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米中首脳会議で貿易交渉に進展

~米国が対中関税を10%引き下げ、中国はレアアース規制を緩和~

前田 和馬 、 西濵 徹

10月30日、米国のトランプ大統領と中国の習近平主席は韓国で首脳会談を実施した。会談後にトランプ大統領は、中国が「フェンタニル対策を講じること」、「12月に導入予定であったレアアース輸出の規制強化を1年間延期すること」、「大豆等の農産物を大量に購入すること」で合意したと述べた。そのうえで、米国は「フェンタニル関税を現状の20%から10%へと即時に引き下げる」と述べた。また、中国商務省は会談の合意事項として、米国は禁輸措置対象の拡大(既存のエンティティリストの子会社を追加)、中国船からの入港料徴収、及び11月10日が停止期限の相互関税上乗せ分(24%)の発動をそれぞれ1年間延期するとしている(11月1日の対中追加関税100%も回避)。

トランプ政権が対中関税の引き下げに動いた背景として、2026年11月の中間選挙を見据え、米中間の懸念事項の解消を望んだ可能性がある。トランプ政権の支持率は、高関税によるインフレ高止まり等を背景に低下傾向にあり(図表1)、10月初めから続く政府閉鎖も共和党やトランプ政権に責任があるとの見方が多い。一方、政策別の評価をみると、米国への生産回帰や輸出拡大を狙った貿易交渉に対する評価は相対的に良好だ(図表2)。日本と韓国による巨額の対米投資に加えて、トランプ政権は中国関連の経済的懸念を解消することで政治的なアピールを狙っているとみられる。

米国が対中関係で懸念している経済事項は主に3つ考えられる。まず、中国が12月に強化する予定であったレアアースの輸出規制だ。中国が4月に同輸出の規制を導入した際には(図表3)、米自動車大手の一部工場が部品不足による生産停止を強いられており、更なる規制は米国における自動車や半導体などの広範な生産に影響が出る懸念があった。次に、米国による大豆を中心とした食料の対中輸出は、中国による報復措置等を背景に大幅に落ち込んでいる(図表4)。共和党の支持基盤である農家の苦境は来年の中間選挙に影響する可能性がある。最後に、中国系動画投稿アプリ(TikTok)の米国サービスを巡る問題だ。米国内で同サービスを続けるためには、現在の運営会社から米国系企業への事業譲渡を中国政府が承認する必要がある。なお、中国商務省は「両政府が同問題を適切に解決する」と述べている。とはいえ、上記3事項の全てにおいて、中国が米国の想定通りの行動に踏み切るかは不透明感が残る。

今回の対中関税引き下げ(30%→20%[フェンタニル関税10%+相互関税10%])が実施される場合、米国の実効関税率は現状の15.3%から14.0%へと低下する。また、米韓合意によって対韓国に対する自動車関税が15%(現状25%)へ低下することも踏まえると、実効関税率は13.8%と試算できる(図表5)。これは2024年時点の2.4%から11.4%ptの上昇であり、過去の相関等に基づくと、米国におけるPCEインフレ率を+1.24%pt(従来:+1.40%pt)押し上げ、実質GDP成長率を-0.55%pt(同、-0.62%pt)押し下げるとみられる。なお、現時点における関税の影響は小売企業等のコスト吸収を背景に、こうした試算よりも幾分抑制された状況にあることには留意されたい。

図表1
図表1

主任エコノミスト 前田 和馬(℡:050-5473-3888)

米中関係を巡っては、トランプ米政権による関税政策を受けて、中国が報復措置に動いた結果、互いに100%を上回る高関税を課す貿易戦争に発展した。しかし、5月のジュネーブ協議を経て、米中は互いに報復関税を撤廃した上で、関税の上乗せ分(24%)と中国が米国の関税政策への対抗措置として実施したレアアース(希土類)に対する輸出規制なども90日間停止することで合意した。その後の実務者レベルの協議では、米中双方の認識の隔たりによる交渉の行き詰まりが度々懸念されたが、6月のロンドン協議でジュネーブ協議における合意事項が再確認された。そして、8月12日に延長期限が迫るなかで開催された7月のストックホルム協議において、関税の上乗せ分や輸出規制を追加で90日間延長することで合意した。さらに、9月のマドリード協議では、中国系動画投稿アプリ(TikTok)の米国事業の売却に関する基本的な枠組み合意に至るなど、両国間の懸案事項の解決に向けて前進する動きもみられた。よって、11月10日に追加延長期限が迫るなかで今回の米中首脳会談を行う方針が発表されたため、首脳会談が関税上乗せ分や輸出規制などの再々延長に向けた『お膳立て』になるものと予想された。

