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フランスで学生の抗議運動を発端とする大規模なデモが広がり、一部で暴動に発展している。教育環境の悪化、物価高による生活の厳しさ、公共サービスの質の低下が、政府への不信と結びつき、労働組合や年金生活者など幅広い層を巻き込む社会運動に拡大した。
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政府は2027年予算案で540億ユーロの財政改善措置を計画するが、歳出抑制への反発が強まれば、野党との妥協は一段と難しくなる。抗議の長期化による経済活動の下押しや、金利上昇による利払い負担の増加が、財政再建を一段と難しくする恐れもある。予算成立の遅れや財政再建策の後退は、国債市場の警戒感を高めかねない。
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来春の大統領選に向けても、購買力や公共サービスの改善に加え、暴動への対応や治安維持が重要な政策争点となる可能性がある。各党は政府の財政運営への批判を強める一方、予算不成立による混乱をどこまで容認するかという難しい判断を迫られる。
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今回の大規模抗議運動は、財政再建の必要性が高まる一方で、その負担を国民に求めるための政治的・社会的な合意形成が難しくなっているという構造的な問題を浮き彫りにした。来春の大統領選で誰が政権を担うことになっても、財政規律の回復と国民生活の改善をいかに両立させるかという難題から逃れることはできない。
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学生の抗議から全国的な社会運動へ
フランスで大規模な抗議運動が広がっている。10月17日には全国約110ヶ所でデモが行われ、参加者は内務省の集計で約55万人、主催者側の発表では約80万人に達した。パリだけでも約11万人が参加し、リヨンやマルセイユなど主要都市でも大規模な抗議活動が行われた。デモの多くは平和的に実施されたが、覆面姿の集団など一部が暴徒化し、警察と激しく衝突した。商店の略奪や建物への放火が発生し、地方都市では市庁舎など公共施設も被害を受けた。警察による拘束者は全国で2000人を超え、警察官らにも多数の負傷者が出た。マクロン大統領は18日夜、国民向けの演説を行い、生活費や教育環境の改善を求める抗議に理解を示す一方、暴力行為を厳しく非難した。政府は被害を受けた自治体や商店への緊急支援を進めるとともに、必要に応じて一部の集会を禁止するなど、治安対策を強化する。社会的な不満への対応と公共秩序の回復を同時に迫られる事態となっている。
発端となったのは、9月中旬にパリ郊外の学校で始まった高校生らによる抗議活動だった。一部の学校では、新学期が始まっても担当教員が決まらず、授業を開始できなかったり、病気や休職で教員が不在になっても代替教員を確保できず、授業が休講になったりする問題が発生している。休講が重なることで授業の進度が遅れ、学力の習得や進学に向けた準備に支障が生じる。校舎の老朽化や教育設備の不足、学級規模の大きさなどにも不満が広がっている。
こうした教育環境の改善を求める抗議活動は、ソーシャルメディアを通じて広がり、他の地域の高校生や大学生も加わった。フランスの教育への公的支出は国際的にみて必ずしも低いわけではない。それにもかかわらず、学校現場での教員不足や施設の老朽化が問題となるのは、教員の地域的な偏在や教育資源の配分など、構造的な要因があると考えられる。
特に生活費や住居費が高いパリ周辺や、低所得世帯が集中する地域では、教員の確保が難しい。教員の給与水準は、同程度の学歴を持つ他の就業者に比べて低いことも、教職の魅力を損ねる要因となっている。また、学校施設の整備については、中央政府だけでなく地方自治体も重要な役割を担っており、小学校は市町村、中学校は県、高校は地域圏が主に所管している。老朽化した校舎の改修に加えて、猛暑対策や省エネルギー改修にも対応する必要があり、地方自治体の財政負担は大きい。家庭の経済環境による教育格差も大きい。所得水準の低い地域では、学習支援や進学機会にも制約があり、教育機会の不平等が固定化しやすい。今回の抗議運動は、教育への財政投下が学校現場の環境改善や格差縮小に十分につながっていないことが、不満の背景にあると考えられる。
