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回復するドイツ経済、高まる国民の不満

~成長率見通しは上方修正も、自律回復と構造改革に高い壁~

田中 理

要旨
  • ドイツ政府は2026・2027年の成長率予測を1%台前半に上方修正した。財政拡張と輸出の回復が景気を下支えする一方、個人消費や設備投資の低迷が続き、自律的な景気回復には至っていない。財政刺激が一巡する2028年には再び低成長に陥る恐れがあり、持続的な成長軌道への復帰には構造改革が不可欠だ。しかし、景気回復の恩恵が国民生活の改善につながっておらず、政府の改革方針に対する不信感が高まっている。州議会選挙での相次ぐ与党敗北も政権の求心力を低下させており、経済再生に必要な改革を実行できるかが問われている。

成長率見通しを上方修正も、景気回復の基盤は脆弱

過去数年、景気停滞が続いてきたドイツ経済に回復の兆しが広がっている。2023年にマイナス成長に転落、2024年もゼロ成長、2025年も+0.3%の成長にとどまったが、2026年に入って景気が上向いている(図表1)。こうしたなか、ドイツ政府が8日に公表した経済見通しでは、2026年の実質国内総生産(GDP)成長率を従来の+0.5%から+1.3%に、2027年を+0.9%から+1.1%に上方修正した。2028年には+0.6%へ減速すると予測しており、財政刺激による景気回復が持続的な成長につながるかは不透明だ。

図表
図表

今回の上方修正には、2026年前半の成長率が想定を上回ったことや過去のGDP統計の遡及改定が影響している。防衛・インフラ関連の歳出拡大や輸出の底堅さが景気を下支えする一方、個人消費や設備投資の足取りは鈍く、財政支出に依存しない自律的な景気回復には至っていない。9月24日に公表されたドイツ5大経済研究所の経済見通しも、2026年と2027年の成長率をそれぞれ+1.3%、+1.1%と予測しており、政府見通しは専門家の予測とも概ね一致している。

景気の先行きには下振れリスクも残る。足元では水上輸送の大動脈であるライン川の水位低下が続いており、化学、鉄鋼、エネルギー産業などへの影響が懸念される。中流の観測地点カウプの観測水位は10月8日に3センチ程度まで低下し、貨物船の積載制限やコンテナ輸送への割増料金の適用など、物流への影響が広がっている。低水位が長期化すれば、原材料・製品輸送の停滞や物流費の上昇を通じて、工業生産の下押し要因となりかねない。また、イラン情勢を巡る不透明感が長期化するなか、原油や天然ガス価格の上昇が家計の実質購買力を目減りさせ、企業収益を圧迫することも懸念される。

財政刺激から自律回復へ、構造改革が成長の鍵

メルツ政権は、防衛費の増額と5000億ユーロのインフラ特別基金を柱とする財政拡張によって景気を下支えするとともに、企業の税負担軽減、規制緩和、エネルギー・コストの引き下げ、就労促進などを通じて、ドイツの産業競争力を回復させる方針だ。ライヒェ経済相も10月8日の経済見通しの公表に際して、「景気回復は始まったものの、持続的な成長には民間投資の拡大が不可欠であり、今後数ヶ月で改革を実行に移す必要がある」と強調した。

5大研は、今回の景気回復が過去の回復局面と比較して弱く、その背景には高齢化に伴う労働供給の減少があると指摘している。社会保険料の上昇を抑え、企業の投資意欲を高める抜本的な構造改革も、現時点では十分に具体化していないとの見方を示している。財政刺激が一巡する2028年には成長率が+0.4%へ減速すると予測しており、これは政府予測の+0.6%を下回る。財政拡張によって景気回復の時間を稼ぐことはできても、その間に民間投資の拡大や生産性向上につながる改革を進めなければ、持続的な成長力の回復は望みにくい。

国民生活への恩恵乏しく、改革への不信感が高まる

景気回復とは裏腹に、国民のメルツ政権に対する評価は厳しい。1日に公表されたARDの世論調査では、メルツ政権の仕事ぶりに「満足している」との回答が10%にとどまった(図表2)。8日に公表されたZDFの世論調査では、「政府の改革が正しい方向に進んでいる」と考える人の割合は30%にとどまり、59%が「誤った方向に進んでいる」と回答した。さらに、80%が「改革の負担配分が不公平である」と考え、77%が「政府の社会保障制度改革が問題解決に大きく貢献しない」と回答しており、政府の政策運営に対する不信感が根強い。

図表
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こうした国民の評価と政府の景気判断との隔たりには、景気回復の恩恵が家計に十分に行き渡っていないことがある。5大研は景気回復が続くにもかかわらず、就業者数が減少すると予測している。政府見通しでも2026年の個人消費の伸びは+0.3%、2027年も+0.5%にとどまり、景気回復が雇用や生活水準の十分な改善につながらないことを示唆している。エネルギー価格の上昇による家計の実質購買力の圧迫も予想され、国民が景気回復を実感するには時間を要する。加えて、政府が進める年金・医療・介護などの社会保障制度改革は、将来の負担増や給付の見直しにつながる。財政拡張による景気の押し上げ効果が国民生活に十分現れる前に、改革に伴う負担への懸念が広がっていることも、政府の政策運営に対する不信感を強める一因と考えられる。

政権の求心力低下が構造改革の障害に

ドイツ経済は財政拡張と輸出の回復によって長期停滞から脱しつつあるが、景気回復の基盤はなお脆弱だ。エネルギー・コストの高止まり、労働力不足、社会保障負担の増大、産業構造転換の遅れといった構造問題が解消されなければ、財政刺激の効果が一巡した後、再び低成長に陥る恐れがある。だが、構造改革の必要性が高まる一方、メルツ政権は州議会選挙での相次ぐ与党敗北によって求心力を低下させており、改革を進める政治的な環境は厳しさを増している。企業の競争力回復と家計の負担軽減、財政の持続可能性を両立させることは容易ではなく、社会保障改革などを巡る負担配分への不満が強まれば、改革が停滞する恐れもある。財政拡張によって景気回復への道筋は見え始めたが、それを持続的な成長につなげられるかは、国民の理解と支持を得ながら構造改革を実行できるかにかかっている。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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