2027年春闘、初動のモメンタムは現時点で良好

~労働側、経営側とも昨年からのトーンダウンはみられず~

新家 義貴

要旨
  • 連合は2027年春闘基本構想で、定昇込みの賃上げ要求を「6%中心、5%以上」、ベア等の賃上げ分を「4%中心、3%以上」とする目安を示した。前年よりも要求姿勢をやや強めており、5%台の賃上げの定着に加え、さらなる引き上げを目指す姿勢がうかがえる。
  • 経団連も高い賃上げの継続に前向きな姿勢を維持している。経労委報告の骨子案では賃上げモメンタムの「浸透・定着」が掲げられ、高い賃上げの継続に加え、中小企業への波及を重視する姿勢が示されている。
  • 日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査によると、民間エコノミストは2027年春闘の賃上げ率を4.96%と予想(厚生労働省ベース)。前年から小幅に鈍化するものの、高い伸びが続く見通しであり、4年連続で5%台の賃上げを実現できるかが焦点となる。
  • 春先にはイラン情勢悪化による賃上げ鈍化が懸念されていたが、現時点で労使双方の姿勢にトーンダウンはみられない。企業業績の底堅さや構造的な人手不足が高い賃上げを支えており、2027年春闘の初動のモメンタムは良好と評価できる。

連合は、「6%中心、5%以上」と昨年からトーンをやや強める

2027年春闘の集中回答日は2027年の3月中旬だが、実際の交渉に向けての動きは既に始まりつつある。

本日、連合は「2027春季生活闘争基本構想」を公表した。春闘に向けて最初に注目される重要イベントであり、翌年の春闘に向けた労働組合側の基本理念や方針、重点課題を示すものである。この基本構想をみることで、労働側が翌年の春闘にどの程度強気な姿勢で臨もうとしているかを早い段階で確認することができ、春闘全体のトーンをつかむうえで重要な材料となる。

今回の基本構想の最大の注目点は、定期昇給相当分を含めて「6%中心、5%以上」、ベースアップ等の賃上げ分を「4%中心、3%以上」とし、より高い賃上げを目指す姿勢を示したことである。「5%以上」という要求水準自体は4年連続(2023年は「5%程度」)となるが、今回は「6%中心」との表現が新たに加わった。ベア等の賃上げ分についても、従来の「3%以上」に「4%中心」が加えられている。前年の2026年春闘では、全体で「5%以上」、中小で「6%以上」、有期・短時間・契約等労働者では「7%」を目安とする、いわゆる「5・6・7」の要求が示されていた。今回、全体についても6%を明確に意識する形となったことは、実質的には5%を最低ラインとしつつ、より高い賃上げを促す姿勢を強めたものと受け取れる。単に高い賃上げを続けるだけでなく、その水準をさらに引き上げようとする意欲がうかがえる。

図表
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こうした姿勢の背景にあるのが、ここ数年の高い賃上げ実績である。2026年春闘では連合ベースの賃上げ率の実績が5.01%となり、3年連続で5%台の高い賃上げが実現した。5%という水準がかつてほど実現困難な目標ではなくなりつつあるなか、連合としても前年と同じ要求目安を繰り返すだけでは、さらなる賃上げを促すメッセージとして十分ではないと判断した可能性がある。5%台の賃上げを4年目も維持するだけでなく、6%近辺を意識して賃上げ率のさらなる引き上げを目指す段階に入ったというメッセージと位置付けられる。

賃上げを取り巻く環境も、こうした強気の姿勢を支えている。構造的な人手不足が続くなか、企業にとって人材の確保・定着は引き続き重要な経営課題であり、賃金引き上げの必要性は高い。また、物価上昇率は2026年度後半にかけて再び高まるとみられ、家計の生活コスト負担は重い。名目賃金が増加しても、物価上昇に追いつかなければ生活水準の改善にはつながらない。実質賃金を安定的にプラスにするためにも、労働側が高い賃上げを求める理由は十分にある。

