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2025.10.21
アジア経済
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台湾経済
国際的課題・国際問題
台湾・国民党主席選は鄭氏勝利、急進的な対中融和路線の行方は?
~中国本土は早くも接近姿勢をみせるなか、その行方は台湾情勢を左右する可能性は高い~
西濵 徹
- 要旨
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台湾では18日、最大野党・国民党の主席選が行われ、元立法委員の鄭麗文氏が勝利した。国民党は昨年の総統選で与党・民進党に敗北するも、立法委員選では第1党になり、次期総統選に向けた党勢拡大が急務となっている。主席選には6人が出馬したが、鄭氏と元台北市長の郝龍斌氏の事実上の一騎打ちとなり、中国本土との融和を訴えた鄭氏が勝利した。一方、投票率は39.46%と前回主席選から大幅に低下した。
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鄭氏は外省人系でかつては民進党員として台湾独立を支持したが、国民党に転じた経緯がある。国民党への転向後は立法委員や行政院報道官を歴任した。今回の選挙では「九二共識」を支持するとともに、中国本土との対話・統一志向を鮮明にする姿勢をみせた。こうしたことから、当選後に習近平中国共産党総書記が祝電を送るとともに、国家統一を呼び掛けるなど、中国本土側も国民党への接近を強めると見込まれる。
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鄭氏は11月に党主席に正式就任し、2028年の次期総統選・総選挙へ党勢回復を目指すと見込まれ、その前哨戦となる2026年の統一地方選の行方が注目される。ただし、急進的な融和路線により党内の中道・穏健派の離反が懸念されるなど、党の路線転換が「諸刃の剣」となる可能性には注意が必要と捉えられる。
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台湾では18日、最大野党の国民党の主席(党首)選挙が行われた。国民党は、昨年1月に実施された総統選挙に新北市長の侯友宜氏、副総統候補に元立法委員の趙少康氏を据えて、中台関係を巡って中国本土との対話を主張するなど与党・民進党(頼清徳氏)との違いを示した。しかし、総統選には『第3極』を目指す民衆党が党首で台北市長の柯文哲氏が出馬したため、最終的に三つ巴の選挙戦となるなど、野党は分裂選挙を強いられた。こうしたことから、選挙戦では民進党の頼氏が比較的優位に選挙戦を展開することとなり、頼氏が勝利を収めた。その一方、総統選と同時に実施された立法委員(定数113)総選挙では、国民党の獲得議席数は52と改選前から14議席増やして第1党となったものの、半数に満たず、単独で予算や法案を可決することができない状況にある。よって、今回の主席選挙においては、2028年の次期総統選挙での政権奪取に加え、立法議員選でのさらなる議席の積み増しに向けて、党勢を拡大させることを念頭に置いた選挙戦が展開された。
選挙戦を巡っては、当初は現職の朱立倫氏が計3期目入りに向けて出馬する可能性が取り沙汰されたものの、最終的に出馬を見送った。その結果、主席選には合計6人が出馬したものの、選挙戦は元立法委員の鄭麗文氏と元台北市長の郝龍斌氏による事実上の一騎打ちの様相をみせてきた。選挙戦において、鄭氏は頼政権が中国本土をけん制する姿勢をみせることを批判するとともに、「すべての台湾人が『私は中国人だ』と誇りを持って言えるようにしたい」と呼びかけるなど、中国本土との融和姿勢を強く主張した。その一方、郝氏は中国本土と日米との間でバランスを取る外交方針を主張するなど、対照的な主張が繰り広げられた。党員約33万人による直接投票の結果、鄭氏が総投票数の半数を上回る票を獲得して当選を果たした。ただし、投票率は39.46%と2021年の前回主席選(50.71%)から大幅に低下しており、激しい舌戦が繰り広げられたのとは対照的な結果となっている。
なお、鄭氏は父親が中国人、母親が台湾人という外省人系であり、元々は民進党員として台湾独立を支持していたが、その後に国民党に鞍替えした経緯がある。ただし、国民党に鞍替えした後、2008年から2012年、2020年から2024年まで2期立法委員を務めるとともに、2012年から2014年までは行政院(内閣に相当)の報道官を務めるなど豊富な政治経験を有する。上述したように、鄭氏は選挙戦で中国本土との融和を強力に訴えるとともに、民進党政権が拒否する「九二共識(1992年に当時の中台双方の交流窓口機関による中国本土と台湾は一体不可分という『一つの中国』の原則の口頭合意)」を支持する考えを打ち出すなど、中国本土との交流深化を目指す姿勢をみせる。こうしたこともあり、鄭氏の勝利を受けて、習近平中国共産党総書記(国家主席)は祝電を送るとともに、そのなかで国家統一の推進へ努力するよう呼び掛けるなど、頼政権と対立を強めるなかで国民党に秋波を送る動きをみせている。
鄭氏は11月1日付で次期主席に就任し、新体制の下で国民党は2028年の次期総統選、総選挙に向けて党勢拡大を目指すと見込まれるほか、その『前哨戦』となる2026年秋の統一地方選において2022年の前回選挙以上の勝利を収められるか、その手腕が試されることになる。その一方、主席選挙の投票率が大きく低下した背景として、中国本土との急進的な融和を訴える鄭氏が優位に選挙戦を展開したことも一因とされるなか、新体制の下では急進姿勢を一段と強めることで党内における中道派や穏健派の支持が後退することも考えられる。伝統政党が支持を集めることを目的に極端な方向に舵を切ることは、一時的に注目を集めることが期待される一方、その支持層のすそ野の幅や厚みを失わせる『諸刃の剣』となることも考えられる。鄭新体制下の国民党の行方は、台湾情勢の行方を左右することも予想されるだけに、その動向をこれまで以上に注視する必要がある。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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