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英地方選で右派ポピュリストが大躍進

~英国の二大政党制は曲がり角に~

田中 理

要旨
  • 5月1日に行われた英国の地方選挙では、右派ポピュリスト政党・リフォームUKが大幅に躍進。昨年の総選挙で14年振りに政権を奪還した与党・労働党、最大野党・保守党の二大政党を遥かに上回る議席を獲得した。長年の保守党政権からの変化を求めて誕生した労働党政権だが、政権発足後の経済低迷、増税、福祉予算削減、移民流入増加などで失望が広がっている。次の選挙は2029年とまだ先だが、このままの勢いを保てば、リフォームUKの政権奪取も視野に入る。

5月1日に英国のイングランド各地で行われた地方選挙と下院の補欠選挙では、移民対策の強化を掲げる右派ポピュリスト政党・リフォームUKが劇的な勝利を果たした。同党は今回、地方議会の改選1637議席のうち677議席を獲得し、過去3年の改選2議席(2022年)、6議席(2023年)、2議席(2024年)から一気に議席を伸ばした(図表1)。昨年7月の下院選挙で勝利し、14年振りに政権を奪還した中道左派の労働党は、改選前から187議席を失い、98議席で4番手に沈んだ。労働党とともに二大政党の一角を占める中道右派の最大野党・保守党は、改選前から674議席を失い、319議席と3番手にとどまった。二大政党が大きく議席を落とすなか、リフォームUKの過激な主張を敬遠した穏健中道票の受け皿となったリベラル政党・自由民主党は、改選前から163議席増やし、370議席で2番手につけた。同様に左派票の受け皿となった環境政党・緑の党は、改選前から44議席増やし、79議席を獲得した。この結果、今回選挙が行われた23の地方議会のうち、10議会をリフォームUKが、3議会を自由民主党が制し、保守党が16議会、労働党が1議会を失った。また、6つの市長選のうち2つの市でリフォームUKの候補が勝利した。暴行事件で労働党議員が辞職したことに伴うイングランド西部の下院補欠選挙では、リフォームUKの候補が労働党の候補を再集計の末に僅か6票差で破った。この選挙区は昨年の下院選挙で、辞職した労働党候補が約1万5千票差で圧勝していた。リフォームUKが下院補欠選挙を制したのは初めてとなる。

リフォームUKは、英国のEU離脱(ブレグジット)運動を扇動してきたナイジェル・ファラージ氏が2018年に結党した右派ポピュリスト政党だ。ファラージ氏はかつて英国のEUからの離脱実現を目指す英国独立党(UKIP)を旗揚げし、英国政界を混乱に陥れたが、2016年の国民投票でEU離脱が決まったことを受け、2018年にEUからの完全離脱を主張するブレグジット党を新たに設立した。2020年に移行期間を終えた英国がEUを正式に離脱したことを受け、党名を現在のリフォームUKに変更し、英国の民主主義の改革を掲げ、新型コロナウイルスの感染拡大時には主に全面的な都市封鎖(ロックダウン)に反対し、近年は移民規制の強化、税負担の軽減、反脱炭素などを主張している。長年の保守党政権下での国民生活の疲弊や相次ぐスキャンダルに嫌気した有権者は、昨年の総選挙で変化を求めて労働党政権の誕生を支持したが、政権発足後の経済低迷、増税、年金生活者向けの冬季暖房費の給付金打ち切り、移民の流入継続などに対する不満が広がっている。二大政党に対する国民の失望が広がったことが、リフォームUKの躍進につながっている。

労働党の政権奪取後で初めての選挙は、政策迷走が続くキア・スターマー首相が率いる労働党、ケミ・ベイドノック新党首の下で党勢回復を目指す保守党の二大政党にとって非常に厳しい結果に終わった。英BBCによれば、地方選挙の結果から予想される下院選挙の得票率は、リフォームUKが30%と首位を走り、労働党が20%、自由民主党が17%、保守党が15%、緑の党が11%で後を追う(図表2)。なお、今回の改選議席は保守党が地盤の選挙区が多く、国政選挙に引き直した場合のリフォームUKの得票率はやや割り引いて考える必要がある。

5年間の議会任期満了まで待った場合、次の総選挙は2029年とまだ先だが、このままの勢いで選挙に臨んだ場合、リフォームUKが昨年の総選挙で獲得した5議席から大幅に積み増すことは間違いがない。来年にはスコットランドやウェールズで議会選挙が予定され、各種の世論調査によれば、これまで同地域で目立った支持を獲得してこなかったリフォームUKは、ここでも大幅な躍進が予想されている。英国の下院選挙は小選挙区制で争われ、昨年の選挙では保守党とリフォームUKが保守票を分け合った結果、労働党が地滑り的な勝利を遂げた。次の下院選挙では、リフォームUKが保守党と右派票を分け合うと同時に、自由民主党や緑の党が労働党と左派票を分け合う可能性がある。今後の動向次第ではリフォームUKの政権奪取も夢物語ではなくなる。英国の二大政党制は大きな曲がり角を迎えている。

図表1
図表1

図表2
図表2

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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