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2026.10.21
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インドネシア中銀、市場動揺も、政策運営は政府と市場の「板挟み」が続く
~一部の利上げ観測に「ゼロ回答」、様々な政策目標実現へ難しい対応が続くと予想される~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア中銀は10月20~21日の理事会で、政策金利のBIレートを4会合連続で5.75%に据え置いた。MSCIが市場の透明性やガバナンスへの懸念を背景に「スタンドアローン市場」への格下げ案を示し、株安・ルピア安が進んだことで、一部では利上げ観測が浮上していた。しかし、中銀は5~6月の累計100bpの利上げで物価安定には十分との認識を示し、預金ファシリティ金利を25bp引き上げて5.00%とするとともに、為替ヘッジ取引への優遇措置を強化し、通貨安定と海外資金の流入促進を図る判断を示した。
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一方で、景気下支えや雇用創出に向けて、預金準備率を11~12月に段階的に引き下げ、銀行の貸出余力を拡大する方針を示した。原油高に伴うインフレ圧力や、米国の金融引き締めによるドル高圧力を警戒する一方、国内消費の底堅さや民間投資の持ち直し、外需の回復などを踏まえ、2026年の経済成長率見通しは「+4.9~5.7%」との従来の見通しを据え置いた。
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中銀を巡ってはここ数年、政策目標に物価・通貨の安定に加え、経済成長や雇用創出を支援する役割が追加されてきたほか、政治介入に対する懸念もある。こうしたなか、先行きも政府の景気下支え要請と金融市場の通貨安定要求との「板挟み」となり、様々な政策目標の実現を目指す観点から、一段と難しい政策運営を迫られる状況が続くと予想される。
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【インドネシア中銀、市場の混乱で一部に政策金利の引き上げ観測も、4会合連続で据え置き】
インドネシア銀行(中銀)は、10月20~21日に開催した月例理事会において、政策金利であるBIレートを4会合連続で5.75%に据え置くことを決定した。一方で、預金ファシリティ金利を25bp引き上げ、5.00%とした。中銀は、5月の月例理事会でルピア相場の安定を目的に50bpの大幅利上げを決定したものの、その後も金融市場ではルピア安の動きが収まらず、株式、債券も下落するトリプル安に直面した。このため、中銀は6月9日に開催した週次理事会で25bpの緊急利上げを実施するとともに、ルピア相場の安定に向けた追加対策を発表した。さらに、6月の月例理事会でも25bpの追加利上げを実施し、約1ヵ月の間に累計100bpもの利上げを行うなど、通貨安定に向けて金融引き締めを強化した。その後は、ルピア相場が落ち着きを取り戻したことから、前回の9月会合まで3会合連続で政策金利を据え置き、様子見姿勢を維持してきた。
しかし、足元では同国の金融市場が再び混乱に直面している。きっかけは、指数算出会社のMSCIが10月15日、同国市場を「スタンドアローン市場」に格下げする案を示し、市場参加者との協議を開始したことにある(注1)。MSCIは1月、同国株式市場の情報開示に懸念を表明し、透明性向上への取り組みが進まなければ、フロンティア市場に格下げする可能性を示唆した。これを受けて、当局は最低浮動株比率の大幅引き上げなど、海外投資家の懸念解消に向けた対策を打ち出し、市場改革を加速させる姿勢を示した。しかし、その後も市場参加者からは、協調的な取引行為への疑念が解消されておらず、実効性のある法執行も確認できないとの指摘がMSCIに寄せられた。また、フロンティア市場への格下げでは、問題の深刻さが適切に反映されないとの意見も寄せられた。このため、MSCIは2027年4月末まで市場参加者の意見を募り、同年6月末までに最終判断を示すとした。協議を通じて市場のガバナンスや機能の実質的な改善を裏付ける明確な証拠が確認されない限り、格下げを進める方針である。この発表を受けて、主要株価指数(ジャカルタ総合指数)は一段と下振れしており、ルピア相場も下落している(図1)。