しかしながら、中国政府(商務部)が今月9日にレアアースの輸出管理強化策を公表し、直後にトランプ米大統領は中国からのすべての輸入品に100%の追加関税を課す方針を明らかにするなど、米中関係が再びこう着化する懸念が高まった。中国政府の決定は、レアアースに関連する加工技術の規制拡大、無許可での海外企業との協力禁止、海外の防衛・半導体関連企業への輸出制限を目指すとしており、その理由に世界的な軍事紛争の頻発を挙げた上で、レアアースの軍事利用を懸念しているとした。この発表にトランプ氏は強く反発する一方、中国政府は輸出規制が正当なものとした上で、マドリード協議以降に米国が貿易制限リストに中国企業を追加したこと、中国船に対する入港手数料を徴収していることを非難した。その後もトランプ氏は、追加関税に加えて航空機や航空機部品に対する新たな輸出規制を課す可能性を警告するなど圧力を掛ける動きをみせた。一方、中国も米国船に対して特別港湾料の徴収を開始するなど対抗措置に動くとともに、米国の貿易政策を支持する外国勢力に対する報復措置として韓国企業の米国子会社を制裁対象に指定するなど、米中摩擦の影響が第三国に飛び火する懸念も高まった。

一方で、米中双方はその後も実務者レベルでの協議を継続するなど、首脳会談の開催に向けて双方の意思疎通を維持する姿勢をみせてきた。そして、首脳会談の直前にはクアラルンプールにおいて閣僚級協議が行われ、首脳会談に向けての『地ならし』が進められる動きがみられた。具体的には、中国がレアアースに関する輸出規制を1年間延期する一方、米国は中国からの輸入品に対する100%の追加関税を撤回するほか、中国は大豆をはじめとする米国産農産品の輸入拡大について協議が行われた模様である。また、米国が問題視してきた、中国から合成麻薬フェンタニルの原材料が流入している問題についても米中双方が協力することで一致したとした(米国はこの問題を中国からの全ての輸入品に対する追加関税(20%)を根拠としてきた)。

したがって、首脳会談ではクアラルンプール協議での合意事項について話し合いがなされた模様である。会談終了直後にトランプ氏は、中国がレアアースの輸出を1年間継続することで合意するとともに、大豆をはじめとする米国産穀物の輸入を「直ちに」「莫大な量」開始するほか、フェンタニルの違法取引の取り締まりを強化することで合意したことを明らかにした。その上で、米国はフェンタニル問題を理由に中国からの輸入品に課している追加関税を10%に引き下げ、中国に対する関税率を全体で「47%」とするとともに、トランプ氏は来年4月にも中国を訪問する意向も明らかにした。一方、中国政府も、今月9日に発表したレアアースの輸出管理強化策を1年間停止した上で、米国による輸出管理措置(貿易制限リストへの中国企業の追加と中国船に対する入港手数料の徴収)を停止させた後に海運に関連する対米報復措置を1年間停止することを明らかにしている。また、フェンタニル問題や農産物の貿易拡大などの問題についても米中間で合意に至ったことを明らかにしている。よって、中国によるレアアースの輸出管理強化策発表をきっかけに高まった米中摩擦の緊張状態は一転して緩和に向かうこととなった。

当面の米中関係は落ち着きを取り戻すと見込まれるが、中国が要求してきたフェンタニル問題を理由とする追加関税や相互関税は撤廃されない状況が続く。さらに、ジュネーブ合意以降、米国の対中関税率は30%(相互関税の基礎分10%+フェンタニル関連の追加関税20%)であったものの、今回の合意でトランプ氏は対中関税が47%になると発言しており、新たに上乗せ分が付加される可能性がある。そうした場合、中国も相応の措置を取ることが予想されるほか、米国産農産品の輸入拡大に関する合意についても、輸入関税の取り扱いに不透明さが出てくる。さらに、中国はレアアースの輸出管理強化策を1年間停止するとしたが、ジュネーブ協議以降に計60日間措置が停止されていたにもかかわらず、停止期限が到来する前にさらなる管理強化策を公表したことを勘案すれば、今後も同様の措置に動く可能性もくすぶる。よって、今回の米中首脳会談の合意を以って米中関係が良好な状況にシフトするとみることは極めて難しい。さらに、今回の合意は米中双方にとって合意しやすい課題のみが俎上に上げられていたため、首脳会談の予定も影響し、協議は比較的円滑に進んだと考えられる。その一方、米中間には、今回協議の対象とならなかったとされる最新のAI(人工知能)向け半導体(エヌビディアのブラックウェル)、サイバーセキュリティを巡る問題、人権問題、そして、台湾問題といった様々な問題が山積する。しかし、これらに関する協議は米中双方の利害に直接的な影響を与えることから、難航することは必至である上、一致点を見出すことは非常に困難な状況にある。こうした状況を勘案すれば、中長期的に米中関係が改善に向かう展望は見通しにくく、結果的に米中摩擦が多方面で顕在化し続けるとともに、地政学リスクの高まりに一層注意する必要がある。

主席エコノミスト 西濵 徹(℡:050-5474-7495)
以 上

前田 和馬 、 西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘等を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針等と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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