- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- インド「首都決戦」でBJPが与党奪還、モディ政権の追い風となるか
- Asia Trends
-
2025.02.12
アジア経済
インド経済
インド「首都決戦」でBJPが与党奪還、モディ政権の追い風となるか
~デリー準州での与党奪還は27年ぶり、連邦議会上院で与党連合が過半数となる可能性も~
西濵 徹
- 要旨
-
- インドでは今月5日に首都デリー準州議会選が行われ、8日に開票された。同州では長らく国民会議派の牙城となってきたが、ここ10年ほどは地域政党の庶民党が存在感を増す流れがみられた。さらに、同党のケジリワル党首はモディ政権批判の急先鋒となるなど、政権や与党BJPにとって鬼門となってきた。しかし、昨年の総選挙直前にケジリワル氏は酒類販売を巡る収賄容疑で逮捕され、国内外では政権が同氏に圧力を掛けたとの見方が広がった。他方、同党は元々汚職撲滅運動を起源とするなか、ケジリワル氏の逮捕劇は党への支持に少なからず悪影響を与えた模様である。
- 結果、選挙戦では終始劣勢を強いられたほか、議席を改選前から40減らす大惨敗を喫した。一方でBJPは議席を大幅に積み増して7割弱を押さえるなど、同州で27年ぶりの与党の座を奪還した。議席数と比べて得票率の差は小さく、BJPが支持を集めたと理解するのは早計である。しかし、州議会の動向は連邦議会上院の議席数を左右するなか、与党連合が半数を上回る議席数となる可能性があり、モディ政権の政権運営に少なからず追い風になることが期待される。
インドでは今月5日に首都デリー準州(首都圏)において議会選挙が行われ、8日に開票が行われた。同州を巡っては、長年に亘って現在は最大野党のINC(国民会議派)の牙城とされてきたが、2013年の議会選で地域政党のAAP(庶民党)が第2党となる大躍進を果たして党首のケジリワル氏が州首相に就任し、当時は政権与党の座にあったINCの退潮のきっかけとなるとともに、翌14年の総選挙での政権交代に繋がる流れが加速した(注1)。その後、2015年に行われた議会選(出直し選)ではAAPが議席を一段と積み増して総議席の9割以上を確保するなど存在感を高めるとともに、2020年の前回選挙でも9割弱の議席を確保して第1党を維持するなど、一転してAAPの牙城となってきた。なお、AAPは汚職撲滅運動を起源としており、当初は『反INC』を前面に押し出すことで躍進したものの、2014年の政権交代によりINCが下野した後はモディ政権を支える与党BJP(インド人民党)への批判を強めてきた。さらに、2023年に選挙管理委員会(ECI)がAAPを全国政党に認定した後には、野党連合(INDIA)に加わり、ケジリワル氏はモディ政権批判の急先鋒として存在感を高めてきた。
こうしたなか、昨年の総選挙の直前には、州政府が管理する酒類販売に関連して、規制緩和の見返りに業者から収賄を受けたとの容疑でケジリワル氏が捜査を受けるとともに、その後に逮捕されるなど政権が同氏に対して『圧力』を掛ける動きが顕在化した(注2)。ケジリワル氏の逮捕劇を巡っては、そのタイミングが総選挙の直前であったことから、国内外ではモディ政権が『政敵』を追い落とすために行われたものとの見方がみられた。しかし、ケジリワル氏自身は選挙活動を理由に保釈されて総選挙に向けた取り組みを強化したものの、最終的には州内のすべての選挙区でINDIAは議席を奪取することができず(計7選挙区すべてでBJPの候補が勝利)、総選挙でBJPは議席を大きく減らしたにも拘らず、同州においては勢いを維持した。その背景には、逮捕劇そのものに対しては懸念があるものの、上述したようにAAPが元々汚職撲滅運動を起源としており、ケジリワル氏に嫌疑が掛かったことの影響は少なくなかったと捉えられる。
その後にケジリワル氏は保釈期間が終了して再び収監されるも、その後保釈を認められた後に州首相を辞職し、今回の州議会選挙では福祉の充実を公約に掲げるなど『背水の陣』での選挙戦を展開した。しかし、上述のように昨年の総選挙において同州内でINDIA(ないしAAP)の敗北が尾を引いたとみられ、事前に行われた世論調査においてはBJPが勝利するとの結果が多く示されるなど、AAPは劣勢を強いられてきた。結果、BJPの獲得議席数は48と改選前(8議席)から40議席増やして総議席数(70)の7割弱を占めるなど勝利を収める一方、AAPの獲得議席数は22と改選前(62)から40議席と大幅に減らすなど惨敗を喫することとなった。さらに、ケジリワル氏自身も選挙区で落選するなど、10年余りに亘って同州で与党の座を維持してきたAAPは一気に存在感を失った格好である。
