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2026.09.02
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半導体市場で今起こっていること
~過去のシリコンサイクルとは一線を画す、メモリ半導体の驚異の価格上昇~
阿原 健一郎
- 要旨
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- 直近5月の世界の輸出額は前年比+8.5%増加したが、その伸びの約4割を半導体が占めており、輸出額の増加を強く牽引している。半導体の輸出額増加の背景には価格の上昇があり、特に韓国に生産が集中するメモリ半導体は、直近7月の輸出物価指数が前年比+173%(米ドル建て換算で同+152%)と驚異的な価格上昇を見せている。
- 過去の「シリコンサイクル」では出荷在庫ギャップと価格が連動していたが、足もとでは需要超過が解消している(出荷在庫ギャップがマイナスに転じている)にもかかわらず価格が高騰している。従来の経験則に従えば、いずれ価格が調整局面を迎える可能性はあるものの、足もとの異例の価格上昇には従来のシリコンサイクルとは根本的に異なる力が働いていると言える。
- この異例の価格上昇は、AI向け設備投資に不可欠な高単価製品「HBM(広帯域メモリ)」へのプロダクトミックスの変化が主因だと考えられる。HBMの比率拡大に加え、生産リソースを奪われた汎用DRAMの供給が絞られることで、玉突き的な価格上昇が生じている可能性がある。
- 世界半導体市場統計(WSTS)によれば、半導体市場は2026年に前年の2倍近く拡大し、2027年には1.9兆ドルに達する見通しである。2027年に向けてHBM価格がさらに上昇するとの予測もあり、関連輸出を押し上げる一方で、社会全体のデジタル投資コストを増大させる懸念がある。
1. 際立つメモリ半導体の価格上昇
半導体の輸出額が増加している。各国の輸出額が出そろっている直近5月の世界の輸出額は前年比+8.5%の増加だったが、そのうち3.3%ptは半導体の増加によるものであった(図表1)。つまり、現状では輸出額の伸びの約4割を半導体が占めたことになる。
半導体の輸出額の増加は、AIデータセンターの設備投資に伴う需要量の増加もさることながら、足もとでは価格自体の急騰が最大のけん引役となっている。世界での半導体の輸出シェアが極めて大きい、韓国と台湾の半導体の輸出価格を確認すると、足もとで大きく価格が上昇していることがわかる(図表2)。特に、韓国に生産が集中しているメモリ半導体の価格上昇はすさまじく、直近7月の伸び率は前年比+173%(米ドル建て換算で同+152%)に達している。

2. メモリ半導体に何が起きているのか
半導体価格の変動要因としては「シリコンサイクル」がよく知られている。シリコンサイクルとは、半導体産業において経験則的に観測される、約4年周期で好況(需要超過と価格高騰)と不況(供給過剰と価格下落)を繰り返す構造的な景気循環のことである。シリコンサイクルが発生するメカニズムは、急速な技術革新を伴う新製品の普及で、半導体の一時的な需要超過(供給不足)が発生する一方、半導体の製造工場の新設や設備投資には数年のタイムラグを要するため、増産体制が整った段階で需要が一巡して供給過剰へと転じるという、需要の急変動と供給調整の遅れによるミスマッチが周期的に繰り返されるため、と言われている。
足もとのメモリ半導体の価格上昇とシリコンサイクルの関係を確認するために、図表2の韓国の輸出物価指数に、韓国の半導体の出荷在庫ギャップ(出荷指数の前年比-在庫指数の前年比)を重ね合わせたものが図表3である。

過去の推移を見ると、出荷在庫ギャップ(青線)は確かに4年周期で循環しており、輸出物価指数(赤線)とも概ね連動していた様子が確認できる。ただ、足もとでは出荷在庫ギャップがマイナスに転じて、数値上は需要超過の状態が解消されている一方、上述の通り、輸出物価指数は大きく上昇しており、かつてないほどの乖離が生じている。従来の経験則に従えば、出荷在庫ギャップの低下は「市況のピークアウトおよび価格の下落局面入り」を示唆するサインであり、いずれ価格が調整局面を迎える可能性はあるものの、足もとの異例の価格上昇には、従来のシリコンサイクルとは根本的に異なる力が働いていることが窺える。
では、半導体の供給不足が主因でないならば、なぜメモリ半導体の価格は上昇しているのか。考えられる要因の1つに、プロダクトミックス(複数の製品を生産する場合の各製品の生産比率)の変化がある。図表4で、半導体製品の分類を改めて概観すると、メモリ半導体にはDRAMやフラッシュメモリ、HBMといった製品がある。このうち、足もとの世界的なAI向け設備投資において、需要が集中しているのがHBMである。HBMは、複数のDRAMを垂直に積層して圧倒的なデータ転送速度(広帯域)と大容量を実現しており、AI向け設備投資に不可欠な基幹部品として急速に採用されている。

