済安全保障に関連するサプライチェーン拠点整備に対する投資税制の抜本強化。

② 働き方に中立な税制と「年収の壁」の抜本的解消

人手不足が深刻化する中で、配偶者控除や社会保障上の各種要件による就労抑制は、労働供給量を抑制する構造的要因となっている。短時間労働の調整を選択せざるを得ない既存の歪みを是正し、就労促進と所得上昇の双方を実現する一体改革の推進が重要課題となる。

③ 資本所得課税と所得再分配機能の見直し

一億円の壁問題をはじめとする所得再分配の不均衡に対し、一律的な増税ではなく「実質的な投資資金の循環」を阻害しない形での是正策が要請される。スタートアップのエンジェル投資や再投資を優遇する枠組みを拡充しつつ、富裕層に対する過度な課税回避策を適正化するバランス感覚が不可欠である。

4.おわりに

第2次高市改造内閣が直面する真の課題は、短期的な景気対策にとどまらず、「潜在成長率を引き上げる構造改革」と「債務の持続可能性を担保する財政運営」をいかに高次元で統合できるかにある(図3)。

税制改正に関しても、従来の対照的な減税・増税の二項対立を脱し、官民が一体となって日本の供給力・イノベーション能力を高めるための「戦略的ツール」として再構築できるかが問われている。この構造転換を果たし得る明確なビジョンを提示できるかどうかが、政権の中長期的な安定と日本経済の強靭化を左右することになろう。

図表
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永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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