学生を中心に始まった抗議運動は、社会の幅広い層に広がっている。10月17日のデモには、主要な労働組合の関係者、2018年に大規模な抗議運動を展開した「黄色いベスト運動」の参加者、年金生活者、農業従事者、環境団体、左派政党の関係者などが加わった。それぞれの要求は必ずしも一致しないが、生計費負担の増加や公共サービスの質の低下、政府の経済・社会政策への不満という点で共通している。
新型コロナ危機後の供給制約やロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー価格の高騰に端を発した生計費危機の影響は今も続いている。物価上昇率がピークアウトした後も、伸び率が鈍化しただけで、その後も物価は上がり続けている。そこにイラン情勢の緊迫化に伴う原油や天然ガス価格の再高騰が加わり、家計負担が再び高まっている。特に低所得者層や若年層では、食料品、燃料費、住居費などが支出全体に占める割合が高く、物価高の影響を受けやすい。世論は今のところ抗議活動を概ね支持している。調査会社Elabeが10月16日に公表した世論調査では、生活費高騰に対する抗議運動に支持や共感を示した回答者は69%に達した。
今後の焦点は、抗議運動が持続的な社会運動に発展するかである。主要労働組合は11月5日に全国的なストライキ・デモを実施することを発表している。賃上げや公共サービスの充実、雇用維持などを掲げ、政府・民間の労働者に幅広く参加を呼び掛けている。同日は国民議会(下院)で2027年予算案の歳出部分が審議される予定の時期と重なる。主要労働組合の共同歩調が続き、抗議活動がさらに広がれば、歳出抑制策を巡って政府が野党と妥協する際の政治的な制約が強まる可能性がある。また、ストライキが長期化すれば、経済・社会活動の下押しを通じて、景気や税収への悪影響が広がる恐れがある。
政府予算案の国民負担の増加に強まる反発
今回の大規模な抗議運動は、政府が財政再建を目指す重要な時期に発生した。ルコルニュ政権が10月1日に議会へ提出した2027年予算案では、2026年に国内総生産(GDP)比で5.4%へ膨らむ見通しの財政赤字を、2027年に同5.0%に縮小することを目指している。そのために必要とされる財政改善措置は約540億ユーロに達し、このうち約430億ユーロを新たな予算措置で確保する計画だ。フランスは主要先進国の中でも税・社会保障負担が重く、さらなる増税による企業の競争力低下を避けるため、政府案は歳出抑制に重点を置いている。公務員給与の算定基準の凍結、一定額を超える年金給付の物価連動の停止、医療・社会保障支出の抑制、地方自治体への歳出削減要求などが盛り込まれた。国防など一部の優先分野では歳出を拡大する一方、その他の分野では歳出の伸びを抑制する。
問題は、巨額の財政改善措置を講じても、財政赤字の改善幅がGDP比で僅か0.4ポイントにとどまることである。現行制度の下で見込まれる歳出の増加や金利上昇に伴う利払い費の拡大が財政を圧迫しているためだ。財政・政治懸念の高まりによる金利上昇が、景気の冷え込みや利払い費の更なる増加を招く恐れがあり、財政政策の自由度は一段と低下している。
今回の抗議運動は、こうした歳出抑制策への政治的な抵抗を強める可能性がある。政府が予算成立に向けた野党の協力を取り付けたり、国民の不満を和らげたりするために、公共サービスや社会保障関連の歳出削減を緩和すれば、十分な代替財源を確保できない限り、財政再建が遠退く。他方で、財政再建を優先して厳しい歳出抑制策を維持すれば、抗議運動が長期化するリスクがある。政府は財政規律の回復と社会的な合意形成の間で難しい判断を迫られている。
ルコルニュ政権にとって最大の難関は、国民議会で過半数の議席を確保していないことだ。2027年予算を通常の議会審議によって成立させるには、野党の一部から協力を得る必要がある。予算成立の鍵を握るのは、穏健左派の社会党(PS)と極右政党・国民連合(RN)の対応である。両党は政府予算案に反対する立場では共通するが、求める政策修正の方向性が異なる。社会党は富裕層・大企業への増税や社会保障給付の維持を求める一方、国民連合は移民関連支出や欧州連合(EU)への拠出金の削減、行政経費の削減などを通じた財政再建を主張している。企業の税負担軽減や物価対策の強化も掲げているが、EU拠出金の削減などには制度上の制約もあり、財政改善計画の実現可能性は疑わしい。
