- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- リスク選好の改善も追い風に新興国金融市場の活況が続く
- World Trends
-
2025.09.11
新興国経済
アジア経済
アジア経済全般
アジア金融政策
新興国経済全般
新興国金融政策
株価
為替
トランプ関税
リスク選好の改善も追い風に新興国金融市場の活況が続く
~米ドル安や金融緩和期待も株式市場の活況を招くも、各国が直面する個別事情には要注意~
西濵 徹
- 要旨
-
- 新興国の金融市場は活況を呈しており、株価指数の上昇や通貨高がみられる。米中関係の改善期待に加え、FRBの利下げ観測による米ドル安の進行も追い風に、新興国への資金流入が促されている。
- トランプ米政権の関税政策は世界経済に不透明感をもたらしたが、米中協議を通じて最悪の事態は回避されている。さらに、米中関係の改善期待の高まりを受けて、世界経済への楽観的な見方が広がっている。
- 一方、米国はBRICS諸国に高関税を課すなど標的とする動きを強めており、BRICSの結束や加盟希望の動きが広がっている。また、アジア新興国に対する関税率は引き下げられたが、サプライチェーンの見直しや輸出先の変更を目指す動きがみられ、世界貿易の萎縮が世界経済の成長機会を狭める可能性がある。
- 新興国の株式市場は特に活況であり、インフレの沈静化や金融緩和の拡大余地も後押ししている。しかし、すべての新興国が同様の恩恵を受けている訳ではなく、米国との通商関係や内政の不安定さなどが通貨や金融政策を制約する国もある。今後は各国の個別事情にこれまで以上に注目する必要がある。
新興国の金融市場が活況を呈している。足元の国際金融市場においては、新興国への資金流入の動きが活発化するなか、一部の国において主要株価指数が最高値を更新し、新興国通貨も対ドルで上昇基調を強めている。
このところの世界経済や金融市場を巡っては、トランプ米政権の関税政策に翻弄されてきた。米国は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の是正を目的に関税政策を用い、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境の構築を図っている。こうしたなか、米国はすべての国に一律で10%の関税を課すとともに、一部の国や地域に非関税障壁などに応じて税率を上乗せする相互関税を導入している。相互関税とは別に、米国は自動車や自動車部品、鉄鋼製品、アルミ製品に追加関税を課しており、銅や医薬品にも追加関税を課す方針を示すとともに、対象に半導体を追加する方針を示すなど、世界貿易に影響を与える懸念はくすぶる。一方、中国との間では、中国が報復措置に動いたことで、米中双方が報復合戦を演じるとともに、互いに高関税を課し合う貿易戦争に発展した。しかし、その後の米中協議を経て、米中は互いに報復関税を撤廃するとともに、関税の上乗せ分と輸出規制を一時停止することで合意したほか、停止期限も最長11月中旬まで延期されるなど、最悪の事態を回避する展開が続いている。さらに、このところは米中が様々なレベルで対話の機会を持つ動きが確認されており、来月末に韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に合わせて米中首脳会談の実施を模索しているとの見方も出ている。こうしたことから、米中関係の改善を期待する向きが強まり、世界経済の追い風になるとの期待に繋がっている可能性がある。
なお、米国はインドやブラジル、南アフリカなどBRICSに加盟する国々に軒並み高い関税を課すなど、BRICSを標的とする姿勢を強めている。こうした動きを受けて、BRICS諸国は結束を強める動きをみせているほか、新興国のなかにはBRICSへの加盟を目指す動きが広がりをみせている。その一方、米国は、近年における世界経済の成長センターとなってきたアジア新興国に対する関税について概ね20%前後とすることで合意しており、関税が発表された当初と比べて水準が引き下げられたことから、相互関税による悪影響は幾分緩和することが期待される。しかし、トランプ関税をきっかけにサプライチェーンの見直しの動きが活発化することが予想されるほか、米国向け輸出のハードルが高まることを受けて、米国以外の国や地域への輸出拡大を模索する姿勢も強まっている。こうした事情も、新興国が主要国を中心とする既存の枠組みに代わる形で、BRICSをはじめとする新興国を中心とする枠組みへの参加意欲を強める一因になっていると捉えられる。とはいえ、こうした動きをきっかけに世界経済の分断が広がれば、世界貿易の萎縮を招くとともに、結果的に世界経済の成長機会が狭められることが懸念される。
