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フランス極右が財政健全化を掲げる狙い

~見え隠れする政治意図、問われる実現可能性~

田中 理

要旨
  • 政権獲得を目指すフランスの極右政党・国民連合(RN)は、2027年大統領選挙を前に代替予算案と中期財政計画を発表し、政権発足から18ヶ月以内に基礎的財政収支を均衡させ、2030年までに財政赤字の対GDP比率を3%未満に縮小する計画を明らかにした。企業減税や年金負担の軽減を維持しながら、移民への社会保障給付の抑制、EU予算への拠出金削減、行政機関の統廃合などの歳出削減を計画するが、その多くに法的・政治的な制約がある。

  • 財政規律を前面に出す背景には、大統領選挙での勝利を睨み、産業界や金融市場の警戒を和らげ、政権担当能力をアピールする狙いがある。仮に政権を獲得した場合、財政計画の実効性が国債市場から厳しく問われ、政策の軌道修正を迫られる可能性がある。

2027年春のフランス大統領選挙での勝利を目指す極右政党・国民連合(RN)は6日、政府の2027年予算案に対する代替予算案と、向こう5年間の中期財政計画を発表した。政権発足から18ヶ月以内に基礎的財政収支を均衡させ、2030年までに財政赤字の国内総生産(GDP)比を3%未満、2032年には2.5%未満に縮小する。公的債務残高のGDP比を2027年の121%前後から、2032年には112%に低下させ、財布支出のGDP比を50%未満に抑える計画だ。2032年までに2026年対比で1400億ユーロ規模の財政赤字の削減を目指すとしている。さらに、財政赤字を債務比率の安定に必要な水準に抑えるため、独自の財政ルール(黄金律)を憲法に盛り込み、政権獲得後1年程度を目途に国民投票にかける考えも示した。

かつて欧州連合(EU)の財政規律が国家主権を制約すると批判していたRNが、財政赤字の削減や政府債務の安定を政権公約の柱に据えようとしているのは大きな変化と言える。そこには大統領選挙を睨んでの政治的な意図が見え隠れする。RNのルペン氏は各種の世論調査で初回投票の支持率で他候補を圧倒的にリードしているが、決選投票での勝利を確実なものにするには、RN政権誕生を警戒する有権者にも支持を広げる必要がある。フランスの財政リスクを巡って金融市場の緊張が高まるなか、健全な財政運営をアピールすることで、政権担当能力への不安を払拭する狙いもあるのだろう。

RN案では、家計や企業への負担を軽減しながら、大規模な歳出削減を進める。年金の支給開始年齢の引き下げ、エネルギーや生活必需品の付加価値税(VAT)の引き下げ、中小企業や設備投資への税優遇などを進めるとしており、その財源として、EUへの拠出金の削減、外国人向けの社会保障給付や医療費の抑制、行政機関の整理や地方政府の効率化などを計画している。問題はその実現可能性だ。例えば、EU予算への拠出金は、加盟国政府が自由に決められるものではなく、他の加盟国との合意が必要になる。防衛や競争力の強化などでEUの役割が拡大するなか、今後検討が本格化するEUの2028~34年の次期多年度財政枠組みは、史上最高水準の予算規模となることが見込まれている。フランスが一方的に拠出金を削れば、EUや他の加盟国との衝突が避けられない。移民関連支出の削減にも限界がある。外国人への社会保障給付を制限する措置は、フランスの憲法やEU法との整合性が問われる可能性がある。また、行政機関の統廃合や公務員の削減などは比較的実行しやすい政策と言えるが、想定する規模の財政節減効果が得られるかは不透明だ。実際に政権を担当すれば、政策の軌道修正を迫られる可能性が高い。

RNは近年、企業経営者や金融市場関係者との対話の機会を増やしてきた。今年4月には、RNの首相候補であるバルデラ党首とフランス最大の経営者団体の幹部との会談も行われた。RNは、企業負担の軽減、規制緩和、行政事務の効率化など、財界が求めてきた政策を積極的に取り入れている。今回の中期財政計画も、産業界や金融市場を強く意識した内容と言える。ただ、RNの経済・財政運営に対する警戒感が払拭されたわけではない。歳出削減が計画通りに進まなかった場合、最終的に企業増税で穴埋めされるとの懸念もある、仮にRNが政権を獲得しても、EU拠出金の削減が加盟国との交渉で難航し、移民関連支出の削減が司法判断などで制約される一方、減税や年金の負担軽減措置だけが先行すれば、財政再建への信認は急速に失われかねない。

RNが掲げる財政規律への転換は、「抗議政党」から「政権を担う責任政党」への脱皮を目指す動きと位置づけられる。だが、財政再建の成否を左右するのは、支持層への負担増を避けながら、歳出削減を実際に実行できるかだ。政権を獲得すれば、EUとの交渉や司法上の制約、産業界からの要求、そして国債市場からの圧力に直面する。選挙前に掲げた財政計画をどこまで現実路線に修正できるかも、RNの政権担当能力を測る重要な試金石となる。

以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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