トランプ関税で雇用大幅鈍化も失業率は低水準(7月米雇用統計)

~トランプ大統領は結果に不満で担当部門の責任者を解任~

桂畑 誠治

要旨
  • 25年7月の非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差+7.3万人(前月同+1.4万人)と市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+10.4万人(筆者予想同+9.6万人)を小幅下回った。政府部門が同▲1.0万人(前月同+1.1万人)と減少に転じた一方、民間部門は同+8.3万人(同+0.3万人)と加速したが、市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+10.0万人を小幅下回った。ただし、5、6月分の非農業部門雇用者数は、5月同+1.9万人(改定前同+14.4万人)、6月+1.4万人(同+14.7万人)と下方改定され、合計▲25.8万人の大幅な下方修正となった。州・地方の教員が▲10.9万人、民間部門が▲13.9万人(製造業▲1.2万人、派遣業▲1万人など)と下方修正された。
  • 米雇用の基調をみると、非農業部門雇用者数が5、6月の大幅下方改定等によって、3カ月移動平均で前月差+3.5万人(前月同+6.4万人)、6ヵ月移動平均で前月差+8.1万人(同+8.7万人)と急減速した。民間雇用者数は、3カ月移動平均で前月差+5.2万人(同+6.8万人)と減速した。
  • 部門別では、政府部門で、連邦政府が政府効率化省(DOGE)による政府支出削減のための職員解雇によって前月差▲1.2万人と減少を続けた他、州・地方政府が同+0.2万人と大幅に鈍化したことで、政府全体で同▲1.0万人(前月同+1.1万人)と減少に転じた。 民間部門は、同+8.3万人(同+0.3万人)と加速した。医療・社会支援が強い需要や人手不足を背景に、同+7.33万人と引き続き最大の増加となった。小売業(同+1.57万人)、保険(同+0.75万人)、教育サービス(同+0.58万人)、宿泊(同+0.51万人)、輸送・倉庫(同+0.36万人)、専門・技術サービス(同+0.31万人)等が増加した。
  • ドナルド・トランプ米大統領は、雇用統計発表元の労働省労働統計局(BLS)のエリカ・マッケンターファー局長を解任した。非農業部門雇用者数の大幅な下方修正が、政治的な動機に基づくと証拠を示さずに主張した。トランプ政権の経済統計の結果に対する根拠なき介入や、それに伴うハラスメント行為は、米政府だけでなく米経済統計の信頼性を失わせるリスクを高める。
  • 金融市場では、7月の非農業部門雇用者数が市場予想を下回った他、5、6月の数値が大幅に下方改定されたことを受け、FF金利先物の示す9月利下げの可能性が約80%(前日約20%)に上昇し、年末のFF金利の水準が3.81%と前日の4.04%から大幅に低下した。また、2年国債金利、10年国債金利は低下し、ドルは主要通貨に対して弱含んだ(P6)。
  • トランプ2.0では、制度や政策の大幅な変更を多数の大統領令によって早期に実行しているため、混乱を招き、米経済は減速している。特に通商政策では、関税の賦課・撤回・上乗せの実行や、大幅な追加関税賦課などの発言を繰り返すことで不確実性を高めており、企業が採用抑制や人員削減の動きを強め、民間部門雇用の増加ペース鈍化を招いた。 目先、25%の自動車・同部品への追加関税、10%の相互関税、30%の対中関税、50%の鉄鋼・アルミニウム関税、銅関税発動の影響が大きくなる中で、相互関税の上乗せが8月7日に発動する他、年内に対中国での関税の再引き上げなどが行われる可能性がある。更なるコストの増加やサプライチェーンの再構築を背景に、民間での採用抑制や人員削減の動きが続く可能性が高い。しかし、各国・地域との通商合意が大幅に進み、先行きの不確実性が和らげば、年末にかけて民間雇用の増加ペースは再び加速すると見込まれる。
  • 平均時給は、前年同月比では+3.9%(前月+3.8%)と上昇し、市場予想中央値+3.8%(筆者予想+4.0%)を上回った。労働投入量は、前月比で+0.3%(前月同▲0.3%)と増加に転じたが、3ヵ月移動平均・3ヵ月前対比年率で+0.8%(前月+1.6%)と減速、労働需要の拡大モメンタムが鈍化していることを示している。ただし、労働市場の急激な悪化を示していない。
  • 7月の失業率(U3、家計調査)は、4.2%(前月4.1%)と市場予想中央値(筆者予想4.2%)と一致し、依然低い水準にとどまっている。労働参加率が62.2%(前月62.3%)と低下していなければ、失業率は4.3%に上昇していたと推測され。
  • 以上のように、7月雇用統計では、トランプ関税による不確実性の高まりによって、雇用の増加ペースが鈍化しているものの、労働投入量、平均時給などは安定しており、労働市場の悪化を示していない。また、失業率は依然として低い水準にとどまっていることから、労働市場全体としては、緩やかな軟化を続けていると判断される。
こちらのレポートについては、PDF形式によるご提供となっております。
右上にある「PDF閲覧のアイコン」をクリックしてご覧下さい。

本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