このHBMは、製造上の高い技術的ハードルとリソース消費の多さから、メモリ半導体のなかでも高単価な製品である。同じ記憶容量を製造する場合でも、従来の汎用DRAMに比べて2〜3倍のウェハ面積を消費するうえ、複雑な工程ゆえに製造コストが格段に嵩む。こうした供給側の物理的な制約と、AIインフラ確保を最優先する買い手側の旺盛な需要が相まって、市場ではプレミアム価格が形成されている。
半導体市場調査会社の推計によれば、HBMの平均単価は汎用DRAMの数倍に達するとされる。数量ベースの出荷の伸びが鈍化するもとで、韓国の輸出物価指数が急騰しているのは、この高単価なHBMの比率の拡大が直接的な押し上げ要因となっていると考えられる。加えて、HBMへの生産シフトにより汎用DRAMの生産が絞られ、汎用DRAMの価格にも上昇圧力がかかる。こうした「高付加価値製品へのシフト」と、それに伴う「汎用品の玉突き的な価格上昇」が重なり、足もとの驚異的な価格上昇につながっている可能性がある(注1)。
3. メモリ半導体の価格上昇がマクロ経済に与える影響
世界半導体市場統計(WSTS)の直近の見通しによれば、半導体市場は26年に前年の2倍近く拡大し、27年には2.1兆ドルにまで達する。その中心にあるのがメモリ半導体であり、市場の約59%を占めるとされている(図表5)。このようなAI主導による構造的な市場の拡大と半導体価格の高騰は、マクロ経済にプラスとマイナス双方の影響をもたらすと考えられる。

プラスの影響として考えられるのが、設備投資とハイテク輸出の力強い牽引である。2027年に向けてHBMの契約価格がさらに上昇するとの予測も出ているなか、半導体メーカーによる最先端パッケージングや検査装置等への設備投資が持続的に拡大している。これにより、関連する製造装置・材料のサプライチェーンを抱える国や地域の輸出が押し上げられる可能性がある。
一方でマイナスの影響として懸念されるのが、「デジタル・コストプッシュ型インフレ」の波及である。高付加価値製品への生産シフトと汎用品の玉突き的な価格上昇が同時に生じることで、データセンター事業者の投資負担が増加している。このコスト増がクラウドインフラや各種ソフトウェアサービスの値上げとして転嫁されれば、AI分野に直接関わらない一般企業にとってもITインフラの維持や拡張のハードルが上がり、社会全体のデジタルコストが増大するリスクが考えられる。社会全体のデジタル投資コストを押し上げる「チップフレーション」のリスクとして、今後の動向を注視していく必要がある。
【参考文献】
TrendForce, “2024 HBM Supply Bit Growth Estimated to Reach 260%, Making Up 14% of DRAM Industry”, March 18, 2024.
TrendForce, “HBM Prices to Increase by 5–10% in 2025, Accounting for Over 30% of Total DRAM Value”, May 6, 2024.
TrendForce, “Tight DRAM Supply Gives Suppliers Greater Pricing Power in HBM, with HBM Contract Prices Expected to Surge Multiples Higher in 2027”, June 2, 2026.
【注釈】
注1) 図表3の出荷在庫ギャップを見ると、足もとでは前年比で出荷の伸びが止まるとともに、在庫も積み上がり始めている(在庫は逆符号で表示しているため、マイナスになれば在庫指数が上昇していることになる)。「HBMへの生産集中で汎用品DRAMの生産を絞っているにもかかわらず在庫が増え始めている」ということになるが、解釈としては、AIサーバー向け以外の一般製造業や消費者向け製品(PC・スマートフォン等)の需要が想定以上に弱く、作られた汎用DRAMの行き場が失われつつある可能性や、汎用DRAMの価格が上昇した結果、PCメーカーなどの顧客企業が調達を手控え(在庫の消化を優先し)、半導体メーカー側に在庫が滞留し始めている可能性が考えられる。
阿原 健一郎
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。