株高不況 株高不況

工作機械受注が教えてくれる日本株・世界経済(25 年8月)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月45,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.3%、NASDAQが+0.4%で引け。VIXは15.0へと低下。

  • 米金利はベア・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.370%(+1.4bp)へと上昇。
    実質金利は1.716%(+3.4bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+52.7bpへとプラス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが堅調。USD/JPYは147後半で一進一退。コモディティはWTI原油が62.6㌦(+0.4㌦)へと上昇。銅は9914.0㌦(▲1.0㌦)へと低下。金は3653.3㌦(+4.8㌦)へと上昇。

注目点

  • 筆者が世界景気と日本株の先行きを占う上で、定点観測する工作機械受注統計(日本工作機械工業会)は一時的な停滞を経て8月は増加経路に復した。米国の通商政策に対する不透明感から世界的に設備投資が足踏みするかもしれないが、国内の設備投資計画は堅調であり、米国でも省力化投資が旺盛であることから、回復の流れは変わらないだろう。中国の景気刺激策による下支え効果も期待される。

  • 9月9日に発表された8月の受注額(原数値)は1197億円、前年比伸び率は+8.1%であった。筆者作成の季節調整値は前月比▲3.1%と減少したが、3ヶ月平均値では+0.1%と辛うじてプラス基調を維持。単月の内訳は「国内向け」の季節調整済み前月比が▲5.2%と2ヶ月連続で減少し、3ヶ月平均でも同▲1.2%と弱さが続き、前年比も▲1.4%とマイナス圏に沈んだ。設備投資意欲はそれなりに強いものの、人手不足が足かせとなり、設備投資の進捗が遅々としているのかもしれない。関連投資の機械受注に目を向けると、受注残高および手持ち月数が積み上がっており、新規の受注が抑制されている可能性が示唆されている。他方、「外需」は前月比▲2.4%と反動がみられたものの、3ヶ月平均では+0.9%と増加を続け、前年比では+12.0%と10ヶ月連続でプラスを維持した。地域別詳細は確報を待つ必要があるが、7月までの傾向から判断すると欧州向けが回復する中、米国と中国、韓国・台湾が増加基調を維持したとみられる。

  • 日本の工作機械受注は、そのサイクルがグローバル製造業PMIやアナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)と連動性を有する。8月グローバル製造業PMIは50.9と好不況の分かれ目の目安とされる50を上回った。通商政策の不透明感が後退する中、新規受注が回復し、各国で景況感の改善がみられた。そうした下で、TOPIXの予想EPSは企業の資本効率改善に向けた取り組みが奏功したことも相まって増加基調を維持している。

・製造業PMIを地域別にみると、日本は49.7へと0.8pt上昇した。AI向け半導体以外の半導体需要が力強さを欠き、製造業全体として加速に乏しい展開が続いているが、トランプ関税による直接的な影響は限定的である。個人消費が緩慢ながらも回復傾向にあることを踏まえれば、大崩れは想定しにくくなってきた。事実、国内自動車販売は大きくみれば、持ち直し傾向にある。この間、IT関連財の生産集積地である台湾は47.4へと1.1pt上昇した。輸出受注や生産統計の方向感と相違がみられ解釈が難しい面はあるが、(PMIの調査項目である)新規輸出受注の落ち込みに鑑みると、半導体にかかるトランプ関税を見越した駆け込み需要の反動が始まっているのかもしれない。この間、韓国も48.3へと0.3pt上昇したものの、水準は低い。

・米国は53.0へと3.2ptもの上昇となった。類似指標のISM製造業(48.7)に比べて著しく強いため、割り引いてみる必要はあるが、自動車販売が底堅さを維持する下で、景況感は上向いている。ユーロ圏は50.4へと0.8pt上昇し、遂に50を突破した。財政拡張に舵を切ったドイツが49.8(7月49.1)と苦境から脱出しており、域内景気を押し上げている様子が窺える。対米輸出の落ち込みに対する警戒感もあって、各国政府が自国産業の梃入れに動いている様子が見て取れる。もっとも、現時点において欧州の新車販売台数はコロナ期に生じた断層が埋まる気配は感じられない。

・中国は50.5へと1.0pt上昇。既往の不動産市況悪化とトランプ関税対策として、中国当局が景気対策に本腰を入れ始めたことが下支えとなっている模様。マネー関連統計に目を向けると、7月の社会融資総量(新規フローの12ヶ月平均値)は前月比+1.0%と8ヶ月連続で増加し、社会融資総量残高も前年比+9.0%と底打ちが明確化している。新規融資のGDP比(前年差)をとった、通称クレジットインパルスをみても+1.9ptとプラスに転化しており、政策態度の変化がマネー統計に表面化してきた可能性が窺える。この指標が日本株の先行指標として機能してきた経緯を踏まえると、現在の株高は一定の裏付けを伴っていると言える。

  • 工作機械受注サイクルの位置取りを確認するために、縦軸に受注額の水準(36ヶ月平均値からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、直近数ヶ月は中心点付近で小さな渦を描いている。過去の経験則に従うなら今後は右方向へ進んだ後、上向き方向に進路をとると予想され、回復傾向がはっきりとしてくるだろう。

藤代 宏一


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