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2025.06.19
アジア経済
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フィリピン中銀、ペソ安も利下げ断行、総裁は追加利下げに含み
~総裁は為替介入に消極姿勢、ペソ相場の重石となる材料山積のなか、先行きの政策判断に影響も~
西濵 徹
- 要旨
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フィリピン中銀は、19 日の定例会合で政策金利を5.25%に引き下げた。これにより、昨年8 月以降の累計の利下げ幅は125bp となるなど金融緩和姿勢を鮮明にしている。なお、中銀はトランプ関税の動向など外部環境に応じて政策判断を柔軟に行ってきた経緯がある。足元では中東情勢の悪化による米ドル高に伴うペソ安や原油高によるインフレ再燃の懸念がある。しかし、インフレ率は中銀目標を下回るなど落ち着いており、現時点においては追加利下げ余地があると判断したものと捉えられる。
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同国は、トランプ関税による直接的な影響が周辺のASEAN 諸国と比較して小さいと見込まれるなか、このところの米ドル安によるアジア通貨高のなかでペソは強含みする一因になってきたとみられる。他方、同国は中国への輸出依存度が高く、今後も米中摩擦やそれに伴う中国景気の動向の影響を受けやすい特徴がある。さらに、これまでのペソ高の反動が足元でのペソ安圧力を強める一因になっている可能性もある。
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中銀は、声明文でインフレ見通しをやや上方修正するも、世界経済の不透明感が高まるなかで緩和的なスタンスが必要との方針を示した。また、同行のレモロナ総裁は為替介入に慎重な姿勢をみせる一方、市場環境によって対応する可能性を示唆した。しかし、米ドル高や原油高などペソ相場の重石となる材料が山積するなか、当面のペソ相場は上値が重く、先行きの金融政策の判断に影響を与える可能性がある。
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フィリピン中央銀行は、19 日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である翌日物リバースレポ金利を5.25%に引き下げる決定を行った。同行による利下げ実施は2会合連続となる。また、昨年8月以降の利下げ局面で計5回、累計の利下げ幅も125bp に上るなど金融緩和が進められている。なお、同行は昨年8月から12 月まで3会合連続で利下げに動いたものの、今年2月の定例会合においては、米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感が高まったことを理由に、利下げを一旦休止させる難しい対応を迫られた。他方、4月の前回会合においては、米トランプ政権が相互関税を発動させるも、その直後に上乗せ分の発動を90 日間停止させるなど最悪の事態が回避されたため、2会合ぶりの利下げを決定するなど、金融政策は外部環境の影響を受けやすい状況にある(注1)。その後の国際金融市場では米ドル安が進み、通貨ペソの対ドル相場は底入れの動きを強めてきたものの、足元では中東情勢の悪化により米ドル高が再燃してペソ相場を巡る状況は一変している。さらに、国際原油価格の上振れに伴い、同国はエネルギー資源の大部分を海外からの輸入に依存するなか、ペソ安に伴う輸入物価の押し上げも重なりインフレが再燃する懸念も高まっている。しかし、足元のインフレ率は中銀目標(2~4%)の下限を下回るとともに、コアインフレ率も目標の下限近傍で推移するなど落ち着いており、一段の利下げを後押ししたとみられる。

なお、米トランプ政権が発動を計画している相互関税を巡っては、中国のほか、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国を対象に高い税率が課せられているものの、フィリピンに対しては17%と周辺国に対して比較的低い水準とされている。さらに、同国経済は構造面で外需依存度が相対的に低いことに加え、対米輸出額も名目GDP比で2.6%に留まるとともに、上述したように税率が周辺国に比べて低水準に抑えられていることも重なり、マクロ経済への直接的な影響は限定的とみられる。こうした事情も、このところの米ドル安の動きも追い風にペソ相場が周辺国通貨と比較しても底入れの動きを強める一因になってきたとみられる。しかし、同国の輸出を巡っては、財、サービス両面で中国向け比率が比較的高く、米中摩擦の行方やそれによる中国景気の動向に揺さぶられやすい特徴を有する。米中関係を巡っては、先月と今月の直接協議を経て合意事項の確認に加え、今後も追加協議を行う方針が示されるなど、一定の前進をみているものの、依然としてその行方には不透明感が残る。

会合後に公表された声明文では、物価動向について「見通しは落ち着いている」、「インフレ期待も固定化されている」としつつ、リスク調整後のインフレ見通しを「今年は+3.4%、来年は+3.3%」と従来見通し(今年は+3.3%、来年は+3.2%)からわずかに上方修正している。その上で、世界経済について「経済活動が減速している」との認識を示した上で、金融政策について「より緩和的なスタンスが必要になっている」としつつ、「米国の関税政策を巡る不確実性や中東における地政学リスクの高まりが物価に与える影響を注視している」、「持続的な経済成長や雇用拡大の実現に向けて物価安定を図る」との考えを示した。国際金融市場においては、中東情勢の悪化を受けた米ドル高の再燃に加え、国際原油価格の上振れも追い風にペソ相場は調整の動きを強めているものの、中銀は景気下支えを重視したと捉えられる。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のレモロナ総裁は「為替相場の維持を目的とする為替介入の強化は無駄」とした上で、「介入は流動性の調節のために行うもの」とする一方、「調整局面が続けば、どこかで本気で介入を行う必要が生じるだろう」との考えを示した。その上で、「緩やかなペソ安は物価動向に影響を与える可能性は低い」との見方を示している。そして、先行きの政策運営について「時期によるが25bpの利下げが行われるだろう」としつつ、「物価を巡る状況が深刻になれば利上げもあり得るが、そうはならないだろう」として、追加利下げの可能性を滲ませている。また、「状況が想定通りであればもう一回利下げは可能」としつつ、「データ次第では利下げを行わない可能性もある」、「現時点では25bpの利下げ余地はあるが、不確定要素が大きく、不確実性の対象が広いなかでその確率を示すのは困難」として、明言を避ける考えをみせた。ただし、総裁が為替介入に消極的な姿勢をみせる一方、当面は米ドル高と原油高が重石となりやすい環境にあることに鑑みれば、ペソ相場は一段と調整の動きを強めることも予想されるとともに、金融政策の動向に影響を与える可能性に留意する必要がある。

注1 4月10日付レポート「フィリピン中銀、トランプ相互関税の一時停止で利下げ局面再開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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