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2025.11.14
日本経済
金融政策・日銀
景気全般
賃金
賃金指標
「春闘の初動モメンタム」をどう読むか
~春闘の初動から考える日銀利上げのタイミング~
新家 義貴
- 要旨
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連合の春闘基本構想は前年並みの「ベア3%以上、定昇込み5%以上、中小6%以上」を掲げており、賃上げ継続への意欲が示されている。経団連の経労委報告原案でも「賃上げのさらなる定着」が強調され、トランプ関税など不透明要因があっても賃上げ姿勢のトーンダウンは見られない。
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UAゼンセンなど産別組合も現時点で2025年並みの要求水準を維持している。自動車総連をはじめ主要産別の要求動向が、今後のトランプ関税の影響度や春闘相場観を占う焦点となる。
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ESPフォーキャスト調査では2026年賃上げ率は4.88%と予測され、前年比鈍化ながら歴史的には高水準との評価が主流。人手不足と物価高を背景に高い賃上げは続くとの見方が多い。
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日銀は今後の各種イベントや短観、支店長会議等を通じて春闘の「初動のモメンタム」と賃上げの持続性を確認しつつ利上げ時期を判断するとみられる。12月会合での利上げが最有力と予想するが、1月の支店長会議後に判断が持ち越される可能性も残る。
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1.現時点での「初動のモメンタム」を把握する
日本銀行の植田総裁が10月30日の定例会見で、春闘の「初動のモメンタムを確認したい」と発言したことで、2026年春闘への注目度が一段と高まっている。筆者は8月26日発行のレポート(2026年春闘のスケジュールと金融政策展望 ~2026年春闘から考える利上げタイミング~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所)で、2026年春闘の主要スケジュールとポイントを整理したが、その後、実際に足元では春闘に向けて労使の動きが具体化してきた。本稿では、現時点で確認できる「初動のモメンタム」を整理した上で、今後の注目点を示していきたい。
賃上げ継続への意欲が示された春闘基本構想
春闘の集中回答日は2026年の3月中旬だが、実際の交渉に向けての動きは既に始まっている。2026年春闘に向けて最初に注目されたイベントは、連合が10月23日に公表した「春季生活闘争基本構想」である。これは翌年の春闘に向けての労働組合側の全体的な基本理念や方針、重点課題を示すものであり、経済状況や社会課題を踏まえ、賃上げ目標や格差是正、適正取引の促進などを掲げる。なかでも注目されたのが賃上げの目安であり、今回はベースアップを「3%以上」、定期昇給分を含めた総額で「5%以上」、中小企業は大手との格差是正を図るため「6%以上」の賃上げを求める方針が示された。これは前年と同水準の要求である1。物価上昇と実質賃金の減少が続くなか、賃上げ継続への意欲が確認できる。
また、今回は「実質賃金を1%の上昇軌道に乗せる」「賃上げの実現にこだわる」など例年よりも強めの表現が盛り込まれ、賃上げの必要性を打ち出した点も目を引いた。トランプ関税の悪影響に対する懸念や中小企業の経営環境の厳しさから、経営側へ一定の配慮をみせる可能性もあったが、実際には前年並みの賃上げ要求の目安を示している。組合側の姿勢は慎重化しておらず、要求トーンに鈍化はみられていない。

経営側も意外に前向き
経営側も賃上げに対して前向きな姿勢を崩していない。報道によれば、経団連の「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」の原案では、「賃上げの維持・強化のさらなる定着」、「ベースアップの実施を検討することを賃金交渉におけるスタンダードに」、「実質賃金の安定的なプラス化の実現が社会的に求められている」といった文言が盛り込まれたとされ、賃上げ継続への意欲がうかがえる。経労委報告は、経団連が毎年冬に公表する、春闘に対する経営側の基本スタンスを示す報告書である2。経営側の雇用政策に関する方向性や賃上げの考え方等、春闘交渉に向けた経営側の指針となるため注目されているが、この原案で賃上げに前向きな姿勢が示されたことは大きい。
