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投票後のフランスの政治シナリオを読む

~まずは左派取り込みの成否に注目~

田中 理

要旨
  • 8日のフランスの内閣信任投票は不信任票が上回り、昨年12月に就任したバイル首相は辞任する。マクロン大統領は近く後継首相を任命するとしており、極右の躍進が予想される国民議会(下院)の解散・総選挙はひとまず回避される方向で進んでいる。穏健左派の社会党の政権協力を取り付けることを目指しているが、これに失敗する場合や次期政権が予算協議に行き詰まった場合、改めて解散・総選挙のリスクが浮上しよう。
  • 社会党は政権協力と引き換えに首相ポストや財政政策の転換を求める可能性がある。昨年の総選挙での左派会派の公約と比べて、社会党が独自に発表した予算案の財政拡張度合いは後退しているが、政府予算案に比べて財政再建が遅れることは避けられない。向こう数ヶ月の間の格付けレビューや予算協議が引き続き重要となってくる。
  • 社会党の政権協力を取り付けることは、短期的には政権基盤の安定につながるが、中長期的には極右の更なる支持拡大につながり、政治リスクを高める恐れがある。特に社会党と共和党の二大政党が揃って政権に協力する場合、極左と極右が批判票の受け皿となり、次の議会選挙や大統領選挙で極右が勝利する可能性が高まる。

9月8日のフランスの内閣信任投票は信任194、不信任364、棄権15の結果に終わり、昨年12月に就任したバイル首相の退陣が決まった(図表1)。突然の投票実施の意向を表明後、バイル首相は主要政党の関係者との協議を重ね、来年度予算案と政権への支持を取り付けようとした。だが、政権発足時や今年度予算成立時の内閣不信任投票を棄権した中道左派の社会党(PS)が不信任に回り、解散・総選挙となれば公職停止中のルペン前党首が議席を失うことになる極右政党・国民連合(RN)も即時解散を求めて不信任票を投じた。マクロン大統領の中道政党・アンサンブル(ENS)からも棄権者が1名出たほか(ちなみに、バイル首相は大統領を支持する別の中道政党・民主運動の党首)、政権に協力する中道右派の共和党(LR)が党議拘束をしなかった結果、13名が不信任に回り、9名が棄権した。他方で、海外県・海外領土・地域グループ(LIOT)の4名、無所属の3名が信任票を投じた。結局、来年度の予算協議の開始を前に内閣信任投票の実施を決めたバイル首相の賭けは失敗に終わった。

投票結果の判明後、大統領府は近日中に後継首相を任命するとの声明を発表した。国民議会(下院)を解散するか、解散せずに新たな首相を任命するかは、マクロン大統領のみが決定権を持つ。大統領はこの時点での解散・総選挙を回避し、後継首相の人選を進める(図表2)。投票に先駆けて、大統領を支持する3政党と政権に協力する共和党の党首を集めたマクロン大統領は、現在の政権の枠組みを広げ、社会党との協力の可能性を模索するように指示したとされる。大統領支持会派の3党に、かつての二大政党である共和党と社会党の議席を集めると、定数577(欠員3)のうち276議席に達する。今回の投票で信任票を投じた7名の野党議員を加えても、289の過半数(欠員を除くと288)には届かないが、現在の210議席から大幅に上積みすることができる(図表3)。さらに、政権運営に批判的な極左政党・不服従のフランス(LFI)を除く左派3党が政権に協力する場合、合計議席は331まで拡大し、安定した政権基盤を確保することができる。穏健左派の取り込みは次期政権が生き残る唯一の道だろう。ただ、フランスには右派と左派を横断する連立政権の前例はなく、長年の政敵である二大政党が大統領支持の下で結集するのは簡単ではない。社会党は政権に協力する見返りに首相ポストや財政政策の転換を求める可能性がある。社会党の要求を受け入れ過ぎると共和党が政権への協力を撤回する可能性がある。実際、共和党内には政権への協力継続を巡って意見が割れており、今回の投票でも多数の不信任票や棄権票が出た。社会党が政権に協力し、共和党が政権協力を撤回する場合の議席は227と、現在の210議席からは増えるが、安定した政権運営を行うのは難しい。極左を除く左派3党が政権に協力し、共和党が政権協力を撤回する場合の議席は282と、過半数には届かないが、現在よりも議会基盤を強化することができる。

昨年の総選挙で左派会派の一員として戦った左派4党は一枚岩ではなく、とりわけ社会党と不服従のフランスとの間で溝が広がっている。社会党は投票を前に独自の予算案を発表し、その内容は昨年の総選挙での左派会派の選挙公約と比べて、財政拡張の度合いが大きく後退している。政権への協力を視野に、現実路線への転向を模索しているものとみられる。穏健左派の取り込みに成功し、極右の躍進が不安視される解散・総選挙が回避されれば、フランスの政治リスクに対する不安は一旦後退しよう。だが、現実路線に転向したとは言え、政府の予算案に比べて拡張的な左派の政策要求を受け入れれば、財政再建が遅れることは避けられない。次期首相の人選、政権の枠組み、予算案の修正度合いによって、次期政権の財政運営の最終的な着地点を探ることになる。12日のフィッチを皮切りに、向こう数ヶ月の間に予定される主要格付け機関によるフランスの格付けレビューや、年末までの予算協議が引き続き重要となってこよう(図表4)。

中長期的にみると、社会党が政権に協力するが、共和党が政権への協力を撤回するケースの方が、社会党と共和党がともに政権に協力するケースよりも、政治リスクが高まる。前者の場合、極左と極右を除く主要政党が揃って大統領支持に回ることで、極左と極右が批判票の受け皿となる。この場合、次の議会選挙や大統領選挙で極右が勝利する可能性が高まろう。後者の場合、共和党と極右の間で保守票が割れる結果、極右勝利の可能性がやや後退する。

図表
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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