社会党は前年度の予算審議で、年金改革の停止などの政策的譲歩を引き出し、他の野党が提出した内閣不信任案への賛成を見送ることで、予算成立と政権延命に協力した。だが、今年度の予算協議では、マクロン大統領の目玉政策であった年金改革停止のような大きな譲歩を勝ち取ることが難しい。来春に大統領選挙を控えており、政府への協力に慎重になっている。一方、国民連合のルペン氏は、予算不成立による混乱が長引くよりも、不完全でも予算を成立させる方が望ましいとの認識を示している。10月13日には、社会党が提出した政府予算案を本格審議前に退ける動議に国民連合が反対票を投じ、政府は極右政党の協力で最初の関門を乗り切った。
野党の協力が得られない場合、政府が憲法で認められた特別な立法手続きを利用する可能性もある。憲法49条3項に基づく手続きでは、予算案の議会採決を迂回できるが、その場合、議会は内閣不信任案を提出でき、不信任案が否決されれば法案は採択されたものと見做され、可決されれば内閣は総辞職する。また、憲法47条では、議会が予算案の提出から70日以内に審議を終えなければ、政府はオルドナンス(行政命令)によって予算を執行できると定められている。この手法は現在の政治体制(第五共和制)下で使われた前例がなく、実施すれば大きな政治的な反発を招く恐れがある。年内の予算成立が難しい場合、最低限の税徴収や行政サービスを継続する特別法を国民議会で可決する選択肢もある。こうした手段を用いれば、野党との全面的な合意がなくても予算措置を実施できる余地はある。だが、49条3項や特別法の手続きでも、野党の部分的な協力が必要で、政策的な譲歩の過程で財政再建が遠退く可能性がある。
今後の予算審議は、10月20日に歳入部分、27日に社会保障予算案、11月17日に予算案全体の採決が予定されている。ただし、審議の進展や採決の結果次第で、日程は変更される可能性がある。まずは歳入部分の審議で政府が社会党や国民連合からどの程度の協力を取り付けることができるかが最初の重要な関門となろう。
金融市場にとって重要なのは、予算が成立するかどうかだけではない。野党との妥協によって歳出抑制が緩和される場合も、実効性のある代替財源を確保できれば、必ずしも財政赤字目標の達成が難しくなるとは限らない。反対に、実現可能性が不透明な歳出削減や増税に依存すれば、見かけ上の財政改善額が確保されても、財政運営に対する信頼は回復しにくい。予算を成立させるための妥協と、財政再建策の実効性をどう両立させるかが問われている。
■大統領選では購買力と治安が二つの争点に
]今回の抗議運動は、2027年春の大統領選挙にも影響を及ぼす可能性がある。学生運動に端を発した抗議活動は、生活費の高騰や公共サービスの劣化に対する国民の不満を浮き彫りにした。一方、10月17日のデモでは一部が暴動に発展し、商店の略奪や放火被害が広がったことを受け、治安や公共秩序の維持も重要な政治課題となっている。大統領選では、購買力の改善や公共サービスの充実に加え、暴力行為への対応や警察権限のあり方を巡って、各候補者の政策上の違いが明確になる可能性がある。
今回の抗議運動に積極的に関与しているのが、極左政党・不服従のフランス(LFI)のメランション氏だ。同氏は学生による抗議活動をいち早く支持し、10月17日のデモにも参加した。教育や医療などの公共サービスへの支出拡大、富裕層への増税、年金制度の見直しなどを訴える一方、警察による抗議活動への対応を批判している。ただし、一部の参加者による暴力行為を巡っては、他の政治勢力からLFIへの批判も強まっており、平和的な抗議への支持と公共秩序の維持をどう両立させるかが問われている。
これに対し、国民連合のルペン氏は、生活費負担の軽減を訴える一方、暴動を厳しく批判し、治安対策の強化を重視している。今回の抗議運動に対する共感は左派支持層だけでなく国民連合の支持層にも広がっているが、学生運動そのものへの支持には大きな違いがある。国民連合にとっても、購買力対策と治安維持をどう具体的な政策に結びつけるかが重要な論点となる。
大統領選に向けた各政治勢力の再編も進んでいる。10月11日には、欧州議会議員のグリュックスマン氏が社会党を中心とする社会民主勢力の統一候補に選出され、メランション氏が率いる不服従のフランスとの選挙協力に慎重な姿勢を示している。一方、中道勢力ではフィリップ元首相やアタル元首相らの候補者調整がなお課題となっている。最近の世論調査では、ルペン氏が初回投票で3割超の支持を集める一方、メランション氏、グリュックスマン氏、フィリップ氏が二番手争いを繰り広げている。支持率は候補者の組み合わせによって異なり、今回の暴動後の変化も現時点では十分確認できない。