加えて、賃上げの広がりという点でも課題は残る。2026年春闘では中小組合の賃上げ率が4.69%と高い伸びを確保したものの、全体の5.01%には届かなかった。大企業と中小企業の間にはなお差があり、正規雇用と非正規雇用の賃金格差も残っている。連合にとっては、高い賃上げを実現するだけでなく、それを幅広い企業や労働者に波及させることも引き続き重要な課題である。今回の基本構想でも、賃金実態を把握できないなどの事情がある中小組合については「20,000円以上・6%以上」、有期・短時間・契約等労働者については「7%」を目安とする方針が示された。こうした点を踏まえれば、今回の基本構想は、高い賃上げの持続と一段の引き上げ、そして賃上げの裾野の拡大を目指すものと評価できる。

また、今回の基本構想では、新たに2030年の賃金水準を2026年比で15%程度引き上げる中期目標も設定された。毎年の賃上げ率だけでなく、中期的に目指す賃金水準を明示することで、高い賃上げを一過性のものに終わらせず、継続させようとする姿勢がうかがえる。

なお、近年は個別組合の実際の賃上げ要求率がすでに6%近くに達しており、「6%中心」という今回の表現には、こうした実態を追認する意味合いもある。今回の基本構想からは、連合の強い賃上げ意欲が確認できる一方、実際の賃上げ率が前年を上回るかどうかはまた別問題である。今後は、主要産業別労働組合組織や個別組合の要求水準が前年からどの程度引き上げられるか(られないか)が注目される。

経営側も賃上げの継続に前向き

経営側も高い賃上げの継続に前向きな姿勢を維持している。経団連が毎年1月に公表する「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」は、春闘に向けた経営側の基本スタンスを示すものであり、賃上げ交渉の方向性を占う上で重要な資料となる。2027年春闘に向けた経労委報告については、現時点で原案は明らかになっていないものの、9月上旬には骨子案の内容が報道されている。それによると、賃上げモメンタムの「浸透・定着」を掲げ、高い賃上げの継続と中小企業への波及を促す方針とされる。

経団連は2023年を賃上げの「起点」、2024年を「加速」、2025年を「定着」、2026年を「さらなる定着」の年と位置付けてきた。今回の「浸透・定着」という表現からは、高い賃上げを継続するとともに、その動きを中小企業などに広げることを重視する姿勢がうかがえる。また、経団連の筒井会長は9月7日の記者会見で、「ベースアップ実施の検討を引き続きスタンダードと位置付けていきたい」と述べ、賃上げのモメンタムを維持する考えを示している。

数か月前には、イラン情勢の悪化による原材料費や物流費の上昇が企業収益を圧迫し、2027年春闘では経営側が賃上げに慎重な姿勢を強めることも懸念されていた。しかし、現時点で経営側の賃上げ姿勢にトーンダウンはみられない。

なお、経労委報告では、原案から正式な報告にかけての修正は例年あまり見られないが、骨子案から原案にかけては内容が多少修正されることもある。今後、10月末~11月中頃までに報道されるとみられる経労委報告の原案が明らかになれば、経営側のスタンスをより具体的に判断できるだろう。

エコノミスト予想は4.96%、5%を巡る攻防か

10月14日に日本経済研究センターが公表した「ESPフォーキャスト調査」では、民間エコノミスト34人を対象に2027年春闘の賃上げ率について特別調査を実施している。これによると、予測値の平均は4.96%となり、2026年実績の5.18%を0.22%ポイント下回る見通しとなった。もっとも、前年から小幅に鈍化するとはいえ、ほぼ5%という歴史的に高い水準であり、2027年も高い賃上げが続くとの見方が中心である。なお、ここでの賃上げ率は厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベースであり、連合の集計とは対象が異なる。

