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フィリピン内閣改造、政権は経済注力で「死に体」回避を目指す模様

~サラ副大統領の弾劾罷免の可能性は低下、次期選挙へ政局の行方に注意を払う必要は高い~

西濵 徹

要旨
  • フィリピンで5月12日に実施された中間選挙は、マルコス政権への「中間評価」と、マルコス家とドゥテルテ家の対立を背景にした「代理戦争」の側面を持ち、今後の政局に大きな影響を与えると注目された。下院選では与党が過半数を確保したが、上院選ではドゥテルテ派が善戦し、サラ副大統領の弾劾罷免に必要な議席数の確保が困難になる見通しが高まった。よって、サラ氏は影響力を増す可能性が高まっている。
  • 選挙結果を受けて、マルコス大統領は内閣改造に着手した。経済閣僚の留任を決定する一方、多数の閣僚が交代される可能性がある。選挙後における国会の勢力図が政権運営に支障を来たす可能性は低いものの、サラ氏の弾劾を巡る議員間の攻防戦が激化することは避けられない。今回の中間選挙では、ドゥテルテ派の勢力が拡大することが確認されており、次期選挙の行方にも影響を与える可能性も注目される。
  • マルコス政権は経済政策に注力することで、政権の「レームダック化」を回避する意向だが、ドゥテルテ派との対立が続くことが予想されるなか、今後の政局の行方に注視が必要になることは間違いないであろう。

フィリピンでは、5月12日に国会の上下両院と地方の首長や議員を選出する中間選挙が実施された。今回の中間選挙は、2022年の大統領選を経て誕生したマルコス現政権に対する『中間評価』の意味合いがあるとともに、このところの政界で激化するマルコス家とドゥテルテ家の確執を背景とした『代理戦争』の様相を呈したこともあり、選挙結果は今後の政局に影響を与える可能性があるとして注目を集めた(注1)。

国会下院(代議院)総選挙では、総議席数317のうちマルコス政権を支持する与党の獲得議席数は半数を優に上回る水準となるなど、一定の支持を受けたと評価することができる。一方、選挙の行方がサラ副大統領への弾劾を左右する国会上院(元老院)選では、ドゥテルテ派がマルコス陣営から離反した2名を含め5議席を獲得するなど、予想外の善戦を果たした。そして、マルコス派は選挙前には7~8人が当選するとみられたものの、5議席に留まるなど苦戦を強いられた。その結果、改選後の上院においてマルコス派はサラ氏の弾劾罷免に必要な3分の2(16議席)の確保が困難になる可能性が高まり、2028年の次期大統領選に向けてサラ氏が勢いを増すことが見込まれる。そして、今後はマルコス大統領やその周辺への『対抗』の動きを強めることも予想される。

このように、中間選挙における予想外の逆風を受けて、マルコス大統領は22日に全閣僚に辞任を求めた上で、各省庁の業績を評価して閣僚の留任の可否を決めるとして、体制刷新を目的とする内閣改造に動く方針を示した。その結果、直後に閣僚らが相次いで辞表を提出する動きがみられた。なお、レクト財務相、ロケ貿易産業相、パンガンダーマン予算管理相、バリサカン国家経済企画開発長官など経済閣僚はすべて留任する方針が明らかにされ、経済政策の継続を通じて金融市場の動揺を回避したいとの意向がうかがえる。その一方、23日にはマナロ外相、アクザル定住地都市開発相、ユーロ=ロイザガ環境天然資源相、ロティリヤ・エネルギー相の4名の交代が明らかにされるとともに、今後も追加で閣僚の交代が行われる方針が示されており、多数の閣僚が交代の対象となる可能性が高まっている。

図表
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マルコス政権を支える与党は、国会下院、上院ともに半数を上回る勢力を維持しており、予算審議や法律制定・改正など実務的な政権運営において支障が生じる状況にはないと判断できる。しかし、サラ氏の弾劾罷免については、中間選挙でドゥテルテ派が一定の議席を確保したことに加え、非改選議員の間でも態度を明確にしていない議員が多数に上るなか、マルコス派とドゥテルテ派の間で集票に向けた攻防戦が激化することが予想される。他方、中間選挙の最終盤にかけてドゥテルテ氏やサラ氏の支持者が勢いを増すとともに、その集票力の高さが確認されたなか、3年後の次期選挙に向けて今回の非改選議員が弾劾賛成に二の足を踏む可能性が高まることも考えられる。そうした意味でも、サラ氏の弾劾罷免の可能性は低下する可能性が高まっていると捉えられる。

マルコス政権としては、今回の内閣改造を経て経済問題に注力することにより、政権の『死に体(レームダック)』化を避けたいとの思惑がうかがえる。足元のインフレは中銀目標を下回るなど落ち着いた動きをみせており、通常であれば選挙の追い風になることが期待される状況にもかかわらず、予想外の苦戦を強いられた背景には、ドゥテルテ前大統領に対する対応が大きく影響したことは間違いない。先行きのフィリピン政界においてマルコス派とドゥテルテ派の間での『つばぜり合い』がどういった展開をみせるか、そして、マルコス大統領がサラ氏をはじめとするドゥテルテ派に対してどういった手段で対抗策を講じるか、これまで以上にその動きに注意を払う必要性が高まっている。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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