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フィリピン、マルコス家とドゥテルテ家の対立は「場外戦」に発展へ

~市民団体がサラ氏への弾劾を申し立て、弾劾の行方は不透明も、ペソ相場の混乱要因となる懸念も~

西濵 徹

要旨
  • このところのフィリピン政界はマルコス家とドゥテルテ家の対立に揺さぶられる展開が続く。ドゥテルテ前政権が実施した麻薬戦争の下での「超法規的殺人」を巡って、マルコス大統領がICPOからの要請を前提にドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討する旨を明らかにするなど、逮捕される可能性が高まっている。これを受けて、ドゥテルテ氏の長女のサラ副大統領がマルコス氏などの暗殺を仄めかすなど不穏な動きに発展した。その後に国家捜査局が発言を巡ってサラ氏に召喚状を出したほか、国家警察も別の問題を理由にサラ氏などを告発する動きもみられる。また、2日に市民団体が議会下院にサラ氏の弾劾を求める申し立てを行っている。マルコス氏はサラ氏の弾劾に反対する考えを示すなどその行方は不透明だが、ペソ安の動きが加速する事態に直面するなか、政局の混乱が新たなリスク要因となる可能性に留意する必要がある。

このところのフィリピン政界においては、マルコス家とドゥテルテ家の間の対立に揺さぶられる展開が続いている。元々一昨年の大統領選においては、フェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)氏を大統領候補、ドゥテルテ前大統領の長女であるサラ・ドゥテルテ=カルピオ氏を副大統領候補とするタッグを組んで勝利を果たすなど、蜜月ぶりが演出された。しかし、当選直後から両者はそれぞれ存在感を誇示するなど主導権争いが顕在化するとともに、マルコス政権が南シナ海問題や麻薬対策などを巡って前政権の施策からの大転換を図ったことも重なり、両家の間にすきま風が吹く動きがみられた。さらに、マルコス氏の側近を中心に憲法改正を目指す動きがみられ、マルコス氏も「新フィリピン」と称する政治運動の立ち上げに動いたことを受けて、ドゥテルテ氏とサラ氏は反発を強めるとともに、サラ氏は副大統領と兼務した教育相を突如辞任する事態に発展した。他方、マルコス政権もドゥテルテ氏の有力支持団体である新興宗教への強制捜査とともに、創始者の逮捕に動くなど圧力を掛ける動きをみせるなど、両家の対立が抜き差しならない事態に発展する可能性が高まった。こうした動きの一方、ドゥテルテ氏はマルコス氏への批判の矛を収める動きをみせるなど真意を測りあぐねる動きをみせたが、その背景には、ドゥテルテ前政権による違法麻薬対策の下で実施された容疑者への『超法規的殺人』を巡る動きが影響している。国際刑事裁判所(ICC)はこの問題に関連してドゥテルテ氏への逮捕状請求を模索しているが、マルコス政権は前政権が決定したICCからの脱退を継続するとともに執行を留めている。しかし、議会で開かれた公聴会で関係者による証言が明らかになるなか、マルコス氏は国際刑事警察機構(ICPO)から要請があればドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討する旨を表明し、政権幹部も同様の見方を示すなどドゥテルテ氏が逮捕される可能性が浮上している。こうしたなか、サラ氏は先月末に行った記者会見において、仮に自身が殺される事態に陥ることを前提に、マルコス大統領夫妻などの暗殺を仄めかす発言を行うなど、両家の対立が不穏な方向に発展している(注1)。法治国家の指導者のひとりである副大統領が公の場において殺人を仄めかす脅迫行為に出ることは極めて不適切であり、直後にマルコス氏はサラ氏の発言を「看過しない」との考えとともに、警備の強化と調査に動く方針を示し、現行憲法では副大統領に訴追免除特権が付与されていないなか、国家捜査局(NBI)がサラ氏に対して召喚状を出す事態となっている。また、このところの議会下院ではサラ氏の教育相在任中の支出のほか、副大統領府の機密費利用などを巡って厳しい追及を受けており、サラ氏やその側近が議員と衝突したことを受けて、国家警察(PNP)がサラ氏と警護員に対して暴行、公務執行妨害、強要の疑いで告発する動きもみられる。このようにサラ氏を巡って『分が悪い』動きが顕在化する一方、マルコス氏はサラ氏の弾劾訴追について「時間の無駄であり、国民生活の改善に繋がらない」との見方を示すなど、そうした考えに距離を置く考えをみせてきた。しかし、2日に市民活動家などが議会下院に対してサラ氏に対して弾劾訴追を行うよう求める申し立てを行い、サラ氏による脅迫発言のほか、公金濫用、収賄、権力濫用をはじめとする24の理由を挙げている。今後は議会下院において申し立て要件に関する審査が行われ、本会議において3分の1の賛成を得られれば、議会上院による弾劾裁判が行われるが、上述のようにマルコス氏はサラ氏に対する弾劾に反対する考えを示しており、弾劾裁判に発展するかは見通しが立たない。このところの国際金融市場においては、米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて米ドル高の動きが再燃している上、フィリピンについては中銀が『ハト派』姿勢を強めていることも追い風にペソ安の動きが加速する事態に直面しており、仮に政局が混乱する事態となればペソ相場に対する逆風が強まる可能性に留意する必要がある。

図1 ペソ相場(対ドル)の推移
図1 ペソ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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