米国:非製造業は好調を維持(2026年7月ISM)

~地政学リスクの緩和傾向も根強いインフレ圧力が持続~

桂畑 誠治

要旨
  • 総合指数は54.1(前月54.0)と微増。内需の強さと地政学リスクの緩和が下支えとなり、分岐点50を大きく上回る好調さを維持。

  • 「事業活動(59.1)」や「新規受注(57.2)」が強力に牽引する一方、「雇用(47.4)」はAI置換やオフショア化等の構造要因もあり縮小圏へ低下。

  • サプライチェーンの混乱には改善の兆しが見られるものの、「仕入価格(70.3)」が高止まりしており、企業の強固なコスト圧力を裏付け。

  • 2026年7-9月期は関税や高インフレの逆風を抱えつつも、堅調な内需により「小幅加速(巡航速度以上の拡大)」の基調が継続。

目次

1. 拡大ペースが小幅加速、堅調な国内需要によって高水準を維持

26年7月のISM非製造業景気指数(季節調整値)は54.1となり、前月の54.0から0.1ポイント微増した。非製造業部門の拡大ペース加速が示されたものの、市場予想中央値(54.5)はやや下回る結果となった。

足元ではトランプ政権による関税賦課への警戒感が継続しているものの、米国とイランの停戦合意交渉の継続に伴うエネルギー価格の下落や、ホルムズ海峡の物流改善の動きなど、地政学的な先行き不確実性は緩和に向かい始めている。前倒し発注の反動増勢が一段落する一方、底堅い米国内需要が強力な下支えとなっており、指数自体は景気拡大・縮小の分岐点である50を大きく上回る高水準を維持している。

2. 内需の強靭さと供給制約の混在

7月の調査結果を項目別にみると、需要側と供給側の動向に明瞭なコントラストが見られる。雇用が47.4(前月比▲3.8ポイント)とAI置換やオフショア化により縮小圏に低下し、入荷遅延が52.8(同▲1.6ポイント)と低下しサプライチェーン改善を示した一方、事業活動が59.1(同+3.7ポイント)と拡大ペースを加速したうえ、新規受注が57.2(同+2.1ポイント)と上昇し14カ月連続で拡大した。総合指数への寄与度で見ても、雇用(▲0.95ポイント)、入荷遅延(▲0.40ポイント)が押し下げ要因となった一方、事業活動(+0.93ポイント)、新規受注(+0.53ポイント)が押し上げ要因となっている。

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各項目の詳細な動向をみると、新規受注や事業活動は政策や地政学リスクの不確実性を背景に月ごとの変動が大きくなっているものの、トレンドとしての平均値は切り上がっており、サービス需要の基調的な強さを裏付けている。地政学リスク下においても非製造業部門の活動はきわめて活発である。また、雇用指数は再び縮小圏(50未満)へ低下した。ただし、企業側の急速な人員削減というよりは、効率化や構造変化に伴う慎重な採用姿勢を反映した小幅な縮小にとどまっており、労働市場全体としては底堅さを保っている。

供給関係では、トラック輸送における慢性的なドライバー不足が続いているものの、中東情勢の鎮静化(短期間の限定的な戦闘行為にとどまったこと)に伴うグローバルサプライチェーンの改善を受け、入荷遅延の上昇(悪化)には歯止めがかかった。一方で、仕入価格は上昇して高止まりしており、根強いインフレ圧力が企業の利益率を圧迫し続けている。

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3. 企業コメントに見る「地政学リスク」と「業種間の二極化」

企業からの定性コメントを総合すると、「強いコスト圧迫や調達難などの逆風を受けつつも、底堅い需要に支えられ耐性を維持している」実態が浮き彫りになる。マクロ経済全体の深刻な失速には至っていないが、業種による明暗(二極化)が顕著である。

① 苦戦・収益圧迫が目立つ業種

  • 建設:値引き対応を行っているにもかかわらず売上減少が継続している。全方位からのコスト高に直面。

  • 農林水産業:年間の全体的な取引量が減少傾向にある。

② 供給網課題・地政学リスクを警戒する業種

  • 公務・行政:中東紛争に端を発する原油・資材価格の高騰を警戒。公共事業予算への影響を危惧。

  • 小売:店舗用ネットワーク機器のリードタイムが4〜6か月と長期化。新店出店に合わせた大幅な前倒し発注を余儀なくされている。

  • 公益:電力インフラ資材の需要過多による製造枠争奪戦が発生している。サプライヤーからの前払金要求など取引条件が厳格化した。

③ 堅調・業績が上向いている業種

  • 医療・社会扶助:高度急性期医療での患者数・収益・業務量がいずれも増加。サプライチェーンと雇用の安定化も好材料。

  • 金融・保険:金利・インフレへの警戒感はあるものの、健全な法人需要に支えられ銀行取引は良好。

  • 卸売:資材不足や運賃高騰、顧客からの値上げ抵抗はあるものの、当初予想を上回り堅調。

  • 事業支援サービス:小規模企業を中心にビジネスの底打ち・回復傾向が見られる。

  • 運輸・倉庫:燃料費や人件費の上昇による価格転嫁が続いているが、需要自体は極めて安定。

4. 構成項目の詳細分析

●新規受注

新規受注指数は上昇し、高い水準を維持した。14カ月連続で拡大圏を維持した。拡大を報告した業種は18業種中13業種(前月12業種)に増加し、縮小は3業種(同4業種)に減少した。

