骨太方針2026のポイント(総論編)

~責任ある積極財政の具体化と「成長重視」へのギアチェンジ~

星野 卓也

要旨
  • 2026年の骨太方針(原案)が示された。高市政権の「成長重視」姿勢が強く反映された内容であり、官民投資の強化やそのための財政計画、編成手法等の抜本改革に関する記載に紙幅が割かれている。

  • 昨年と比較すると「地域」や「賃上げ」に関する言及が如実に減少。石破前首相の地方創生や最低賃金引き上げから投資や成長を重視した内容に。また「財政健全化」の語がなくなる一方、「財政の持続可能性」や「市場の信認」が頻繁に記載。「黒字=健全」⇔「赤字=不健全」というニュアンスにつながる言葉遣いを避けており、高市政権の財政政策スタンスを象徴。

目次

骨太方針2026の原案が示される:「成長重視」姿勢と投資推進を前面に

6月30日の経済財政諮問会議において、2026年の骨太方針の原案が示された。毎年の経済財政政策の指針を示す文書であり、今後の経済財政政策の大きな流れを規定するものだ。今後、与党などとの調整を経て、7月中に閣議決定に至る見込みだ。今回の骨太方針は高市首相就任後初の骨太方針策定であり、特に経済財政政策関連での打ち出しに注目が集まっていた。

図表1では、骨太の構成(目次)について、今回公表された原案と2025年版(前石破政権下で策定)を対比している。2026版、2025版いずれも4章構成であり、①マクロ経済運営の基本的姿勢、②経済政策で重視する点や分野、③中長期の財政計画、④来年度予算編成に向けた考え方について記載されている点は変わらない。しかし、その内容は様変わりしている。昨年石破政権は第2章において企業による「賃上げ」や「地方創生」を前面に押し出していた。今回の骨太では従来から高市首相が推進する「強い経済」・「責任ある積極財政」に基づく官民連携投資、危機管理投資、成長投資の重点化が打ち出されている。第3章ではそれを実現するための財政計画、編成手法等の抜本的改革に関する記載がなされている点が特徴である。

それ以前に岸田元首相の掲げた「新しい資本主義」も、世界的な産業政策重視の潮流の強まりのもと、官民連携投資や財政の単年度主義の弊害是正、賃上げに重点を置く「大きな政府型」の経済政策へのシフトがなされたものであった。石破前首相は岸田首相路線を踏襲しつつ、企業から労働者への分配、地方経済に軸足を置いたのに対して、高市首相は官民連携投資と財政計画、予算編成の考え方の変革に重点を置く。

図表
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ワードクラウドで眺める骨太方針:最上位ワードは昨年の「地域」から「投資」に

この点は、骨太文書のテキスト分析からも鮮明に浮かび上がる。図表2では、2026年版と2025年版の骨太方針文書からワードクラウドを作成した。非関連語などを除いたベースでの最頻出語は、昨年「地域」(2025年184回→2026年108回)であったのに対して、今回は「投資」(同60回→157回)であった。「成長」(同58回→139回)や「財政」(同91回→115回)、「戦略」(同58回→99回)の頻度も多い。投資、成長戦略の重視や、それに基づく財政運営の見直しに重点を置いた今回骨太の特色を如実に表している。

このほかの特徴としては、「賃上げ」(同48回→10回)、「最低賃金」(同14回→5回)が減少した点が挙げられる。石破首相が最低賃金の引き上げ加速と賃上げ促進を重点施策に据えたのに対して、投資重視の高市首相の骨太では、これらの出現頻度が大きく低下している。

また、「財政健全化」(同11回→0回)が消える一方、「財政の持続可能性」(同0回→13回)や「市場の信認」(同0回→9回)が頻繁に出現するようになっている。ここには高市政権の財政政策観が表れているとみられる。つまり、従来の「財政黒字=健全なもの」「財政赤字=不健全なもの」というニュアンスにつながる「財政健全化」という言葉を使うことを意図的に避けたのだろう。財政の持続可能性や市場の信認を確保する範囲において、一定の財政赤字を許容するという高市政権の財政政策スタンスを象徴する語の入れ替えといえよう。

「デジタル」「DX」「AI」「AX」に関する語の使われ方にも変化がみられる。2025年版では「デジタル」(同77回→17回)や「DX」(同50回→16回)が多用されていたが、2026年版では大きく減少した。一方で、「AI」(同43回→43回)は横ばいであるものの、「AX」(AIトランスフォーメーション)は同0回→8回、「フィジカルAI」も同0回→3回と新たに登場。AIの進化が急速に進むもと、ロボティクスとの融合も見据えて成長戦略の中の位置づけが高まっている。

図表
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主要分野のポイント

図表3では文書の内容を網羅的にまとめている。やはり最大のポイントは財政運営である。財政目標について、従来のPB黒字化目標を単年度で機械的に追うのではなく、国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下を中核に据える形へ見直された。PBは引き続き「確認指標」として残るものの、景気変動や危機管理投資・成長投資の必要性に応じて一時的な悪化も許容し得るとされ、財政規律の軸足が組み替えられたといえる。

また、令和9年度を「責任ある積極財政元年」と位置付け、2027~2040年度を対象とする中長期経済財政計画を新設した点も重要である。成長戦略として実施される政府の危機管理投資・成長投資を予算編成や財政運営に明確に接続する方針であり、補正予算依存からの脱却、複数年度で予見可能な投資支援、「強く豊かな日本」投資枠の創設などが掲げられている。市場の信認確保についても、債務残高対GDP比、PB、利払い費、国債発行額などを多角的に分析・検証し、透明性高く説明する旨が明記された。(詳細は後日別稿を執筆予定)

賃上げについては、2029年度までに実質賃金で年1%程度の上昇を目指す方針は維持された。最低賃金については、昨年の「2020年代に全国平均1,500円」という目標を踏まえつつ、今年は「遅くとも2030年代前半のできる限り早期」とされ、達成時期の表現は後ずれしている。地方創生(地域間格差是正)のニュアンスも含みつつ、急ピッチでの最低賃金引き上げを図った石破政権の路線を修正した形である。

地方政策も看板が変わった。昨年は「地方創生2.0」のもと、ふるさと住民登録制度や関係人口など、地方創生色の強い施策が前面に出ていた。今年は独立節としての地方創生は消え、「強い地域経済の構築」の中で「地域未来戦略」として再編された。地域未来交付金の拡充、戦略産業クラスター、国内投資マップ、インフラ整備など、地方を分配や移住・関係人口の文脈で捉えるというより、投資と産業集積を通じて地域経済の稼ぐ力を高める方向に重心が移っている。

また、社会保障については社会保障負担率の上昇抑制目標の検討や高齢者の窓口負担の見直しが掲げられるなど、効率化のトーンが弱まっているわけではない点がポイントだろう。社会保障の効率化を進めつつ、成長投資を含めた非社会保障に重点を置く形で財政支出の在り方をより「成長重視」に置き換える方向性となっている。

図表
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星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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