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- 風雲急を告げるフランス政局
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- マクロン大統領は辞任したルコルニュ首相に対して、48時間以内に野党の政権協力の可能性を改めて模索するように指示を出し、こうした試みが失敗に終わった場合、国民議会の解散・総選挙を行う意向を示唆している。政権に近い人物から、左派が要求する年金改革の見直しに前向きな発言も聞かれ、この時点での議会選の前倒しを望まない左派が政権協力に傾く可能性が出てきた。他方で、政権協力を取り止めた中道右派に対しても、このままでは左派が主導する政権が誕生するとして、政権協力の再考を求めている。左派が主導する政権が誕生するのか、解散・総選挙に突入するのか、48時間の交渉期限が近づいている。
政局混乱が続くフランスでは、ルコルニュ首相が就任から僅か26日、組閣の翌日に辞任した後、国民議会(下院)の解散・総選挙を前倒しするか否かを巡って、ぎりぎりの攻防が続けられている。ルコルニュ首相の辞任を了承した後、マクロン大統領は48時間以内に野党に政権協力の可能性がないかを改めて模索するように同氏に指示したうえで、その試みが失敗に終わった場合、「責任を取る」準備があることを示唆している。この発言を巡っては、マクロン大統領が任期前に辞任することを意味するのではなく、議会の解散・総選挙を決断することを意味するとみられている。
7日にはマクロン大統領を支持する中道勢力の有力な次期大統領候補であるフィリップ元首相が、大統領選の前倒しを求めた。これまで極左政党・不服従のフランスが大統領の弾劾手続きを提起してきたが、大統領を支える立場の中道勢力からも辞任を求める声が浮上している。ただ、既に次期大統領選に出馬する意向を伝えているフィリップ元首相は、マクロン大統領の後継者と有権者にみられないように、大統領から距離を置き始めている。来年に予定される極右政党・国民連合のルペン氏の公職停止の控訴審判決が出る前に大統領選挙を行う方が自身に有利に働くとの判断が働いた可能性もある。その場合に国民連合の大統領候補となるバルデラ氏は、若者を中心にカリスマ的な人気を誇る一方、政治経験が浅く、テレビ討論会などの場で論破できるとの計算があるのかもしれない。
政府の報道官は7日、マクロン大統領が任期の最後まで職務を全うするとして、早期辞任や大統領選の前倒しを否定した。大統領の「責任発言」の真意はむしろ、この段階で解散・総選挙を望んでいない穏健左派勢力に対して、政権協力を再考させることを狙ったものと考えられる。ルモンド紙は大統領が7日、上下院の両議長と面会したと報じている。フランスの憲法規定では、大統領が議会を解散する際には、両院の議長にあらかじめ相談することを求めている。
前回の選挙で統一会派を組んだ左派は、政権への攻撃姿勢を強める極左と、政権協力の可能性を模索する中道左派の社会党の間で溝が広がっている。統一会派の結成が困難な状況で、左派候補の間で票が割れ、議席を失う可能性が高い。社会党は政権協力の条件にマクロン大統領が進めた年金改革の見直しを求めてきた。年金改革を進めた当時のボルヌ元首相は7日、現下の政治膠着を打開するために年金改革を見直すことを支持すると発言した。ボルヌ氏はマクロン大統領を直接的に支える中道勢力の所属議員ではないが、閣僚に名を連ねる。社会党に近いグリュックスマン氏も7日、ルコルニュ元首相と面会した後、年金改革の凍結が可能になると発言した。社会党のフォール党首はボルヌ氏の発言を受け、「遅ればせながら、前向きな目覚め」であると発言。環境政党・欧州エコロジー=緑の党のトンデリエ党首や労働組合の幹部からも好意的な反応が聞かれる。年金改革の見直しを突破口に、大統領が左派から後継首相を任命する可能性が浮上している。
ルコルニュ首相が辞任を決断する直接的な引き金となったのは、これまで政権を支えていた中道右派の共和党が政権協力を取り止める意向を示唆したことだった。共和党は、これまでとほぼ変わらない中道寄りの閣僚人事と、政界を引退していたルメール元経済財務相の再入閣を事前に知らされていなかったことを信頼の欠如と非難し、政権協力の取りやめを決断したとされる。左派から後継首相を指名する可能性が浮上していることは、共和党に対する政権協力の再考を促す意図もあるのだろう。共和党と社会党はマクロン大統領の就任以前のフランス政界を支えてきた二大政党で、ライバル関係にある。共和党が政権発足に協力しない場合、左派主導の政権誕生に近づく。
ただ、中道勢力が共和党の政権協力を改めて取り付けた場合も、それはこれまでと同じ構図で、議会の過半数を確保できない。逆に中道勢力が社会党の政権協力を取り付けても、共和党かその他の左派政党が政権に協力しなければ、議会の過半数を確保することはできない。社会党・共和党に異なるアプローチで政権協力を促しているとすれば、その試みが成功するとは限らない。左派が主導する政権が誕生するのか、解散・総選挙に突入するのか、48時間の交渉期限が近づいている。
田中 理
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