7月に新規受注が拡大した13業種では、事業支援サービス、教育サービス、公務・行政、鉱業が拡大に転じたほか、運輸・倉庫、小売、宿泊・飲食サービス、情報、金融・保険、専門・科学・技術サービス、建設、公益が拡大を継続した(下線は拡大・縮小が2カ月以上続いたことを示す、以下同様)。

7月に新規受注が減少した3業種は、農林水産業、不動産・賃貸・リース、医療・社会扶助であった(前月2業種)。なお、芸術・娯楽・レクリエーション、卸売、その他サービスは横ばいとなった。

企業コメントでは、新会計年度に向けた予算執行(大型改修プロジェクト)や、ワールドカップといった大型スポーツイベントに関連した特需を指摘する声が目立った。

●事業活動

事業活動指数は高水準でさらに上昇した。拡大業種は18業種中13業種(前月13業種)へと横ばい、縮小は2業種(同4業種)に減少した。

7月に事業活動の増加を報告した業種をみると、関税の影響を受けやすい卸売が価格上昇リスクの抑制に動いたことで拡大を継続したほか、小売、情報、鉱業、運輸・倉庫、建設、不動産・賃貸・リース、公益、金融・保険、専門・科学・技術サービスが好調を維持した。また、事業支援サービス、教育サービス、公務・行政が拡大に転じている。

一方、縮小した2業種は農林水産業、その他サービス。なお、芸術・娯楽・レクリエーション、医療・社会扶助、宿泊・飲食サービスは横ばいとなった。

コメントでは、「夏季の需要増(医療等)」という季節要因の一方で、「猛暑や山火事による外出控え・顧客活動の停滞」といった天候不順リスクも報告された。

●雇用

雇用指数は47.4と再び縮小圏へ低下した。拡大業種数は18業種中7業種(前月9業種)に減少した一方、縮小業種数は8業種(同5業種)へと増加した。

7月に雇用の増加を報告した7業種では、建設、小売、運輸・倉庫、卸売が拡大を継続し、公益、情報、公務・行政が拡大に転じた。

一方、7月に雇用が減少したと報告された8業種は、鉱業、金融・保険、その他サービス、医療・社会扶助、不動産・賃貸・リース、教育サービス、事業支援、専門・科学・技術サービスであった。なお、宿泊・飲食サービス、農林水産業は横ばいとなった。

コメントでは、単なる景気情勢の変化にとどまらず、「AI導入に伴う省力化・省人化」や「コスト削減を目的としたインド等の低コスト地域へのオフショア移管・H-1Bビザ活用」といった構造的シフトを理由に挙げるコメントが散見された。

●入荷遅延

入荷遅延は小幅に低下(改善方向)したものの50を上回っており、物流の停滞感が継続していることが示された。回答者からのコメントには、小規模サプライヤーの財務ストレスに伴う出荷遅延・漏れの発生や、特定電気導体などのリードタイムが従来の2倍に跳ね上がっている実態が報告されている。

●輸出入

サブ項目をみると、新規輸出受注は52.0(前月比+1.6ポイント)と上昇し、サービス輸出の拡大を示した。中南米や欧州向けの需要、ならびに低価格帯製品の需要増が牽引し拡大した。

一方、輸入は49.4(同▲1.7ポイント)と縮小圏へ低下した。新製品投入に伴う海外発注や変圧器調達などの動きはあるものの、全体として調達抑制の動きが見られた。

●物価

インフレ指標である仕入価格指数は70.3と70を超える著しい高水準でさらに前月比2.6ポイント上昇した。

価格上昇を報告した業種は17業種(前月16業種)に達し、価格下落を報告した業種は5カ月連続でゼロとなった。

価格が上昇した品目は、銅、メモリ製品、燃料、ガソリン、ディーゼル、輸送費に加え、木材、アルミニウム、ソフトウェアライセンスなど多岐にわたる。メモリ部品、電子部品、電線・ケーブルなどは供給不足も深刻な状況。

5. 7月に総合で拡大を報告した業種は18業種中13業種に減少

7月に総合(景況動向全体)で拡大を報告した業種は、18業種中13業種(前月14業種)に減少した。

拡大した業種は、勢いの強い順に、小売、運輸・倉庫、卸売、事業支援サービス、情報、建設、宿泊・飲食サービス、公務・行政、公益、教育サービス、鉱業、専門・科学・技術サービス、金融・保険と続いた。

一方、縮小した業種は農林水産業、その他サービス、医療・社会扶助、不動産・賃貸・リースの4業種(前月4業種)だった。芸術・娯楽・レクリエーションは前月から横ばいとなった。

6. 7-9月期の基調は「小幅加速」を示唆

米国経済全体の景気動向を示す「製造業と非製造業を合算した“ISM総合景気指数”」は、7月に54.3と前月から0.4ポイント上昇し、米国経済全体の拡大ペース加速を示した。

四半期ベースの推移で見ると、7月の製造業指数が55.6(4-6月期53.3)へ上昇、非製造業指数が54.1(同54.0)へ着実に底上げされている。これにより、同期のISM総合景気指数は54.3(同54.0)へと切り上がった。

2026年7-9月期の米経済は、関税圧力や高インフレといった逆風を抱えつつも、地政学リスクに伴う供給制約の緩和と強靭な個人消費・内需に支えられ、基調としては「供給制約緩和に伴う小幅加速(マイルドな巡航速度以上の拡大)」の局面にあると判断できる。

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桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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