トランプ関税で米生産、輸出入が低迷(5月ISM製造業)

~在庫の大幅減少で今後価格上昇圧力が強まる見込み~

桂畑 誠治

要旨
  • 25年5月のISM製造業景気指数(季節調整値)は、48.5(前月48.7)と市場予想中央値の49.5(筆者予想49.4)への上昇に反して、前月比0.2%ポイント低下した。拡大縮小の分岐点である50を3ヵ月連続で下回っており、米製造業部門の縮小ペースの加速が示された。
  • 生産、新規受注、雇用が縮小の度合いを弱めた他、企業の関税負担の交渉などによる遅れを背景に入荷遅延が上昇したものの、トランプ関税の発動を受けた在庫の大幅な減少を受けて、景気指数が低下した。在庫の大幅な減少を受け、今後関税賦課の価格上昇圧力が強まる可能性が高い。企業の回答では、トランプ関税に対する懸念や影響が引き続き多数を占めた。
  • トランプ関税政策では、中国からの輸入品に対して2月に10%、3月に10%の関税を課したほか、3月4日にメキシコ、カナダからの輸入品の一部に25%の関税を課した。また、3月12日に鉄鋼・アルミに25%の関税を賦課した。4月に、25%の自動車関税、10%の相互関税、対抗措置を取った中国に対してスマホなどを除く輸入製品に125%の関税上乗せなどを発動し、トランプ関税が本格的に始まった。ただし、相互関税の上乗せは、90日間延期された。
  • 5月には、25%の自動車部品関税が発動した一方、英国と通商合意したほか、米中が5月14日から輸入関税率をともに115%引き下げ、中国がレアアース、軍事用途の他製品・技術の米国の28組織に対する輸出制限を5月14日から90日間停止することで合意するなど、貿易戦争停戦に向け進展がみられた。しかし、英国以外の国・地域との通商合意が依然できていないうえ、米国が半導体設計ソフトウエアや航空機エンジン部品の対中国輸出に新たな制限を導入したことで米中の通商交渉に進展がみられないなど、先行きの不確実性は高いままとなっている。
  • 5月の構成項目別の前月からの変化では、生産、入荷遅延、新規受注、雇用が上昇した一方、在庫が低下した。生産は、45.4(前月44.0)と上昇したが、新規受注や受注残の減少を背景に低い水準にとどまった。拡大した業種数は18業種中7業種(同7業種)と変わらなかったが、食品・飲料・タバコ製品、輸送機器、化学製品は大幅に減少し、工場の人員削減につながった。また、入荷遅延は、サプライヤーとの関税負担の交渉等によって、納品が遅れ、56.1(同55.2)とさらに上昇した。
  • 新規受注は、47.6(同47.2)と小幅上昇したが、拡大した業種数は18業種中8業種(同8業種)と変わらなかった。トランプ関税による不確実性の高まりによって50を下回っており、関税コストの負担に関連する買い手と売り手の交渉、海外顧客からの需要の縮小等の影響で、発注の減少が続いている。雇用は、46.8(同46.5)と上昇したものの、事業環境の不透明感の強まりを背景に、レイオフ、自然減、採用凍結を中心とした人員削減が継続され、50を下回ったままである。増加した業種数は4業種(同5業種)に減少した。 一方、在庫は、46.7(前月50.8)と50を下回る水準に低下し、在庫の縮小を示した。関税発動前の材料等の早期納入を求めた動きの終了や関税の発動を受け、縮小局面に入った。
  • サブ項目では、輸出受注DIが貿易相手国での米製品の需要鈍化や関税賦課によって40.1(前月43.1)と低下し、輸出の減少幅が拡大したことを示した。一方、輸入DIは関税発動前の材料等の早期納入を求めた動きの終了で39.9(前月47.1)と低下、輸入の減少幅が拡大したことを示した。
  • 5月に拡大した業種は、全18業種のうちプラスチック・ゴム製品、非鉄、石油・石炭製品、家具・同関連、電気機器・電化製品・電気部品、加工金属、一般機械の7業種(前月11業種)に減少した(下線は拡大・縮小が2カ月以上続いたことを示す)。一方、縮小した業種は、紙製品、木材製品、印刷・関連サポート活動、食品・飲料・タバコ、輸送機器、化学製品、一次金属の7業種と前月6業種から増加した。
  • 今後の製造業部門の活動は、各国との貿易交渉の影響を受けるが、合意内容や交渉の進展ペースがそれぞれ異なる可能性が高く、交渉を受けた相互関税の上乗せ率や関税の引き下げ率なども多様な結果になるとみられ、少なくとも7月9日の相互関税上乗せ停止期限、8月12日の対中関税引き下げ期限まで不確実性の高い状況が続く可能性が高い。また、6月4日には鉄鋼・アルミニウム関税の50%への引き上げ、半導体、医薬品、銅、木材などへの25%の関税賦課も計画されており、製造業の景況感は8月まで悪化を続ける可能性が高い。
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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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