インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

シンガポール、2025年成長率は+4.8%と4年ぶりの高水準に

~世界的なAI需要の旺盛さがけん引役となるも、先行きには不透明要因が山積~

西濵 徹

要旨
  • シンガポール経済は、貿易・サービス産業への依存度が高く外部環境の影響を受けやすいため、トランプ関税による悪影響が懸念された。しかし、対米輸出への直接的影響は限定的なうえ、関税発動前の駆け込み需要や輸出の好調さ、インフレ沈静化を背景とした金融緩和姿勢の維持で内需環境も良好に推移した。
  • 内需・外需双方の好調を受け、10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+7.79%とプラス成長を維持し、製造業やサービス業を中心に生産活動が拡大した。とりわけ世界的なAI関連需要を背景とした半導体などの生産拡大が成長をけん引し、2025年通年の経済成長率も+4.8%と4年ぶりの高成長となった。
  • 今後は、関税発動前の駆け込み需要の反動、対米輸出環境の悪化、中国経済の減速と競争激化による「デフレの輸出」などが下押し要因となることが懸念される。高成長の持続は難しくなる可能性が高く、当面の金融政策は様子見が見込まれるが、追加緩和に動く余地があり、金融市場にも影響を与えるであろう。

シンガポール経済を巡っては、約600万人という人口規模の小ささに加え、都市国家という特徴も重なり、構造面で貿易依存度が極めて高い。さらに、金融や貿易をはじめとするサービス産業への依存度も高く、世界経済や国際金融市場を取り巻く環境の影響を受けやすい特徴を有する。こうしたことから、トランプ米政権の関税政策が世界経済を揺さぶることが警戒されるなか、同国経済に悪影響が及ぶことが懸念された。なお、シンガポールは米国にとって数少ない貿易黒字国であり、米国は同国に対する相互関税を一律分と同水準となる10%とするなど、直接的な影響は限定的なものに抑えられると期待される。一方、近年の米中摩擦の背後でASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は『漁夫の利』を得てきたとされ、米国はASEAN主要国に対する相互関税を軒並み高水準としたため、域内貿易の萎縮が間接的に悪影響を与えることが懸念された。その後の各国との協議を経て、ASEAN主要国に対する相互関税は概ね19~20%に引き下げられるとともに、トランプ関税の本格発動を前に各国の輸出が押し上げられる駆け込みの動きが顕在化し、シンガポールの輸出も活況を呈する動きが続いた。さらに、コロナ禍以降はインフレが高止まりする展開が続いたものの、商品市況の上昇一服に加え、国際金融市場における米ドル安を受けた通貨SGドル高が輸入物価を抑えるなか、足元のインフレは低水準で推移するなど落ち着いた動きをみせている。よって、MAS(シンガポール通貨庁)は昨年1月と4月に金融政策を緩和方向にシフトさせたのち、7月と10月は様子見を図るなど緩和姿勢を維持することが可能となるなど、内需を巡る環境も良好に推移している。

図表
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このように、内・外需双方で好調な動きが確認されていることを反映して、昨年10-12月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+7.79%と前期(同+10.07%)からペースは鈍化するも3四半期連続のプラス成長で推移している。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+5.7%と前期(同+4.3%)から加速して1年強ぶりの高い伸びとなるなど、足元の景気は回復の動きを強めている。分野別の生産動向をみると、公共投資の進捗一服を受けて建設業の生産はわずかに減少する一方、世界貿易が引き続き活発な動きをみせるなかで製造業の生産は旺盛な動きをみせるとともに、サービス業の生産も堅調に推移している。製造業のなかでは、バイオ・医薬品関連や電気機械関連での生産拡大の動きがけん引役となっており、なかでも世界的なAI(人工知能)関連需要の旺盛さを反映して半導体やサーバーなどで生産が押し上げられる動きが確認されている。7-9月までの景気が堅調な推移をみせたことを受けて、同国政府は昨年の経済成長率見通しを4%前後に上方修正していたものの、昨年の経済成長率は+4.8%とこれを上回るとともに、4年ぶりの高成長となるなど好調さが確認された。なお、足元の景気が予想外の好調さをみせた背景には、トランプ関税の本格発動のタイミングが後ろ倒しされたことに加え、その影響が小幅に留まっていること、そして、世界的なAI関連需要が想定以上であったことが影響している。

図表
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ただし、先行きについては、これまでトランプ関税の本格発動を前にした駆け込みを反映して堅調な動きをみせてきた世界貿易に反動が出ることが懸念されるとともに、対米輸出のハードルが高まることは避けられない。一方、近年のASEAN経済は中国による高い経済成長の実現を追い風に、対中輸出が拡大して景気が後押しされる流れがみられた。しかし、足元の中国経済の勢いに陰りがみられるとともに、中国国内では過剰生産能力を背景とする過当競争(内巻(ネイジュアン))が社会問題化して内需は勢いを欠く展開が続いている。こうしたなか、中国国内における内巻の勝者は価格のみならず、技術面でも競争力を高めており、製造業を中心にASEAN諸国の企業は中国企業との競争にこれまで以上に巻き込まれるなど、中国による『デフレの輸出』に晒されることも懸念される。よって、今年のシンガポール経済が昨年同様に高い経済成長を実現するハードルは高まっていると捉えられる。足元の通貨SGドルのNEER(名目実効為替レート)は高止まりしており、MASにとっては緩和余地が拡大していると判断できるなか、今月の定例会合では様子見を維持すると見込まれるものの、先行きは追加緩和に動く可能性もある。そうした動きが先行きの金融市場を取り巻く環境に影響を与えることにも留意する必要があろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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