原料高は一服も、価格転嫁は川下へ(26年7月企業物価指数)

~川上価格の反落後も、既往のコスト高の価格転嫁は続く~

新家 義貴

要旨
  • 2026年7月の国内企業物価指数は前月比+0.1%、前年比+7.2%。4~6月にみられた急速な上昇はいったん落ち着いたが、前年比では2ヵ月連続で7%台の高い伸び。
  • 石油製品、化学製品などの川上価格は反落した。ナフサやエチレン、プロピレン、キシレンなどが大きく下落し、合成樹脂も下落に転じるなど、川上・川中からの追加的な上昇圧力は一服している。
  • 一方、プラスチック製品は前月比+1.3%、前年比+9.1%と上昇が続いた。包装材や容器など消費者に近い品目にも値上げが広がっており、春先に川上で生じたコスト上昇が、時間差を伴ってより川下に位置する品目へ波及していることが示されている。
  • 先行き、国内企業物価の前年比上昇率は鈍化していく可能性が高い。ただし、既往のコスト高の価格転嫁はなお途上にあり、企業物価の鈍化が直ちに消費者物価の鈍化につながるわけではない。
  • むしろ、包装材や容器などを通じた最終消費財への価格転嫁が今後さらに顕在化することで、消費者物価上昇率は年度後半にかけて高まる可能性が高い。当面は、既往のコスト高の川下転嫁を通じた物価の上振れに警戒が必要。

1. 2ヵ月連続の前年比+7%台

本日公表された2026年7月の企業物価指数は前月比+0.1%、前年比+7.2%となった。前月比では6月の+0.5%から鈍化し、前年比も同+7.3%からわずかに低下した。夏季電力料金の影響を除けば前月比は横ばいであり、4~6月にみられた急速な上昇はいったん落ち着いている。もっとも、前年比+7.2%という伸びは依然としてかなり高い。今回の結果をもって、企業段階の物価上昇圧力が後退したと評価するのは早いだろう。

前月比の内訳では、春先に急騰した石油化学関連の川上価格が反落する一方、プラスチック製品など、より川下に位置する品目では上昇が続いた。追加的な原料価格の上振れは一服したものの、既往のコスト上昇の価格転嫁はなお続いており、その影響が川下へ広がっていることが7月の大きな特徴である。

2. 川上からの上昇圧力は一服も、既往のコスト高は川下へ波及

これまで上昇が続いていた石油・石炭製品は前月比▲2.7%と下落に転じ、ナフサは同▲19.0%と大幅に下落した。化学製品でも、エチレンが前月比▲17.1%、プロピレンが同▲17.0%、キシレンが同▲12.2%と軒並み大きく下落した。4月に中東情勢の悪化を受けて急騰したナフサや基礎化学品など石油化学関連の川上価格は、7月には明確に反落している。

その影響は川中にも及び始めた。合成樹脂は前月比▲0.7%、熱可塑性樹脂は▲1.3%となった。内訳でも、ポリエチレンが▲0.5%、ポリプロピレンが▲1.4%、ポリスチレンが▲3.3%と、主要な合成樹脂が揃って下落した。4月にナフサなど川上で始まった価格ショックが、5~6月には合成樹脂へ波及したが、7月には川上・川中ともに追加的な上昇圧力は弱まっている。

今回最も注目されるのは、こうして川上・川中価格が反落したにもかかわらず、その先に位置するプラスチック製品では価格上昇が続いていることである。7月のプラスチック製品は前月比+1.3%、前年比+9.1%となった。4月の前月比+3.0%、5月の+3.0%、6月の+1.4%に続く4か月連続の大幅上昇である。

その中身をみると、価格上昇は消費財に比較的近い段階にも広がっている。7月はプラスチックフィルム・シートが前月比+2.0%、プラスチック製容器が+2.6%、飲料用プラスチックボトルが+1.0%、プラスチック製日用品が+2.7%となった。フィルム・シートや容器は加工食品、飲料、日用品など幅広い商品の包装に使用されるほか、プラスチック製日用品はそれ自体が最終消費財に近い。これまで原料や中間財を中心に進んできた価格上昇が、包装材や容器、日用品といった、より消費者に近い段階へ及んでいることが確認できる。

4月以降の動きを振り返ると、こうした価格波及が時間差をもって進んでいることがより明確になる。4月にはナフサが前月比で約8割上昇し、まず川上で大きなコストショックが発生した。その後5、6月には、その影響がポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂へ波及。そして7月には、ナフサが前月比▲19.0%、合成樹脂も▲0.7%と反落したにもかかわらず、川下のプラスチック製品はなお+1.3%と上昇が続いている。川上で生じたコストショックが、川中を経て、足元では川下へと波及している構図が鮮明になっている。

企業は原材料を仕入れてから生産に投入するほか、取引先への値上げには価格交渉や契約価格の改定を伴う。このため、足元の原料価格だけではなく、数か月前に高値で調達した原材料のコストが現在の販売価格に反映されることも多い。川上価格がすでに反落しているにもかかわらず川下価格が上昇していることは、既往の原料高の転嫁がなお進行中であることを示している。

さらに、この波及が7月で終わるとも限らない。石油化学関連の川上価格はピークアウトしつつあるとはいえ価格水準はまだ高いこと、企業ごとに価格交渉のタイミングが異なることなどを踏まえれば、企業の価格転嫁はまだ終了していないとみるのが妥当だろう。既往のコスト上昇が、今後遅れて川下に転嫁される余地は大きいと考えられる。

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3. 消費者物価は上昇率を高める可能性が大

ここまでみたように、7月の特徴は、石油・化学など川上価格が低下する一方、春先に生じたコスト上昇の影響が、より川下段階の品目へさらに広がった点にある。春先に生じた石油化学関連の原材料価格ショックは一服したが、その影響自体が消えたわけではなく、形を変えながら消費者に近い段階へ移っている。

また、川上価格が反落したとはいえ、企業が直面するコスト水準はなお高い。7月の前年比上昇率は、ナフサが+51.7%、合成樹脂が+28.0%、ポリエチレンが+38.2%、ポリプロピレンが+47.1%となっている。企業には高値で調達した原材料のコストが残っており、足元の原料価格低下の効果が川下の販売価格に表れるまでには時間を要するとみられる。

こうした点を踏まえると、国内企業物価と消費者物価の前年比上昇率は、今後しばらく異なる方向をたどる可能性がある。企業物価については、石油化学関連の川上価格の反落に加え、8月以降は電気・ガス料金支援も押し下げ要因となることから、高い伸びは残るものの、前年比上昇率は6~8月をピークに徐々に鈍化していく可能性が高い。

一方、消費者物価には、これから既往のコスト高の影響がより強く表れるとみられる。プラスチックフィルムや容器などは消費者が直接購入する品目ではないが、加工食品、飲料、日用品など幅広い消費財に使われている。商品の価格は中身の原材料だけでなく、「包む、運ぶ、冷やす、並べる」ための周辺コストにも左右される。

こうしたコストの転嫁が最終販売価格へ進むことで、企業物価の伸びが鈍化する局面でも、消費者物価上昇率は年度後半にかけてむしろ高まる可能性が高い。当面、既往のコスト高の川下転嫁を通じた物価の上振れに警戒が必要な局面が続きそうだ。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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