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フランス新首相が就任1ヶ月で辞任

~解散・総選挙で極右政権誕生への警戒高まる~

田中 理

要旨
  • 9月に就任したばかりのフランスのルコルニュ新首相が辞任した。政権運営や予算審議で野党の協力を求めたが、協力を取り付けられないまま、議会や欧州委員会への予算案の提出期限が迫ってきた。5日に発表した閣僚人事に野党勢が反発し、7日に予定する所信表明演説後の内閣不信任案が可決される見込みとなり、野党勢の協力が得られないまま自ら辞任した。

  • 首相の任命権と議会の解散権を持つマクロン大統領は、自らに近い人物を再び首相に任命するか、政治色の薄い非政治家を首相に任命するか、穏健野党の出身者を首相に任命するか、議会の前倒し解散・総選挙を決断することになる。議会の信任が得られない首相の任命を繰り返せば、マクロン大統領に批判の矛先が向かいかねない。国民の間で解散・総選挙を求める声が高まっており、マクロン大統領がこうした声を無視し続けることが出来なくなる恐れもある。

  • 議会の解散・総選挙が行われた場合、マクロン大統領を支持する中道勢力や左派が議席を失う一方、極右勢力が議席を積み増す可能性がある。前回選挙では、初回投票での極右の伸張を受け、中道と左派が候補者を一本化し、極右の政権奪取を阻止した。今回は中道と左派が支持を落とすとみられるうえ、両勢力間の関係が悪化しており、反極右での選挙協力が前回ほど機能するとは限らない。極右政権誕生への警戒が高まっている。

2026年度予算案での議会の協力が得られずに辞任したフランスのバイル首相の後を継ぎ、9月9日にマクロン大統領が任命したルコルニュ首相は10月5日、1ヶ月未満で辞任した。ルコルニュ首相は野党勢との協議の結果を踏まえ、組閣や予算案を固める方針だったが、野党勢の十分な協力が得られないまま、来年度予算案の国民議会(下院)と欧州委員会への提出期限が10月中旬に迫っていた。ルコルニュ首相は、野党勢から批判の多い憲法49条3項を利用しないことを約束し、バイル前首相が掲げた祝日の2日廃止による景気浮揚の方針を撤回したほか、富裕層の租税回避に用いられることが多い持ち株会社の金融資産に対する課税制度を創設することや、バイル前首相が導入した高所得者に対する時限的な課税措置を2026年も継続する意向を示唆したものの、社会党が要求してきた超富裕層への資産課税(提唱した経済学者の名前からズックマン税と呼ばれる)の導入や、マクロン大統領の年金改革の一時停止と見直しを否定した。

大統領を支持する中道3政党と政権に協力する中道右派の共和党(LR)は、議会の過半数の議席を確保していない(図表1)。ルコルニュ首相は難しい選択を迫られていた。政権に協力する共和党は、ルコルニュ首相の移民政策が不十分であると主張しているほか、首相が協力を模索する中道左派の社会党(PS)の要求に沿った形に予算案を大幅に修正すれば、政権への協力を取りやめる可能性も示唆していた。共和党が政権協力を取り止めると、社会党の協力が得られた場合も、議会の過半数には届かない。

図表
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ルコルニュ首相は3日に野党との再協議を終えた後、5日に閣僚名簿を発表し、7日に所信表明演説を予定していた。これまで政権に協力してきた共和党は、閣僚の布陣が中道勢力に偏っているとして、政権支持を取り止める方針を固めた。他の野党勢も、ルメール元経済財務相の国防相への再入閣に、現在の財政危機を招いた張本人であるとして反発し、所信表明演説後に内閣不信任案を提出する意向を示唆していた。政権運営や予算審議で野党の協力を取り付けることが困難となり、ルコルニュ首相は内閣不信任案の可決を待たずに自ら辞任した。ルコルニュ首相は、2017年にマクロン大統領が就任して以来、7人目の首相で、2024年以降では5人目の首相だった。

相次ぐ首相交代で、マクロン大統領の任命責任が問われかねない。マクロン大統領は、これまで同様に自らに近い立場の首相を任命するか、より政治色の薄い非政治家(テクノクラート)を首相に任命するか、政権基盤を強化するために社会党から首相を任命するか、或いは議会を解散し、総選挙を行うかを決断することになる。首相の任命権や議会の解散権は大統領の専権事項だが、議会の信任が得られない首相の就任を繰り返せば、政治の機能不全をもたらしているとしてマクロン大統領に批判の矛先が向かう恐れもある。現在の世論調査をみる限り、解散・総選挙は政治停滞を打破することにつながるかは微妙なところだが、フランス国民の間で選挙を求める声が高まっており、マクロン大統領がこうした声を無視し続けることが出来なくなる恐れもある。

議会の解散・総選挙が行われた場合、マクロン大統領を支持する中道勢力や左派が議席を失うとみられる一方、国民連合、共和党、国民連合以外の極右勢力、左派会派以外の左派が議席を積み増す可能性がある(図表2)。国民議会選挙は二回投票制で行われ、各選挙区の初回投票で50%以上の票を獲得した候補がそのまま勝利する。50%以上の票を獲得する候補がいない場合、上位2名と12.5%以上の票を獲得した候補が決選投票に進み、決選投票で最多票を獲得した候補が勝利する。

図表
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前回2024年の選挙では、初回投票で国民連合が最多の支持を集めたが、左派会派や中道勢力も善戦し、3人以上が決選投票に進んだのは577の全選挙区のうち311に上った。このうち多くの選挙区で、極右の勝利を阻止するため、左派会派と中道勢力が候補者を一本化した(図表3)。その結果、国民連合は決選投票でも最多の支持を集めたにもかかわらず、獲得議席が伸び悩んだ。

図表
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今回は中道勢力や左派勢力が何れも支持を落とし、3人以上が決選投票に進出する選挙区が少なくなると考えられるうえ、両勢力間の関係が悪化しており、反極右での選挙協力が前回ほど機能するとは限らない。国民連合の単独、或いは政策的な立場が比較的近い共和党と合わせての過半数到達や、過半数に近い議席を獲得する可能性も排除できない。前回は左派会派が最大勢力となったが、中道勢力と共和党を合わせた議席がこれを上回ったため、マクロン大統領は左派から首相を任命することを拒否した。極右と共和党が議席を積み増し、両党の合計議席を上回る政権の枠組みが見当たらない場合、マクロン大統領が極右の首相任命を拒むことは難しくなるだろう。

前倒し選挙後も中道、左派、極右の間の三つ巴の構図が変わらず、政権発足ができない状況が続く場合、マクロン大統領に対して大統領選挙の前倒しを求める声が高まる恐れがある。任期途中で大統領を辞めさせることは難しいが、政治停滞を打破するために自ら辞任を決断することはできる。1959年に現在の統治体制(第五共和制)が始まって以降、大統領が任期前に辞めたのは、在任中に死去したポンピドゥー大統領(1969年6月~1974年4月)を除けば、地方分権化を求める国民投票に敗れたドゴール大統領(1959年1月~1969年4月)以外にいない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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