また、経団連の筒井会長が11月10日の定例会見において、「『さらなる定着』の方針を強く打ち出していく」、「賃上げが経営側の社会的責務であることを認識し、呼びかけたい」、「米国の関税措置等、先行き不透明な要素はあるが、物価が高止まりしていることも踏まえ、力強いモメンタムをさらに定着させようという強い思いで臨んでいく」等の発言を行うなど、やはり前向きな姿勢が目立った。23年が賃上げの「起点」の年、24年が「加速」の年、25年が「定着」の年と位置付けており、26年は「さらなる定着」の年になることが意識されている。
経営側のスタンスとして、トランプ関税による景気下押しや先行き不透明感から、昨年と比べて賃上げに向けてのトーンを落とす可能性もあるとみられたが、特段慎重な見解は示されていない。また、筆者は当初、トランプ関税による影響は各社マチマチなことから、賃上げに前向きな姿勢を示しつつも「個々の会社の状況に応じて適切な賃上げを」といった表現が入る可能性があると考えていたが、そういったものも報道ベース等では見られなかった。人手不足による人材確保の必要性や歴史的な物価高への配慮が重視されたのだろう。予想対比で強めの内容と言える。「さらなる定着」という言葉から考えて、前年と比べて賃上げを加速させることまで意識されているわけではなさそうだが、少なくとも昨年からトーンダウンはしていない。
産業別労働組合の要求案が出始める
労働側の産業別組合の動きも出始めている。流通や繊維などを中心とするUAゼンセンは11月6日、2026年春闘の要求方針案を公表した。6%の賃上げ(ベア4%)を基本とし、賃金水準が低い組合については格差是正分として1%程度を上乗せする方針である。これは2025年春闘と同水準で、要求トーンに鈍化は見られない。「物価上昇を1%程度上回る賃上げ上昇を社会全体で共有する」ことが強調されている。
民間シンクタンクの見方 ~鈍化だが高水準~
日本経済研究センターが公表する「ESPフォーキャスト調査」では、エコノミストの予測が毎月集計されている。GDP成長率や消費者物価指数等が主な調査項目だが、今回の11月調査では特別調査として、2026年の春闘賃上げ率(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)についても調査・集計が行われている(回答期間は10月30日~11月7日、回答数36)。
これによると、予測値の総平均は4.88%となっており、25年の5.52%、24年の5.33%から伸びが低下するとされている。トランプ関税の影響もあって企業業績の伸びが鈍化することから、賃上げ率は前年と比べて鈍化するとの見方が現時点でのコンセンサスである。もっとも、4.88%という賃上げ率は、歴史的にみるとかなり高いことには変わりない。「企業業績鈍化で上昇率は縮小、一方で人手不足感の強まりや物価高の持続により高い賃上げ自体は継続」との見方が多いとみられる。なお、「鈍化」を強調するか「高い賃上げ率」を強調するかは難しいところで、エコノミストによって判断が分かれるだろう。
また、この調査とは別に、毎年11月~12月にかけて、民間シンクタンク・調査機関から翌年の春闘賃上げ率の予測が出されることが多い(筆者も近日中に発表予定)。予測をレポートとして作成することもあれば、経済見通しレポートのなかで言及されることもある。前回、前々回(特に前々回)は予想を大きく外すなど、必ずしも精度が高いとは言えないのが大変申し訳ないところだが、春闘賃上げ率の見通しについて、とりあえずの相場観はここで形成される。

2.今後の注目イベントを整理する
このように、労働側、経営側、産業別組合組織、エコノミストから、2026年春闘に向けての動きが出始めている。高い伸びとなった25年春闘での賃上げの流れを引き継ぎ、総じて賃上げに対する前向きな姿勢が維持されていると判断できるだろう。25年4月のトランプ関税ショック後には、企業業績の悪化により26年春闘では賃上げ率が大幅に鈍化するとの見方も多くみられたが、現時点ではそうした事態には陥っていないようだ。 なお、26年春闘に向けての動きは今後も進んでいく。以下では春闘の初動のモメンタムを確認する上で今後注目すべきイベントについてポイントを確認していく。
政労使会議
政労使会議は、政府、労働側(連合など)、経済側(経団連など)の代表によって、春闘の賃上げなど労働条件改善に向けた意見交換を行う場である。ここで政府から労使に賃上げに向けての要請がなされることが多い。必ずしも話題は春闘に限られるわけではないが、賃上げの社会的な機運を高めるために、春闘の交渉が本格化する前に設定されるケースが多い。政府の賃上げ実現への意欲が確認できるほか、経営側や労働側が、それに対してどう回答するかといった点も注目される。25年春闘では24年11月26日に実施されたが、高市政権下でいつ開催されるかは現時点で未定である。
産業別労働組合組織の賃上げ要求案(12月上旬?)
