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日銀 利上げ見送り 確信犯的な「後手」戦略か

藤代 宏一

<総裁会見前に執筆>

  • 日銀は大方の予想どおり金融政策の現状維持を決定。2025年1月に利上げを実施した後、6会合連続で政策金利を0.5%で据え置いた。筆者は10月の利上げを最後まで捨て切れずにいたが、やはり日銀は(筆者の予想以上に)慎重であった。反対票を投じたのは9月会合と同様に高田委員と田村委員の2名。高田委員は、物価が上がらないノルムが転換し、「物価安定の目標」の実現が概ね達成されたとして、田村委員は、物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づける必要があるとして、それぞれ金利の引き上げを主張した。

  • 展望レポートは7月対比でほとんど変更がなく、経済・物価見通しは2025~2027年度にかけてほぼ同じ数値であった。物価については「来年度前半にかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」として、やや時期が明確化された。この記述には、実質賃金がプラス圏に浮上する時期が近づいていることを知らしめる含意があるかもしれない。なお物価見通しには、現在検討されているガソリン税の「旧暫定税率」の廃止が織り込まれていないことが明記された。注釈には「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比を▲0.2%ポイント程度押し下げる」とあった。

  • 利上げを見送った最も重要な理由は、9月会合と同様、トランプ関税の帰趨を見極める必要があるというものであろう。リスク要因の記述は「各国の通商政策等の影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はなお高い」と、あまり変化がなかった。7月までは「各国の通商政策等の今後の展開」、すなわち関税交渉そのものに対する不確実性に言及があったが、今回は削除された。それでも植田総裁は10月16日時点で、世界経済が底堅さを維持しているのは「関税の影響の発現がやや遅れているため」という認識を維持した上で「今後(影響が)出てくるかもしれない。依然として見通しや下方リスクに織り込まざるを得ない」としていた。米国の政府機関閉鎖によってデータの蓄積が進んでいないことも利上げ見送りの理由になったとみられる。

  • 次回の利上げ時期については12月が有力ではないか。奇しくもパウエル米FRB議長は12月の利下げが既定路線ではないとFOMC後の記者会見で言及したことで、日銀は利上げに動き易くなる可能性が高まった。日米が真逆の金融政策を実施することによって、突発的な円高など金融市場のボラティリティが高まってしまうことを日銀は一定程度警戒しているとみられる。Fedの利下げ観測が後退するにしたがって日銀の利上げ観測が盛り上がる可能性があろう。

  • 植田日銀総裁は就任当初の2023年に「2%達成の芽を大事に育てていく」、「拙速な政策転換でインフレの芽を摘んでしまうコストは大きい」と繰り返していた。消費者物価上昇率が3年超にわたって2%を超え、ビハインド・ザ・カーブのリスクも指摘される中、植田総裁は確信犯的にそれを狙っているようにも思える。

藤代 宏一


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