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米国:政府閉鎖の解除へ

~統計は遅れて公表されるが、10月分はノイズが多い~

前田 和馬

11月10日、米上院は政府閉鎖の解除に向けたつなぎ予算等を可決した(賛成60、反対40)。下院での審議、及びトランプ大統領の署名を経て、過去最長となった政府閉鎖は近日中に解除される見通しだ(10月1日~11月12日の政府閉鎖となる場合、その期間は43日間)。本稿ではこれによる経済的な影響や経済指標の公表に関して、Q&A形式で概観する。

Q.なぜこのタイミングで政府閉鎖の解除に向かったのか?

A. 上院(全100議席)の予算採決に移るためには通常60票の賛成が必要であり、上院民主党は年末に失効するオバマケア(医療保険)補助金の延長を求めて、つなぎ予算案に反対していた。一方、一部の穏健派の民主党議員は政府閉鎖の悪影響を踏まえて、共和党との合意によるつなぎ予算成立に方針を転換した。この背景には、11月4日に主要な地方選挙が終わり、民主・共和両党が強硬な姿勢を示す必要性が低下したことがある。選挙前に何らかの合意に至った場合、どちらかの党が妥協したとの印象を与えると、地方選挙に影響を与える懸念があった。

政府閉鎖による悪影響は日に日に目立ち始めてきている。11月5日、米連邦航空局は管制官不足を背景に主要空港の便数を10%削減する方針を示しており、11月下旬の感謝祭休暇までにこうした状況が続くと米国民の強い不満が生じる懸念があった。また、約4,200万人が利用する低所得者向け食料支援制度(SNAP:所謂フードスタンプ)を巡っては、トランプ政権が閉鎖期間中に支給を一部に留める方針を示しており、連邦最高裁もこれを一時的に容認していた。

Q. 政府閉鎖の懸念は去ったのか?

A. そうではない。上院が可決した予算関連法案は、①フードスタンプを所管する農務省や退役軍人省などの3つの年度予算(~2026年9月30日)、②その他機関のつなぎ予算(~2026年1月30日)、③政府職員に対する未払い給与の支給や1月30日までの解雇禁止、から構成される。このため、1月30日までに新たなつなぎ予算、或いは残る9本の2026年度予算を可決できなければ、再び一部政府機関の閉鎖に陥る。

上院における共和党と一部民主党の合意では、12月にオバマケア補助金(プレミアム税額控除)の延長を巡る採決を実施するが、その具体的な内容は決まっていないとみられる。民主党は同補助金の終了が医療保険料の増大を招くと指摘する一方(カイザー・ファミリー財団は平均保険料が1,000ドル増加すると試算)、トランプ大統領はオバマケアが保険会社を儲けさせるための制度であり、こうした補助金を家計に直接給付する方が望ましいと主張している。加えて、今回の合意案は上院の超党派で形成されたものであり、共和党が多数を占める下院でも同様の審議が進むかは依然不透明である。

このため、オバマケアを巡って両党が合意に至らず、再び政府閉鎖へ向かうリスクは相応にある。

Q. 政府閉鎖による経済的な影響は?

A. 政府職員の一時帰休による行政サービス等の停止、或いは連邦政府による備品購入や請負契約の停止がGDP成長率を押し下げる。ただ、こうした支出は閉鎖解除後に再開されるため、政府閉鎖は短期的な経済変動をもたらすものの、長期的な影響は限定される可能性が高い。議会予算局(CBO)は6週間の政府閉鎖によって、10~12月期の実質GDP成長率(前期比年率)が-1.5%pt押し下げられる一方、2026年1~3月期は反動増によって+2.2%pt押し上げられると試算する(図表1;注1)。また、2026年10~12月期時点における累積的なGDPへの影響(恒久的な損失)は110億ドルに達するが、この規模は米国におけるGDP(2025年4~6月期実績)の0.04%に留まる。

また、閉鎖期間における一時帰休の政府職員は、雇用統計(家計調査)において失業者として扱われるのが一般的だ。CBOは一時帰休の対象を65万人と試算しており、これは10月の失業率を一時的に0.4%pt押し上げる可能性がある。なお、トランプ政権が1月に募集した早期退職制度の応募者(7.5万人)は、9月末までは連邦政府からの給料が支払われており、こうした人々も10月以降に失業者とカウントされる場合、失業率は更に0.04%pt%押し上げられる。

図表
図表

Q.主要な経済指標はいつ公表されるか?

A.少なくとも当面の指標は従来の予定通りに公表されない可能性が高い。まず、10月公表予定であった9月分統計に関しては、政府閉鎖前に概ねデータ収集、或いは調査対象者への依頼が完了しているとみられており、政府職員がこうしたデータを集計・加工したうえで公表が見込まれる。例えば、2013年10月の政府閉鎖時(10月1~16日)には、9月分の雇用統計が閉鎖解除から約1週間後に公表された。2025年9月分雇用統計の公表(当初予定:10月3日)に関しては、11月中旬から下旬の公表が目安となるだろう。

次に、11月公表予定の10月分指標に関しても、過去の事例に基づくと公表は従来より遅れることが見込まれる。加えて、そもそも政府閉鎖期間中に統計の収集作業がほぼ実施されていないため、一部の指標に関してはその信頼性への懸念が強まる可能性が高い。例えば、消費者物価指数の算出に用いる価格データ(毎月約10万件の品目を集計)の60%が訪問調査で集計される一方(9月時点)、10月にこうした作業はほぼ行われていない。オンライン集計(全体の35%)などの一部データは遡って集計が可能であるが、そうでないものは何らかの方法で補完推計を行う、或いは前月から横置きで代替するなどの算出方法が考えられる。こうした方法ではノイズが含まれる懸念が強く、CPIを中心とした一部指標の10月分実績はあくまで「参考値」程度の位置づけになるかもしれない。

いずれにせよ、閉鎖解除後に政府機関より示される具体的な公表時期や算出手法のガイダンスが注目される。

図表
図表

【注釈】

  1. 過去の政府閉鎖に基づくと、当該四半期のGDP成長率(前期比年率)は1週間ごとに-0.1%程度押し下げられるとの試算が多かった。しかし、今回は閉鎖期間が6週間と長期に及んでおり、政府支出の再開が翌四半期に後ずれする割合が大きくなるため、短期的な変動が大きくなるとの見方が強まっている。
以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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