株高不況 株高不況

賃上げ余力と利上げ 労働分配率はなお低い

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月45,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は休場。USD/JPYは147前半で一進一退。

注目点

  • 9月1日に2025年4-6月期の法人企業統計季報が発表された。前年比でみた円安効果の剥落とトランプ関税の影響により輸送用機械器具製造業(≒自動車)の経常利益が前年比▲29.7%と落ち込んだことを主因に、製造業の経常利益は同▲11.5%と減益であった。季節調整済み前期比では▲6.6%とトランプ関税の影響がみられた。現時点において日系自動車メーカーは、輸出価格を引き下げることで現地販売価格を据え置き、販売数量を維持する戦略をとっているため、国内事業の収益が犠牲となっている。他方、非製造業は季節調整済み前期比が+4.4%、前年比が+6.6%と、どちらの尺度でみても堅調であった。

  • そうした中、労働分配率(人件費÷付加価値)は61.1%とやや持ち直し、4四半期平均でも60.4%と下げ止まった。規模別では中小企業(4四半期平均)が74.3%を回復し、大企業(同)も45.0%へと小幅に上向いた。もっとも、全体の労働分配率はコロナ期前との比較で顕著に落ち込んでいる。規模別にみると、人手不足が特に深刻な中小企業においては、雇用確保の必要性から(労働分配率の低下を伴わない程度の)賃上げが実施されている。日銀短観において、中小企業の雇用人員判断DIが深いマイナス(人手不足超)領域にあることを踏まえれば、今後も労働力を充足するための賃上げが予想される。一方、大企業においては1990年代前半と同等の春闘賃上げ率が示されているとはいえ、利益水準に見合った賃上げにはなっていない。このことは、実質賃金の弱さを説明すると同時に、賃上げの余力がなお豊富であることを物語っている。

図表1
図表1

  • 日銀はトランプ関税が企業収益を圧迫することで賃上げの勢いが鈍化し、(まだ2%に到達していないと日銀が分析する)基調的な物価上昇率が足踏みすることを警戒してきた。これが5月1日以降の金融政策決定会合で利上げを見送った主な理由であるが、人手不足の深刻さと労働分配率の低さに鑑みれば、賃上げの勢いが急速に衰えるとの懸念はやや過剰にも思える。7月下旬以降、米国の通商政策を巡る不透明感が後退していることを踏まえれば、賃金と物価の相互刺激が頓挫するとの懸念は杞憂に終わる可能性が高いのではないか。実際、植田総裁は先のジャクソンホール講演で「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状況が続き、賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」としている。9月会合は「ハードデータを確認したい」として利上げを見送り、その後の10月会合で利上げを再開するのではないか。

藤代 宏一


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