デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

ドイツが連立合意、政権発足に近づく

~政治空白の長期化回避、5月初旬に大連立政権が発足へ~

田中 理

要旨
  • 政権発足を目指すドイツの二大政党は、9日に連立協定で合意した。5月初旬にメルツ新首相が率いる連立政権が誕生する。減税、財政拡張、規制緩和を通じて、ドイツの経済・産業の立て直しを急ぐ。政治空白の長期化を回避できそうな一方で、選挙後の極右の支持拡大が新たな脅威に。最近の一部の世論調査で、極右の支持が保守政党と同率首位で並んだ。次の連邦議会選挙は4年先だが、極右を連立の枠組みから除外し続けることができるかが試されることになる。

政権発足を目指すドイツの二大政党は9日、政策の骨格を定めた連立協定に合意した。連立を主導する保守政党・キリスト教民主同盟(CDU)は、4月28日に党大会を開催し、そこで今回の連立合意を承認する予定。また、連立に加わる中道左派政党・社会民主党(SPD)は近く、党員投票を実施して連立合意の受け入れ是非を判断する。SPDの党員投票の結果次第では、連立合意が空中分解する恐れも僅かに残る。党内手続きを終えた後、5月初旬にもCDUのメルツ党首を連邦首相に任命し、二大政党による大連立政権が発足する。

ドイツの近年の連立協議は長期化する傾向にあるが、今回は2月23日に前倒しされた連邦議会選挙から1ヶ月半余りでのスピード合意となった。両党が合意を急いだのは、長期停滞が続くドイツ経済、競争力低下に苦しむドイツ産業、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)の党勢拡大、ウクライナ停戦を巡る不透明感と支援負担の増加、米国のトランプ政権による関税引き上げなど、ドイツを取り巻く厳しい経済・政治・国際情勢があった。

連立合意には、①電力料金の引き下げ、②飲食店を対象とした付加価値税の減免、③労働時間や在宅勤務の柔軟化、④行政手続きの簡素化、⑤移民規制の強化など、予備協議の段階で盛り込まれた政策の多くが含まれるが、米国のトランプ政権による関税引き上げの打撃を緩和する措置は盛り込まれていない。また、SPDが主張した高所得者に対する課税強化が見送られたほか、CDUが主張した法人税率の引き下げ時期は2028年以降に先送りされた。

柔軟な財政運営の障害となっていた独自の財政均衡化規定(債務ブレーキ)については、3月に改選前の旧議会を緊急招集し、①GDP比で1%を超える国防費を債務ブレーキの対象から除外、②州・地方政府の借り入れ上限をGDP比で0.35%に引き上げ、③インフラ投資や気候変動対策に充てる総額5000億ユーロの特別基金を創設する憲法改正を既に終えている。政権発足後は先送りされた今年度予算の早期成立を目指すとともに、更なる債務ブレーキの改正も視野に入れている。新議会では憲法改正に必要な3分の2以上の賛成が得られるかが微妙な情勢で、国防費やインフラ投資以外の財政拡張の行方は予断を許さない。

政権発足に向けた動きが加速する一方で、国内の政治環境には新たな不安要素が台頭している。2月の連邦議会選挙で過去最多の得票を集めたAfDは、その後に一段と支持を伸ばしている。最近の世論調査では、CDUとAfDの支持率が肉薄しており、一部の調査では両党が同率首位で並んでいる。政治安定を重視するドイツでは、任期前の解散総選挙は稀で、次の連邦議会選挙は4年後の2029年となる可能性が高いが、このままの勢いを保てばAfDが第一党の座を獲得したとしても不思議ではない。

今のところ主要政党は何れもAfDとの連立を否定しているが、更なる党勢拡大で同党抜きの連立を組むことは徐々に難しくなりつつある。ドイツでは第一党に組閣を命じる法律上や慣習上のルールはなく、過去には第二党が連立政権を率いたこともある。だが、国民から最も支持を集める政党を連立の枠組みから除外し続けることが出来るのかは、何れ試されることになりそうだ。

隣国オーストリアの政治環境はドイツの先行指標となる。2024年9月の総選挙では、極右政党・自由党(FPO)が同国史上初の第一党となった。主要政党は自由党との連立を拒否し、極右を排除した連立発足に向けて協議を続けたが、これが決裂。首相の任命権を持つ大統領は、自由党のキッケル党首に政権発足を命じ、極右政権の誕生に近づいた。自由党主導の連立協議は物別れに終わり、結局、二大政党が中心となり、極右を排除する形の連立政権を発足する形で決着したが、極右の政権奪取を阻止する防波堤に亀裂が入りつつある。

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