前述のとおり、流通や繊維などを中心とするUAゼンセンでは既に要求素案が公表されているが、今後さらに主要産業別労働組合組織における春闘賃上げ要求方針案の内容が判明してくる。前回の春闘では、12月上旬頃に、金属労協を構成する5つの産別(自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線)における要求方針案が報道された。ここで具体的な要求額目安が確認できるため、前回の要求と比べて賃上げ要求額がアップしているか鈍化しているか、また、鈍化の場合にはその度合いが焦点となる。
なかでも注目されるのが自動車総連だ。自動車関連企業の要求は春闘の相場観を左右することから元々注目度が高いのだが、今回はトランプ関税が賃上げに及ぼす影響度合いを測る上で一層重要度が高い。現在、日本企業の業績は高水準を保っているが、自動車に関して言えば、トランプ関税の悪影響(関税引き上げに伴う輸出価格引き下げ)によって悪化が目立つ状況にある。業績悪化に配慮する形で賃上げ要求を前年から抑制するのか、それともこうした状況下でも強気の賃上げ要求を維持するのかに注目だ。仮に弱気な要求となれば賃上げムードに水を差す恐れがある一方、前年と同等の賃上げ要求を行うようであれば、「トランプ関税の影響を最も受ける自動車でも高い賃上げ要求」として賃上げムードが高まる可能性があるだろう。
早期賃上げ表明企業の登場
ここ数年、春闘の交渉を待たずして翌年度の大幅賃上げを表明する企業が増えている。発表時期はマチマチだが、年内に賃上げ表明を行うことも珍しくない。
賃上げに積極的な企業であることをアピールする目的もあってか、早期表明を行う企業は大幅賃上げを行うことが多い。そのため、こうした早期表明企業が多ければ賃上げムードが醸成される効果がある。また、賃上げ表明を行った企業のライバル企業に賃上げ圧力を及ぼす面もあるだろう。逆に、こうした企業が前年と比べて少ない場合、今回の春闘はあまり期待できないのではないかとの見解が増える可能性があることには注意が必要である。
日銀短観(12月調査、12/15公表)
日銀短観(12月調査)が12月15日に公表される。日銀は景気指標として日銀短観を最重要視しており、金融政策への影響も大きい。トランプ関税によって企業業績にどの程度悪影響が及んでいるか(及んでいないか)、設備投資計画に下振れはみられないかといったことを今後確認していくことになる。25年度の企業業績が堅調さを保っているのであれば、26年の春闘でも高い賃上げが実現する可能性が高まる。逆に、業績下振れが顕著であれば、賃上げの実現性に疑問符がつくだろう。
なお、金融政策決定会合は12月18日~19日にかけて行われるため、日銀短観の内容を確認してから利上げの是非を判断することができる。日銀短観の結果が最後の一押しとなる可能性も十分あるだろう。
経済三団体共催・新年祝賀会(1月上旬)
例年、年明けに経済三団体(経団連、経済同友会、日本商工会議所)が主催する新年祝賀会が開催される。祝賀会後の共同記者会見で、各団体トップが26年春闘に向けてのコメントを出す可能性が高いだろう。また、個別の大手企業トップが賃上げへの意欲を示すことも多く、賃上げモメンタムの強さを確認する上で参考になる。
日銀支店長会議(1月上旬)
日銀支店長会議は日本銀行の正副総裁や審議委員、各地の支店長が参加し、年4回開催される。各支店長は自分の担当する地域の金融機関や企業から集めた生の声に基づき、その地域の経済・金融情勢を報告する。各地域の景気・産業動向や企業の設備投資・賃上げ意欲など、定量データだけでは把握できない現場の情報が得られる場として非常に重視されている。次の支店長会議は1月上旬に予定されており、ここでトランプ関税の影響度合い、26年春闘に向けての企業の賃上げに対する考え方などの情報収集が行われる。
