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- 再任された仏ルコルニュ首相は続投へ
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- 政局混乱が続くフランスでは、ルコルニュ首相が年金支給開始年齢の引き上げを2027年の大統領選挙まで凍結することで社会党の協力を取り付け、内閣不信任案を乗り切る見通しが高まった。ただ、財政再建路線を維持するとし、増税や歳出削減で年金改革凍結の穴埋めをする。今後、本格化する予算協議で改めて社会党の協力を取り付けることができるかは予断を許さない。
マクロン大統領から予算成立に向けた政権基盤の強化と野党の協力取り付けを託されたルコルニュ首相は6日、就任から僅か26日で辞任の意向を固めた。ルコルニュ首相は、穏健な左派政党・社会党(PS)の協力取り付けに向けて同党関係者の説得を続けていた。首相の社会党への接近に対して、これまで政権に協力してきた右派政党・共和党(LR)は、5日に発表した第一次ルコルニュ政権の閣僚の布陣がマクロン大統領を支持する中道勢力・共和国のための団結(ENS)に偏り、要求した閣僚ポストを配分されなかったことに不満を募らせ、政権協力を取り止める意向を示唆した(図表1)。現在の議会構成を考えると、仮にルコルニュ首相が社会党の協力を取り付けることに成功しても、共和党の協力なしには安定した政権運営を行うことは難しい(図表2・3)。



予算成立に向けた政権基盤の強化が難しいと判断したルコルニュ首相は辞任の意向を固め、マクロン大統領もそれを了承したが、野党の政権協力の可能性がないかを48時間以内に改めて模索するようにルコルニュ氏に指示した。国民議会(下院)への予算案の提出期限が迫るなか、主要政党の関係者と改めて協議したルコルニュ首相からの報告を受け、マクロン大統領が後継首相に誰を指名するのかに注目が集まった。社会党の協力を取り付けるため、従来の方針を軌道修正し、左派から首相を選ぶとの観測も一時浮上したが、マクロン大統領と面会した左派政党の関係者は、大統領にそうした考えがないことを知ることになる。ルコルニュ首相の辞意表明から4日後の10日、マクロン大統領は自身に忠実な同氏を改めて首相に再任した。
その間、大統領を支持する中道勢力の一員として、これまで政権運営を支えてきた中道政党の民主運動(MoDem)や中道右派政党の水平(Horizon)などは、このまま政権に参加し続けるか、閣外から政権を支えるか、14日のルコルニュ首相の所信表明演説を待って判断するとしていた。ルコルニュ首相は再任後の新たな閣僚人事でこれらの政党の議員を指名することで、政権から離反することを食い止めた(前掲図表1)。また、同様に閣外協力の方針を示唆していた共和党の6議員も閣僚に指名したが、閣僚参加を否定する党の方針に逆らったとし、共和党幹部はこれらの議員を除名する意向を示唆している。
社会党は政権に対して、①議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を利用しないこと、②富裕層課税など税の公平性確保と国民の購買力改善に取り組むこと、③マクロン大統領が2023年に進めた年金改革の即時且つ完全撤回を求めてきた。ルコルニュ首相はこのうち、①を自ら封印する方針を明らかにし、②は社会党が要求する“ツックマン税”とは別の形の富裕層課税を提案しているが、③については、必要な改革の後退や財政再建の遅れにつながるとして、与党内で反発の声も根強く、受け入れられないとしていた。膠着する協議の打開を目指し、社会党のオランド元大統領などから、年金支給開始年齢の段階的引き上げを2027年の大統領選挙まで一時凍結し、次期大統領にその後の再開の判断を委ねる案が浮上していた。
こうしたなかで迎えた14日のルコルニュ首相の所信表明演説と、社会保障部分の来年度予算案の発表では、今後の法案審議で憲法49条3項を利用しないこと、社会党案とは別の富裕層課税を導入すること、年金支給開始年齢(62歳から64歳に段階的に引き上げる予定で、現在は62歳9ヶ月)の引き上げを凍結することを盛り込んだ。但し、年金改革の一時停止に伴い、2026年に4億ユーロ、2027年に18億ユーロ程度、財政収支が悪化するとして、別の歳入増加策(増税や脱税の取り締まり強化など)や歳出削減措置(医療保険、退職年金、家族手当などの抑制)でその穴埋めが必要になることを表明した。2025年の財政赤字の対GDP比率の目標値を前政権が掲げた5.4%に据え置き、2026年を5%未満(前政権は4.6%)に削減する計画で、財政再建路線を継続する(図表4)。左派勢力や労働組合の間では、年金改革の完全撤回を求める声もあるが、支給開始年齢の引き上げ凍結を「第一段階の成果」として概ね歓迎している。各種の世論調査で極右政党・国民連合(RN)が一段と支持を伸ばしており(図表5)、早期の解散・総選挙を回避したいことも、社会党の方針転換を促した。最終的には、年金支給開始年齢の引き上げ凍結が決定打となり、社会党は別の野党が提案する内閣不信任案に同調しない方針を固め、ルコルニュ首相が続投する可能性が高まった。


これを受け、ルコルニュ首相の再辞任による政局の更なる混乱や、極右勢力の伸長が予想される国民議会選挙の前倒しはひとまず回避されよう。ただ、憲法49条3項を利用せずに予算案を議会で通すには、社会党から予算案の細部で改めて賛成を取り付けなければならない。社会党は年金支給開始年齢の引き上げ凍結を歓迎しているが、ルコルニュ首相の緊縮的な予算案に反発しており、今後の予算協議がすんなり進む可能性は低い。社会党から更なる譲歩を求められ、財政再建が計画対比で遅れる恐れがある。また、今のところ閣外から政権への協力を継続する姿勢をみせている共和党は、「ルコルニュ政権が社会党の人質になった」として今回の方針転換を非難している。共和党からの離党者が結党し、国民連合と連携する極右政党・共和右派(UDR)のシオッティ党首は、共和党のルタイヨ党首に対して、政権への協力取り止めと極右勢力との連携を呼び掛けている。右派と極右が総結集した場合、次の議会選挙後の政権奪取に近づく。まずは、今後本格化する予算協議で社会党の賛同が得られるかと、右派と極右の接近の有無に注目が集まる。年末までに2026年予算の成立に漕ぎ着けた場合、来年3月には地方選挙、再来年4・5月頃には大統領選挙が近づいてくることもあり、前倒しの議会選挙の可能性が遠退く。
田中 理
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