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米国際貿易裁判所がトランプ関税の差し止め命令

~今後の3つのシナリオ~

前田 和馬

5月28日、米国際貿易裁判所は国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく一連の関税措置(相互関税、対中関税30%、対メキシコ・カナダ関税25%)を停止するようトランプ政権へ命じた。判決文では「世界的な報復関税はIEEPAによって与えられた大統領権限を越えている」ほか、薬物対策のための中国・メキシコ・カナダへの関税は「規定された脅威に対処していない」と述べられた。また、10日以内に「関税停止に必要な行政命令」を実施するように命じるものの、具体的な手続きなどは指示していない。同判決はニューヨークなどの民主党系12州、及び中小企業5社が起こした2つの関税差し止め訴訟に関連したものである。

ホワイトハウスのデサイ報道官は判決を受け「選挙で選ばれていない裁判官が非常事態にどのように対処するかは決められない」と述べた。また、司法省は「議会のみがIEEPAに基づく大統領の非常事態宣言に異議を唱えられる」と主張していた。トランプ政権は判決を不服として控訴する方針であり、今後は連邦巡回区控訴裁判所や連邦最高裁へと審議が進むと見込まれ、同判決が早期に決着する可能性は低い。

同判決を踏まえた当面の関税政策のシナリオとしては次の三つが考えられる。

まず、控訴裁判所がトランプ政権による一連の関税再開を早期に認め、(短期間の関税停止などを経て)現状の関税政策を概ね維持したまま法廷闘争が続くシナリオだ。最高裁判決が確定するまでトランプ関税を止めうる法的拘束力がない場合、現行関税策の維持や追加の関税発動(例えば7月9日まで一時停止中の相互関税上乗せ分)に大きな障害は生じない。

次に、関税停止の判決は有効であるものの、トランプ大統領が代替的な法的根拠によって実質的に関税率を復活させるシナリオだ。最大15%の関税を150日間課せる通商法122条(経常赤字への対処)のほか、一次政権時の対中関税発動の根拠になった通商法301条(不公正な貿易慣行の是正)や最大50%の関税を課せる関税法338条(差別的待遇への対処)などを活用する可能性がある。なお、今回の判決では通商法232条(安全保障上の懸念への対処)は対象外であり、鉄鋼・アルミニウムや自動車など品目別関税の実施に影響はない。

最後に、関税停止の判決が有効となり、法廷闘争への姿勢はみせるものの、トランプ大統領が景気減速への懸念から関税策を大幅に後退させるシナリオだ。米大手小売企業や自動車メーカーは5月下旬から6月にかけて徐々に関税分を小売価格に転嫁する方針であり、米国の個人消費はこうした値上げと駆け込み需要の反動で急減速する懸念がある。トランプ大統領は自身の支持者には「関税を司法に止められた」とアピールしつつ、関税による景気へのダメージを抑えることで無党派層への支持回復を狙うかもしれない。なお、今回の判決通りに相互関税等が撤廃、通商法232条に基づく鉄鋼・アルミニウムと自動車に対する関税のみが残る場合、米国の実効関税率は16.0%(28日時点)から5%程度へと低下すると試算される。

以 上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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