こうした状況にもかかわらず、足元の国際金融市場は活況を呈しており、なかでも上述したように新興国市場を取り巻く環境は大きく改善している。この背景には、米中関係の改善により世界経済を巡る不透明要因が払拭されるとの期待が高まっていることが挙げられる。また、年明け以降はトランプ米政権の政策運営を巡る不透明感が米ドル安観測を招いており、新興国通貨の上昇に繋がる動きがみられた。さらに、足元においては米国の雇用環境が変調する動きをみせるなか、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げが意識されており、米ドル安が一段と意識されやすい環境となっている。ただし、一部の新興国においては、トランプ関税による悪影響が懸念されるとともに、政治を巡る混乱など各国固有の事情が影響して通貨に調整圧力がくすぶる動きがみられる。こうした事情を反映して、ここ数ヶ月のMSCI新興国通貨指数は上値が抑えられる展開をみせてきたものの、足元においては持ち直しの動きを強める兆しがみられる。これは、金融市場におけるリスク選好が改善していることも追い風に、より高い収益を求めて新興国への資金流入が活発化している可能性を示唆している。

さらに、足元の新興国においては、為替市場以上に株式市場において活況の度合いが強まっている様子がうかがえる。金融市場におけるリスク選好の改善に加え、上述のように米ドル安が意識されやすい環境が続いているなか、より高い収益を求めて新興国への資金流入の動きが活発化する動きがみられる。また、ここ数年の新興国においては、商品市況の高止まりに加え、米ドル高を受けた自国通貨安による輸入物価の押し上げも重なりインフレが高止まりする展開が続いてきた。しかし、商品高の一巡を受けてインフレが沈静化している上、米ドル安による自国通貨高が意識されるなか、新興国中銀のなかには金融緩和余地が拡大する動きがみられる。そして、トランプ関税による実体経済への悪影響が懸念されるなか、新興国中銀は利下げによる景気下支えに動く流れが広がりをみせている。こうした動きも追い風に、MSCI新興国株式指数は最高値を更新しており、足元の新興国金融市場においては、通貨、株式ともに活況を強めている様子がうかがえる。

ただし、新興国と一口にいってもすべての新興国において同様の環境が醸成されている訳ではないことに留意する必要がある。一部の新興国は、トランプ関税によって景気に深刻な悪影響が出ることが懸念されるほか、米国との通商関係の行方も見通しが立たないなど、金融市場の追い風となりにくい状況に直面している。さらに、内政事情といった別の要因が影響して、米ドル安にもかかわらず通貨の上値が抑えられており、中銀が金融緩和を躊躇せざるを得ない事態に直面する国も存在している。よって、これまで以上に各国が直面する状況を注意深く見極める必要性は高まっている。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
台湾・9月輸出、半導体などの旺盛さを反映して過去最高に(Asia Weekly) ~原油価格の再上昇を受けて、多くのアジア新興国でインフレ率が再び加速~
アジア経済
西濵 徹
-
新たなスキャンダルに揺れるインド、今度は「選挙」を巡る問題噴出 ~選挙制度の信頼が揺らぎ、モディ政権への批判が再燃、政治不安が新たなリスクとなるか~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ金融市場の混乱が収まらない ~投資信託の規制強化が株安を招き、実体経済や政策運営への波及が懸念される~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、3年8ヵ月ぶりの利上げ、政策スタンスも転換 ~インフレを警戒した「予防的引き締め」、追加利上げに含みも慎重姿勢、ルピーや株価は?~
アジア経済
西濵 徹
-
ベトナム景気は引き続き外需・投資をけん引役に加速 ~7-9月は4年ぶりの高成長、市場格上げ期待の一方で物価・対外収支に懸念材料~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
金融市場はブラジルの右派回帰を好感、株価・レアルともに上昇 ~議会選も右派躍進、財政再建への期待の一方で実現性に課題、左派の巻き返しも要注視~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル大統領選は決選投票へ、フラビオ氏が首位 ~フラビオ・ボルソナロ氏が予想以上の得票、市場は財政・外交政策の行方に注目~
新興国経済
西濵 徹
-
メキシコ中銀、政策判断の自由度を重視 ~3会合連続で金利据え置き、FRB利上げへの機械的追随を否定、ペソ相場はどうなる?~
新興国経済
西濵 徹
-
景気減速にもかかわらず南ア中銀は2会合ぶりの追加利上げを決定 ~原油高やサービス物価を警戒、ランド相場は外部環境に左右される展開が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀は5会合連続の利下げも、緩和継続には慎重姿勢 ~景気減速を重視する一方、原油高・異常気象・財政運営が引き続きインフレリスクに~
新興国経済
西濵 徹

