- 要旨
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日経平均株価は先行き12ヶ月57,000円程度で推移するだろう
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USD/JPYは先行き12ヶ月155円程度で推移するだろう
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日銀は利上げを続け、政策金利は26年7月に1.0%、27年7月に1.5%超となろう
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FEDはFF金利を26年6月に3.5%まで引き下げた後、様子見に転じるだろう
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日銀短観(3月調査)によると業況判断DIは、大企業製造業が+17と前回調査対比1pt上昇し、市場予想を1pt上回った。イラン情勢の悪化に伴う原油高は、調査回答時点でさほど影響を与えていなかったと判断される。類似例として東日本大震災が発生した2011年3月調査を思い出すと、当時、3月調査時点では「現況」「先行き」ともに落ち込みは観察されず、影響が表面化したのは6月調査であった。6月調査まで原油高が長引くようだと、次回の短観は悪化方向の動きが予想される。なお、今回の調査では2~3年に一度実施される調査対象企業の定例見直しがあった。大企業製造業、大企業非製造業などヘッドラインに近いDIに大きな変化はなかったものの、業種別のDIは所々に大きな変化が認められた。
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業況判断が改善した背景としては、この間、米国のAI関連投資が勢いを増したことで、日本企業の手掛けるAI関連製品の需要が誘発されたことが大きいだろう。また政策的な重要性が増している防衛(含む造船)、インフラなどでも良好な景況感が確認できた。
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大企業非製造業は+36と前回調査対比横ばいで、1991年以来の高水準を維持した。インバウンド需要に頭打ち感がみられる一方、旺盛なDX関連投資、高止まりする建設需要が背景にあるとみられる。また高市政権に対する期待もあってか消費者心理の好転が観察される下、個人消費が持ち直し傾向にあることも景況感改善に寄与したとみられる。ガソリンの旧暫定税率廃止に加え、お米や生鮮食品の価格が安定したことも追い風になった形だ。先行き判断DIは大企業製造業が+14となり、現況対比3pt低下。大企業非製造業は+29と現況対比7pt低下と慎重な見通しであったが、これはこのところ毎回のように観察される、いわゆる統計のクセであり、必ずしも原油高の影響を懸念して景気の先行きに慎重になっている訳ではないと推察される。

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業種別にみると、大企業製造業では自動車(12月調査:+9→3月調査:+13、以下同じ)が改善。2025年9月にトランプ関税が穏健化(27.5%→15%)し、輸出採算が改善するもと、米国向けの輸出が底堅さを維持していることで、業況が上向いたと判断される。その他ではAI関連需要に支えられた電気機械(+21→+22)がプラス幅を拡大。堅調な設備投資計画を背景に、はん用機械(+27→+34)、生産用機械(+16→+26)が高水準から一段と改善したほか、業務用機械(+9→+15)も堅調に推移した。非鉄金属(+13→+23)はAI用途の電線需要が高まったほか、在庫評価益も押し上げに効いたとみられる。食料品(+9→+9)は値上げが奏功してプラス圏を維持した。造船・重機(+35→+35)はさすがに一服感がみられるが、造船、国防、インフラ再構築の重要性が増すなか、DIは異例の高水準にある。他方、化学(+19→+14)は低下した。汎用性の高い品目は中国勢の安値攻勢により国際市況が軟化し収益性が低下したとみられる。鉄鋼(▲15→▲15)も中国勢との競合がきついなか、冴えなかった。
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大企業非製造業では、堅調なDX関連投資を背景に情報サービス(+53→+52)、通信(+29→+33)、対事業所サービス(+50→+43)の強さが続いた。各種デジタル化の実装に加え、サイバーセキュリティを強化する動きが背景にあろう。省力化需要の強いサービス業向けも需要が高まっていると判断される。この間、旺盛な開発・建替え需要を背景に不動産(+53→+55)と建設(+54→+55)の著しい強さは持続した。不動産大手はオフィス需要の回復と都市部の住宅販売が好調。現時点で日銀の利上げが不動産市況を下押しした様子は見受けられない。ゼネコンは採算重視路線への変更が奏功し、各社は利益率が上向いている。BtoC業種に目を向けると、宿泊・飲食サービス(+16→+34)が復活をみせた。中国からのインバウンド需要低下を、その他地域からの訪日需要が埋める形となっており、全体としてインバウンド需要は確りしているとみられる。そうした下で、対個人サービス(+33→+33)は高水準を維持した。小売(+21→+26)も大きめの改善を示した。日銀算出の消費活動指数は、実質値が緩やかな増加、名目値は値上げによってはっきりとした拡大が続いており、売上目標を達成できた企業は多かったと推察される。ガソリンの旧暫定税率廃止、電気ガスの補助によって消費者の実質的な購買力が増加し、裁量的支出が回復した可能性が指摘できる。
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TOPIX構成銘柄と属性の近い大企業全産業の業況判断DIは+27と、前回調査対比2pt上昇。TOPIXの予想EPSと密接に連動する売上高経常利益率の当年度計画は+9.69%と前回調査から上昇。高付加価値化と値上げによって収益力は一段と高まっている。

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なお日銀短観の調査は、前月からの変化を問うPMI等と異なり、比較時点を問わず、単刀直入に現時点における景況感を尋ねる形式である。そのため、回答にあたって自社の収益計画を基準にしている企業は多いと考えられる。自社計画を超過していれば「良い」「さほど良くない」「悪い」の3択から「良い」を選択するはずであるから、そうであれば業況判断DIの改善は業績上方修正の余地と考えることができる。短観とアナリスト予想の方向感が一致するのはそうした背景があるからではないか。
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次にインフレ関連項目に目を向けると、企業の物価見通し(全規模・全産業、1年後)は、販売価格見通し(≒自社製品・サービスの価格設定スタンス)が物価見通し(≒日本の物価上昇率)を上回る傾向が続いた。物価見通しの+2.6%に対して、販売価格見通しは+3.1%となっており、ここから判断すると、来年以降も積極的な価格転嫁が続くと予想される。こうした「販売価格見通し>物価見通し」という構図はコロナ期以前には観察されなかった新たなものであり、値上げによって収益を確保する企業行動が定着してきたことを窺わせる。ベア継続や最低賃金上昇といった自社の労働コスト増加に加え、仕入価格の値上げなど、社内外のコスト増を織り込み、3年や5年後の販売価格計画を引き上げる企業行動が背景にあろう。今回、販売価格見通しと物価見通しが共に上向いたことは、日銀の利上げを正当化する。
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労働市場由来のインフレ圧力を計測するために雇用人員判断DI(全規模)に目を向けると、全産業では▲38と前回調査対比で横ばいであった。労働集約的な非製造業においては現況が▲45、先行きが▲48と深刻な領域にあり、人材争奪戦が熾烈さを増している現状が浮き彫りとなった。
- 最後に、植田総裁が次回の利上げ判断にあたって注目すると言及していた企業金融関連項目に目を向けると、借入金利水準判断DI(全規模・全産業、以下同じ)が+63へと上昇し、そうしたもとで貸出態度判断DIは+13へと1pt低下し、やや厳格化した。資金繰り判断DIは横ばいを維持した。この指標を見る限り、既往の利上げの累積的な効果は限定的と言える。もっとも、貸出態度判断DIが1桁台に突入するなど、金融引き締めの効果が可視化されてくるようだと、利上げの重要な判断材料になってくるのではないか。
藤代 宏一
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