他方、デリー準州においてBJPは2013年の選挙で第1党となったものの、AAPがINCと連立を組む形で政権樹立に動いたため、BJPが同州での主導権を握るのは1998年の選挙での敗北以来となるなど27年ぶりのこととなる。この結果を受けて、モディ首相は自身のSNSにおいて「デリーの発展のために全力を尽くすと約束する」と勝利宣言を行うとともに、その後に行った演説でも「デリーは国の玄関であり、最高の都市インフラを整備すべき」と述べるなど、昨年の総選挙での大幅な議席減を受けて勢いに陰りが出ることが懸念されたモディ氏にとっては『追い風』となることが期待される。ただし、議席数ではBJPとAAPの間に大きな差が付いたものの、得票率をみるとBJP(47.15%)とAAP(43.57%)と大きな差がないことに鑑みれば、BJPが大勝利を果たした訳ではないことに留意する必要がある。とはいえ、州議会選での勝利は連邦議会上院(ラージャ・サバー)における議席配分に大きく影響を与えるため、同州に配分されている3議席がBJPに転じれば与党連合(NDA(国民民主連盟))がいよいよ過半数を占める可能性が高まる。そうなれば、憲法改正を含めた改革への道筋を描くなど、モディ政権が目指す構造改革を後押しする可能性も高まるなど、今後の政権運営への影響は少なくないと捉えられる。
注1 2024年1月10日付レポート「2014年インド総選挙の行方とその後」
注2 2024年3月25日付レポート「インド、総選挙を前に野党指導者が逮捕、「締め付け」の動きが一段と強まる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
豪州・2月失業率悪化も、非正規主導で雇用拡大(Asia Weekly(3/16~3/19)) ~台湾中銀は8会合連続の金利据え置きも、中東情勢の長期化を念頭に将来の利上げに含み~
アジア経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀が2024年5月以来の利下げ、慎重な金融緩和に舵 ~インフレ見通しの上方修正も利下げ実施、レアル相場と株式相場は中東情勢次第の展開が続くか~
新興国経済
西濵 徹
-
NZ景気回復の足場は乏しく、早期利上げの可能性は一層低下 ~オセアニア通貨は「オージー(豪ドル)」>「キウィ(NZドル)」の様相を強める展開が続くか~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀、ルピア安定重視へ、総裁も利下げの可能性を撤回 ~中東情勢の悪影響を警戒、中銀の姿勢は正しい一方、政府との「板挟み状態」が激化する懸念も~
アジア経済
西濵 徹
-
豪中銀が2会合連続の利上げ、追加利上げの行方は不透明に ~決定は「5対4」の僅差で当面は様子見姿勢へ、「有事の米ドル買い」も豪ドル相場の重しとなるか~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
中東情勢の悪化を理由にインド市場が混乱している背景とは? ~原油高が対外収支悪化やインフレを招くほか、移民送金の減少が景気の足を引っ張る懸念も~
アジア経済
西濵 徹
-
インド、統計改定の影響に要注意も、堅調な景気拡大を確認 ~2025年10-12月は前年比+7.8%と高成長も、当面の金融市場は中東情勢に翻弄されよう~
アジア経済
西濵 徹
-
インド・1月はロシアからの輸入が大幅下振れ(Asia Weekly(2/16~2/20)) ~金価格の上昇を受けて、輸出入双方で金・宝飾品関連が活発化する動きも~
アジア経済
西濵 徹
-
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~インドと米国が急展開で通商合意、トランプ関税は18%に大幅低下へ~』(2026年3月号)
アジア経済
西濵 徹
-
インド・1月物価は前年比+2.75%と再び目標域に(Asia Weekly(2/9~2/13)) ~基準改定の影響を考慮する必要はあるが、生活必需品以外で物価上昇圧力が強まる動き~
アジア経済
西濵 徹