予測の内訳をみると、定期昇給分が1.69%、ベースアップ分が3.27%となっており、ベアについても3%を超える伸びが見込まれている。また、予測値の高位8機関平均は5.23%、低位8機関平均は4.68%となっている。予測には一定の幅があるものの、高い賃上げが続くという点では概ね認識は共有されている。

図表
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2027年春闘で賃上げ率が前年からやや鈍化すると予想される背景には、2026年の物価上昇率が2025年より低く、物価高に対応するための賃上げ圧力が幾分弱まることがあると考えられる。また、数年にわたる高い賃上げによって人件費負担が累積していることに加え、イラン情勢悪化を背景とした原材料費や物流費の上昇も、企業の賃上げ余力を抑制する要因となり得る。一方、企業業績が足元まで好調を維持していることや、構造的な人手不足と採用競争の激化は引き続き賃上げを促す要因であり、賃上げ率が大きく鈍化する可能性も低いとみられる。

ちなみに、昨年の同時期のESPフォーキャスト調査でも、2026年春闘の賃上げ率は4.81%(2025年10月調査)と、前年実績からの鈍化が予想されていた。しかし、実際には5.18%と予想を上回り、3年連続で5%台の賃上げが実現した。今回も前年からの小幅な鈍化が見込まれているが、予測平均は昨年の同時期をやや上回っている。イラン情勢の悪化という新たな懸念材料があるなかでも、エコノミストの間では高い賃上げが続くとの見方が維持されていることが分かる。

こうしたなか、予測平均の4.96%について、前年からの「鈍化」を強調するか、5%近傍という「高水準の持続」を重視するかは、評価が分かれるところだろう。いずれにせよ、2027年春闘では、3年連続で実現した5%台の賃上げを4年目も維持できるか、5%を巡る攻防が一つの焦点となる。今後、経労委報告原案の判明により経営側の方針が明らかになるほか、主要産業別労働組合組織の要求方針などが明らかになるにつれて、賃上げ率の見通しもより具体化していくことになるだろう。

なお、この調査とは別に、毎年11月~12月にかけて、民間シンクタンク・調査機関から翌年の春闘賃上げ率の予測が出されることが多い(筆者は11月に発表予定)。予測をレポートとして作成することもあれば、経済見通しレポートのなかで言及されることもあり、春闘賃上げ率の見通しについて、この時期に市場の相場観が徐々に形成されていく。

2027年春闘の初動は良好

以上を踏まえると、2027年春闘の「初動のモメンタム」は、現時点では良好と評価できる。イラン情勢が悪化した数か月前には、原材料費や物流費の上昇による企業収益の圧迫を通じて、2027年春闘の賃上げ率が大きく鈍化するとの懸念もあった。しかし、ここまでの動きをみる限り、労働側、経営側のいずれについても、前年と比べて賃上げ姿勢が慎重化している様子はみられない。連合が定昇込み、ベアともに前年より強い要求目安を打ち出し、さらに高い賃上げを志向する一方、経団連も高い賃上げの継続と中小企業への波及に前向きな姿勢を示している。

その背景には、原油などの代替調達が進み、資源の調達難が生産活動を大きく制約する事態が回避されたことや、AI需要の拡大にも支えられ、企業業績が総じて堅調さを維持していることがあるとみられる。また、構造的な人手不足や採用競争の激化によって、企業が人材確保・定着のために賃金を引き上げる必要性は依然として高い。物価上昇が続くなか、実質賃金の改善を求める声が強いことも、高い賃上げに向けての動きを後押ししているとみられる。

もっとも、原材料費や物流費の上昇による企業収益への悪影響が今後さらに広がる可能性はあり、先行きを楽観視することはできない。また、現時点で確認できるのは労使双方の基本的な姿勢であり、具体的な要求や回答の水準はまだ明らかになっていない。今後は、経団連「経労委報告」の原案や主要産業別労働組合組織の要求方針、早期に賃上げを表明する企業の動向などを通じて、今回確認された前向きな姿勢が実際の賃上げにつながるかを見極める必要がある。


新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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