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慎重な経済・物価見通しで利上げ観測後退 日銀が置いた前提は?

藤代 宏一

日銀は大方の予想どおり政策金利の現状維持を決定した。もっとも、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」という大きな方針は維持した(下線は今回新たに追加)。

今回の展望レポートは後述するとおり、成長率見通しの大幅引き下げと物価見通しの下方修正が同時に示された。これを素直に受け止めると、利上げがかなり慎重に進められるという判断に至る。もっとも、その前に日銀(政策委員)が見通し作成に用いた前提を確認する必要がある。展望レポートの注釈には「今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している」とあるが、この「ある程度」は相当な幅がある。現在進められている通商交渉の進展、すなわち対日上乗せ関税24%や自動車関税25%の引き下げについては、かなり保守的な前提が置かれているのではないか。ちなみに展望レポートで示される数値は「各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、上記の見通しを作成している」という注釈が毎回添えられている。関税の直撃が回避されるのであれば、次回7月の展望レポートでは成長率見通しが上振れ、物価見通しも上方修正される可能性もある。

その上で展望レポートに目を向けると、2025年度の成長率見通しは1月時点の+1.1%から+0.5%へと大幅に引き下げられ、2026年度も+1.0%から+0.7%へと下方修正され、新たに発表された2027年度は+1.0%とされた。見通し期間の後半にかけて潜在成長率を上回る成長軌道に回帰するのは「平常運行」である。物価見通し(除く生鮮食品)は2025年度が+2.2%(1月対比▲0.2%pt)、2026年度が+1.7%(同▲0.3%pt)、2027年度が+1.9%となった。展望レポートには「既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる」とあり、2025 年度と2026年度の下方修正は「原油価格の下落や今後の成長ペース下振れ」であると説明された。繰り返しになるが、通商交渉が進展し「今後の成長ペース」が再び上向くのであれば、物価見通しは上方修正される公算が大きい。

展望レポート公表後、金融市場では日銀の慎重な見通しを受けて金利低下、円安、株高となった。もっとも、植田総裁が展望レポートの前提を説明するなどして市場参加者の第一印象が変化するのであれば、そうしたポジションの巻き戻しもあり得る。また一段と円安が進行すれば、通商交渉で直接的な問題になっていないとはいえ、トランプ大統領の苛立ちを誘う可能性がある。日銀が空気を読むことも想定しておきたい。

藤代 宏一


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