3.材料が揃うのはいつか
支店長会議後も、経団連と連合の懇談会(1月下旬)、労務行政研究所・賃上げアンケート(1月末)、組合による賃上げ要求提出(2月頃)、連合・春闘要求集計結果(3月上旬)、春闘の集中回答日(3月中旬)、連合・第1回回答集計公表(3月中旬)など春闘関連イベントは続いていく(詳しくは2026年春闘のスケジュールと金融政策展望 ~2026年春闘から考える利上げタイミング~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所)。もちろん時が経つほどに春闘への解像度は上がっていくのだが、日銀が利上げを判断する上で、春闘の最終結果が出るまで待つ必要はおそらくない。「初動のモメンタム」という観点からは、支店長会議まで確認できれば十分だろう。
筆者は2025年12月会合での利上げをメインシナリオとしている。既に労働側、経営側のスタンスは、連合の基本構想や経団連の経労委報告原案などである程度明らかになっているほか、今後、主要産別組合の要求方針が順次明らかになることで、全体の基調はある程度読み取ることができる。また、最近では大手企業が早期に賃上げ方針を表明する動きも広がっており、これらの情報は賃上げムードを把握する上で重要だ。さらに、12月短観でも、賃上げの裏付けとなる企業収益の動向や、トランプ関税の影響度合いなどが確認できる。12月18日~19日の決定会合までに判断材料は増えていき、春闘の初動のモメンタムはかなりの程度把握できているはずだ。
一方、悩ましいのは支店長会議の取り扱いである。日銀はこれまでも、金融政策決定にあたって支店長会議を非常に重視してきた。支店長会議は全国の企業ヒアリングが凝縮される場であり、中小企業の賃上げ姿勢や価格転嫁の持続性など、統計では把握しづらい生の声が集まる。賃金の持続的改善という条件を確認するにあたっての有力な情報源であり、この会合の結果を確認したうえで金融政策決定会合に臨みたいと考えても不思議ではない。実際、25年1月の利上げに際しても、支店長会議におけるヒアリング情報が重視されたと思われる。25年12月会合段階でまだ賃上げ持続への確信が持てない場合、1月の支店長会議を待つことも十分考えられるだろう。
以上のように、2026年春闘の初動は現段階では前向きと評価できるが、金融政策の判断には今後のイベントを通じた追加の材料が重要となる。12月会合での利上げが依然として有力だが、1月の支店長会議を確認したうえで判断するシナリオも排除できない。
今後数カ月は、春闘関連のイベントの一つひとつが、賃上げの持続性を占う重要な手掛かりとなる。金融政策の行方を見極める上でも、初動のモメンタムとその裏付けを慎重に確認していく必要があるだろう。
1 前年と比べてトーンダウンしていないという意味では朗報。もっとも、(昨年も同様だが)実際の賃上げ実績が5%を上回る(それでも実質賃金はマイナス)なか、要求の段階においてそれよりも低い賃上げ率を目安とすることには、筆者は交渉の在り方としてかなりの違和感がある。
2 正式公表は毎年1月下旬だが、その原案は年内に報道されるのが通例。今回も同様となった。
(参考文献)
- 新家 義貴(2025)「2026年春闘のスケジュールと金融政策展望 ~2026年春闘から考える利上げタイミング~」(第一生命経済研究所 Economic Trends)
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 新家 義貴
しんけ よしき
-
経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測
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