来春の大統領選が近づくことは、今後の予算協議を複雑にする。社会党は政府との妥協を通じて政策修正を実現することと、野党としての立場を維持することの間で判断を迫られる。一方、国民連合も政府予算案への反対姿勢を示しながら、予算不成立による混乱をどこまで容認するかという問題に直面している。各党の対応は、単なる予算案への賛否にとどまらず、財政責任と政府への対抗姿勢をどのように両立させるかという問題でもある。
さらに重要なのは、次期政権がどのような経済・財政政策を掲げる場合でも、厳しい財政制約から逃れられないことである。公共サービスの拡充や購買力対策を進めるには財源が必要となる一方、歳出削減や増税を進めれば社会的反発を招く可能性がある。大統領選では各候補者の政策公約だけでなく、その財源や実行可能性が問われることになる。
■財政再建と社会的合意形成の両立が最大の課題
今回の抗議運動は、2018年の黄色いベスト運動と共通する特徴を持つ。特定の政策や生活上の不満を出発点とする抗議が、政府の経済・社会政策全般への不信に結びつき、全国規模の運動へ広がったことだ。ただし、燃料税引き上げへの反発から始まった黄色いベスト運動とは異なり、今回は教育環境の改善を求める学生が運動の発端となった。若者の将来不安に、物価高や公共サービスの劣化に対する幅広い層の不満が結びついた点に特徴がある。今後の焦点は、学生と労働組合の連携がどこまで持続するか、11月5日に予定される全国的なストライキ・デモがどの程度の規模となるかである。
抗議運動の長期化は、2027年予算の成立を一段と難しくする可能性がある。政府は歳出抑制を中心とする財政再建を目指しているが、野党の協力なしに予算を成立させることは難しい。社会党は社会保障給付や公共サービスへの支出抑制に反対し、国民連合もEUの拠出金や移民関連支出の削減を中心とした財政再建策を要求している。大規模な抗議活動が続けば、野党が政府に歳出削減策の修正を求める圧力が強まろう。政府が野党の要求に応じれば、予算成立に近づく一方、十分な代替財源を確保しない限り、財政再建が遠退く。他方、憲法49条3項などを利用して議会採決を回避しようとすれば、内閣不信任や更なる社会的反発を招く恐れがある。
金融市場への波及にも注意が必要だ。フランスでは財政悪化と政治的不透明感を背景に国債が売られ、10年物国債利回りは10月中旬に5%近くまで上昇した。ドイツ国債との利回り格差(スプレッド)も一時150bpを超え、財政再建の実行可能性に対する市場の不安が高まっている。予算協議の混乱や財政再建策の後退が現実味を増せば、財政運営への信認が損なわれ、国債利回りにさらなる上昇圧力がかかる可能性がある。国債利回りの上昇は、新規発行や借り換えを通じて政府の利払い費を押し上げ、財政再建を一段と難しくする。国債市場の不安定化が政府の財政運営を制約し、それが政治的な不満や予算協議の難航につながるような、悪循環にも注意が必要だ。
来春に大統領選挙を控えていることも、予算協議の先行きを複雑にしている。各党は政府の財政運営への批判を強める一方、予算不成立による政治的混乱をどこまで容認するかという判断を迫られる。選挙戦では、購買力の改善、公共サービスの充実、治安の回復などが重要な争点となり、各候補者が独自の政策を打ち出すとみられる。しかし、財政余力が乏しいなかでは、歳出拡大や減税を掲げても、その財源をどう確保するかという問題を避けて通れない。各党が掲げる財政再建策の実現可能性も、選挙後の政策運営を考えるうえで重要となる。
フランスでは財政赤字と公的債務が膨らみ、財政再建を先送りする余地は狭まっている。しかし、社会保障や公共サービスへの歳出抑制を進めようとすれば国民の反発が強まり、議会での合意形成が難しくなる。今回の大規模抗議運動は、財政再建の必要性が高まる一方で、その負担を国民に求めるための政治的・社会的な合意形成が難しくなっているという、フランスが抱える構造的な問題を改めて浮き彫りにした。来春の大統領選で誰が政権を担うことになっても、財政規律の回復と国民生活の改善をいかに両立させるかという難題から逃れることはできない。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

