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- 石破首相辞任、続きそうな政局リスク
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石破首相が辞任を表明したことで、ポスト石破が誰になりそうかに注目が集まっている。小泉・高市氏の両名が有力視され、それぞれの場合で財政リスク・円安リスクの具合が変わってくる。また、外交上のリスクとして赤沢大臣が交代して、トランプ政権とのやりとりが不連続になることも不安を残す。
ポスト石破
石破首相は、急遽9月7日に記者会見を開き、辞任を表明した。予定されていた9月8日の総裁選挙前倒しの判断はなくなった。そのことで、党内の分裂を回避したとされる。もしも、自民党総裁選の前倒しを決める記名投票が行われれば、党内対立が決定的になるので、首相の辞任表明はそれを回避するために身を引いたという事情も語られる。石破首相自身の説明では、関税交渉に区切りをつけたことで今回のタイミングになったとする。
しかし、自民党内での対立は石破首相以外が次の首相になっても完全に消えることはないだろう。いずれにしろ、これで政局は流動化し、政局リスクがくすぶり続ける。
石破首相の辞任を受けた9月8日の株式市場は、午前中に前日比700円以上も大きく上げた。為替レートは、先週の雇用統計発表でドル安・円高に傾いた流れが一転して元の円安水準に戻した。
この政治の不安定さは、より長期に亘って、マーケット動向に何らかの悪影響を与えることも十分に警戒しなくてはいけない。具体的には、円安リスクと長期金利の上昇リスクが、次の政権を誰が担うかによって高まっていく点が要警戒だ。仮に、ポスト石破が小泉進次郎農水大臣を軸にまとまっていきそうであれば、現状維持的な姿に向かい、どちらかと言えば混乱は回避されるだろう。対抗馬と目される高市早苗氏になれば、財政拡張リスクが意識される。日銀の利上げにも厳しい目を向けるだろうから、それは円安リスクになる。円安傾向が続くことは、物価上昇リスクの高まりにつながり、財政拡張の動機にもなる。また、小泉・高市氏以外の人選に傾いた場合でも、様々なリスクがイメージされそうだ。
短命政権のリスク
今後、次期首相を決める自民党総裁選挙は、全国一斉の党員投票を行うフルスペック型を採れば10月にすれこみ、国会議員と県連代表に絞った簡易型を選択すれば、より早期になると見込まれている。ポスト石破がたとえ誰になったとしても、やはり高い求心力を発揮できそうにないという流れになる可能性も高いとみられる。仮に、短命政権リスクがつきまとうとなれば、円安リスクへと傾くことになる。おそらく、この短命政権リスクは、次の衆議院選挙で自民党が勝利するまでは続くだろう。理由は、今の自民党が少数与党の立場であることに起因する。少数与党の国会運営は、審議で野党の政策要求を受け入れなくてはいけない。野党の要求を飲むと、自民党のリーダーシップは薄れて、内閣支持率が上がりにくくなる面もある。
一方、政治の専門家たちからは、野党のどこかと自民党・公明党が連立政権を組むという見方も聞こえてくる。しかし、与党が弱く、衆議院の解散が近いと考えられると、連立政権を組もうとする野党は現れにくくなる。ポスト石破の支持率が低迷するとなれば、野党側から提出される内閣不信任案の時期は早いタイミングになるかもしれない。
活路は、自民党総裁選で決まった次期首相が、近い将来に予想される衆議院の解散で勝利するしかない。だから、自民党総裁選挙では、次の選挙で勝利できることを念頭に置いた人選になりそうだ。筆者は、そのためにはポスト石破が是非、自分の色を出した新しい経済政策の方針を打ち出して欲しいと思う。しかし、人によっては、財政拡張のリスクが生じる。仮に、経済対策として、大型補正予算を組もうとすれば、長期金利の上昇リスクが高まるかもしれない。野党側が、消費税減税を前面に打ち出してくると、それへの対抗策として給付金の大型化なども考えられる。打ち出すべき経済政策については、期待が半分あり、不安も半分ある。
対トランプ関税
気になる点は、対トランプ関税の動向だ。赤沢大臣が辞めると、ラトニック商務長官などと再び新たな人間関係を築かなくてはいけない。トランプ政権とのやりとりが不連続になることも非常に気懸かりである。特に、対米投資5,500億ドルの取り決めはまだ曖昧な部分が多く残っている。赤沢大臣の後任は、それをうまく差配できるのだろうか。例えば、米国サイドが「赤沢大臣と言っていることが違う」と指弾してきたとき、次の交渉担当大臣は上手に抗弁できるのかが心配である。赤沢大臣を次の政権が留任させる手はあるが、石破首相と距離がある人物が次期首相になればその芽はないかもしれない。
トランプ政権側も、日本の新政権が短命化しそうであれば、厳しい要求を新たに突きつけてくる可能性もゼロではない。赤沢大臣の後任は、相当にハードネゴシエイターで、米国とのパイプを持っている人物でなくてはいけない。ここは難題である。
石破首相は、会見で「関税合意の責任を全うできなかったことが心残りだ」と述べていた。その発言には、日本の交渉担当者が交代すると、トランプ政権との交渉が厳しくなりそうだという一抹の不安があったのかもしれない。自動車など対米輸出関連の産業には、隠れた潜在リスクが生じているとみることもできる。
国民からの厳しい目
ポスト石破が、小泉大臣以外だったときは、国民から厳しい目が向けられると予想される。自民党内では、石破首相は参議院選挙で敗北して求心力が急低下したが、内閣支持率では上昇していた。これは「石破やめるな」発言への応援と捉えられている。石破首相は、党内からの突き上げを横目にみて、日米関税交渉に力を尽くした。国難とも言うべき関税交渉の間に、石破下ろしに奔走した人々は、単に権力闘争のために動いたと国民の目には映ったに違いない。だから、尽力した石破首相を引きずり下ろしても、あまり評価はされない可能性がある。
筆者もそうであるが、現在のわが国が優先すべきことは相互関税15%に落ち着いたとはいえ、経済の基盤は脆弱なのだから、どうやって企業の輸出拡大を応援するかが課題になる。財政拡張型の景気対策などよりも、アジア諸国との貿易連携を強化して販路拡大を目指した協力の方が重要になろう。
その点、ポスト石破の有力候補である小泉大臣は、「権力闘争よりも国難回避、経済建て直し」を軸に、国民から向けられる自民党への厳しい視線を自らの求心力アップにつなげられるかが焦点になるだろう。
日銀はどう動く?
石破政権下では、日銀が年内利上げにどこかで動くだろうという観測があった。もしも、ポスト石破が高市氏に傾けば、前述のように年内利上げは難しくなろう。
では、日銀は今度どのように振る舞うのだろうか。ひとつの見方は、9月、10月の決定会合は様子見をして、「不確実性はまだ強い」という論調で旗色を鮮明にしないシナリオである。石破辞任でその正起確率は高まっている。
小泉大臣がポスト石破の最有力になれば、年内12月の利上げの芽はつなぎ止められる。その場合でも、経済閣僚のポストが誰になるかとか、トランプ政権からの追加要求が新政権に突きつけられないかとか不確定な要素があるので、日銀の姿勢は自ずと慎重になるだろう。
おそらく、日銀が次の利上げに意欲をみせるかどうかは、次期政権の枠組みが定まって、さらに経済対策のスタンスが決まった後になるのだろう。石破首相辞任によって、日銀の利上げが年内に行われる予想は一旦、宙に浮いたかたちになっている。FRBの9月利下げはあると思うが、日銀の年内利上げの仕切り直しによって円安圧力が高まるという見方ができる。
熊野 英生
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