こうしたなか、金融市場においては、月例理事会を前に、中銀が政策金利の引き上げを含む市場安定策を打ち出すとの見方が浮上した。また、中銀は今回、会合後の記者会見の開始時刻を前倒しすると発表した。中銀では、7月にペリー前総裁が任期を2年弱残して突然辞任し、上級副総裁であったデストリ・ダマヤンティ氏が総裁代行を務めた後、9月2日に総裁へ正式就任した。今回の月例理事会は、デストリ氏の正式就任後2回目の定例会合に当たる。しかし、中銀は今回もBIレートの引き上げを見送る一方、預金ファシリティ金利の引き上げや為替ヘッジ取引への優遇措置の強化を通じて、市場の安定を図る判断を示した。
【中銀は様々な政策目標の実現に向け、政府と市場の間で「板挟み」となることが予想される】
会合後に公表した声明文では、今回の決定について「イラン情勢の緊迫化や米国の金融引き締めによる対外的な圧力が続くなかでのルピア相場の安定」、「2026年と2027年の物価目標の達成」を目的とする政策ミックスの一環との考えを示した。一方で、景気下支えと国内の流動性確保に向けて、預金準備率の引き下げを決定した。一般商業銀行向けは現行の9%から、11月1日に8%、12月1日に7%へ、イスラム銀行向けは現行の7.5%から、11月1日に6.5%、12月1日に5.5%へ、それぞれ段階的に引き下げる。さらに、為替ヘッジ取引への優遇措置を強化し、海外からの資金流入を促す方針を示した。
世界経済については「イラン情勢の悪化による原油価格の高止まりを受けて、景気の下押しとインフレ圧力が併存している」との認識を示す一方、「2026年の世界経済成長率は+3%となる」との従来見通しを維持した。また、「米国で追加利上げの可能性が高まっているうえ、財政政策を理由に米国債金利は高止まりしている」として、「新興国への資金流入が抑制され、ドル高圧力が続く可能性がある」との見通しを示した。
一方、同国経済について「財政支援や消費者心理の改善を追い風に家計消費は底堅く推移している」としつつ、足元では「企業マインドの改善を背景に民間投資に持ち直しの兆しがでている」との認識を示した。先行きは「外需の増加も見込まれる」として、「2026年の経済成長率は+4.9~5.7%になる」との従来見通しを据え置いた。そして、対外収支も「世界的な不確実性の高まりの影響を緩和すべく、国際収支を強化する必要がある」としつつ、「9月末時点の外貨準備高は輸入の5.3ヵ月分を有する」とし、「2026年の経常赤字はGDP比▲2.4~▲1.6%」になると3会合ぶりに見通しを示した。ルピア相場については「為替介入やヘッジ取引への優遇措置などを通じた安定強化を図っている」と従来からの対策を強化する考えを示した。そして、物価動向については「政府が設定した目標の範囲内で維持されている」(図2)ほか、足元では「天候不順による食料インフレの懸念が高まっている」ものの、「目標域内に収めるべく、為替相場の安定に加え、政府も食料インフレ対策を強化する」との見方を示した。

会合後に記者会見に臨んだ中銀のデストリ総裁は、MSCIによる発表について「株式市場の動向を注視している」との見方を示した。そのうえで、政策運営について「的を絞ったものにしたい」として、「海外からの投資の呼び込みに資するものにしたい」との考えを示した。そして、「我々は5月以降すでに100bpの利上げを実施しており、物価安定には十分」、「海外投資家に対してインセンティブを提供している」との考えを示した。先行きの政策運営については「データ次第になる」として明言を避けた。また、ソリキン副総裁は、預金準備率引き下げの狙いについて「雇用創出を目的としたもの」、「銀行の貸し出し余力の拡大を目指したもの」と説明した。そして、今回の政策対応について「様々な政策目的に対応することを目指したもの」と説明した。
こうした発言の背景には、ここ数年、中銀に対して、物価と通貨の安定に加え、経済成長や雇用創出を支援する役割も求められるようになっていることがあると考えられる。政治介入が懸念される動きもみられるなか、中銀の政策運営はこれまで以上に難しくなっている。先行きも、中銀は政府からの景気下支え要請と、金融市場からの通貨安定要求との「板挟み」に置かれるとともに、難しい政策運営を迫られる局面が続くと予想される。
注1 10月16日付レポート「インドネシア株に逆風、MSCIが「スタンドアローン」への格下げ検討」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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