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2024.12.10
アジア経済
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中国共産党・最高指導部による方針転換の行方とその影響
~新たなバブルの号砲となるか、それとも実弾なき空砲に留まるか、慎重な見極めが必要に~
西濵 徹
- 要旨
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- このところの中国経済は、不動産不況に加え、雇用回復の遅れを理由に内需は力強さを欠く推移が続く。当局は景気下支えに向けて五月雨式に政策転換を図る方針を示すも、具体的な需要喚起に繋がる方策はなかった。結果、中国本土株は一時的に底入れの動きを強めるも、早くも息切れが意識されてきた。この背景には、世界金融危機後に実施した巨額の財政出動が3つの過剰を招き、その対応に苦慮してきたことがある。また、習近平指導部の下では共同富裕をはじめとする中国式現代化の実現が目標とされ、欧米などと異なる手法を取ることが目的化した可能性がある。よって、金融市場は度々失望に直面したとみられる。
- こうしたなか、9日に開催された党中央政治局会議で来年の経済政策運営を巡って、より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策に動く方針が討議されるなど、政策転換に動く方針が明らかにされた。なかでも金融政策の変更は世界金融危機直後以来であり、一段の金融緩和に動く可能性が高まっている。その上で、内需喚起に動く方針を示している。こうした積極姿勢を示す背景には、欧米などとの貿易摩擦の激化が避けられなくなっていることが影響している可能性がある。他方、内需喚起には雇用改善が必要だが、足下の中国は中所得国入りするなかで「雇用なき生産拡大」が確認されるなか、財政・金融政策に依存した対応は新たなバブルを招く懸念があり、習近平指導部が掲げる共同富裕と真逆を向く可能性もある。よって、今後示される具体的な政策の内容をきちんと見極める必要があることに留意する必要がある。
このところの中国経済を巡っては、底のみえない展開が続く不動産不況の動向が幅広い経済活動の足かせとなるとともに、コロナ禍を経た若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なる形で、家計消費をはじめとする内需は力強さを欠くなど景気の足を引っ張る展開が続いている。なお、当局は内需喚起に向けて買い替え促進に動いているほか、9月末以降に五月雨式に金融緩和をはじめとする景気下支えに動く方針を示すなど、政策方針の転換に舵を切る姿勢をみせてきた。ただし、金融緩和と財政出動を通じた総合的な政策対応を強化することにより、今年の経済成長率目標(5%前後)の実現を後押しするとの考えこそ示すものの、財政出動の具体的な規模を示さず、実体経済をどれほど後押しするかは見通せない状況が続いた。他方、金融市場ではPKO(株価維持策)を好感する形で、長期に亘って低迷が続いた中国本土株が大きく底入れする動きをみせたものの、上述のように実体経済の後押しに繋がるか見通せないなかで早くも『息切れ』が意識される動きをみせてきた。また、先月の全人代(全国人民代表大会)常務委員会の後に当局は総額10兆元(GDP比8%弱)に上る対策を公表したものの、これも地方政府の債務負担軽減に用いられるなど直接的な需要拡大に繋がる訳ではない。当局がこうした対応を続ける背景には、世界金融危機後に実施した巨額の財政出動により早期の景気回復を実現する一方、その後の中国経済は過剰生産能力と過剰在庫、過剰債務の『3つの過剰』に苛まれるとともに、その対応に苦心してきたことがある。さらに、習近平指導部の下では、『習近平の中国の新時代の特色ある社会主義思想(習近平思想)』に基づく統治による『共同富裕』を実現するとともに、『製造業強国』や『現代化社会主義強国』の実現を通じて『中国式現代化(欧米などと異なる経済発展モデル)』を目指す方針が掲げられてきた。よって、足下の中国経済が直面する資産デフレをきっかけとするディスインフレ、デフレ懸念からの脱却を巡っては、積極的な財政、および金融政策の出動を通じた需要喚起を図る必要があるとみられるにも拘らず、習近平指導部の下ではあくまで『供給側改革』が推進されるなど不可解な政策運営が展開されてきた。その結果、供給サイドの統計で構成されるGDPは拡大の動きが続いているにも拘らず、需要低迷が懸念されるなかで中国本土株は勢いを欠く推移が続くなど、金融市場の『失望』を招くことに繋がってきたと捉えられる。

こうしたなか、9日に習近平総書記が主宰する形で共産党中央政治局会議が開催され、2025年の経済政策などについて協議したことを国営通信である新華社が明らかにしている。来年の経済政策について、経済成長を支えるために『より積極的な』財政政策と『適度に緩和的な』金融政策を実施するほか、政策手段を拡充・改良して『非伝統的な』景気循環調整を強化する必要があるとした上で、消費を『積極的に』推進して内需を『あらゆる面で』拡大する必要があるとするなど、これまでに比べて財政、金融政策の両面で積極性を押し出す考えをみせている。その上で、来年は「安定を維持しつつ進歩を追求する原則」を堅持するとともに、進歩を活用して安定を確保し、イノベーションを推進していくとの方針を示している。なかでも、金融政策についてはこれまでの『穏健』から『適度に緩和的な』へと緩和方向にシフトさせており、これは世界金融危機直後の2009~10年にかけて以来のことであることを勘案すれば、一段の金融緩和を示唆していると捉えられる。中銀(中国人民銀行)はすでに数度に亘って利下げを実施しているものの、国際金融市場における米ドル高の動きが人民元安を引き起こすとともに、資金流出や銀行セクターの収益悪化を招くことを懸念して小幅利下げに留める対応が続き、結果的に景気下支えに繋がってこなかった。よって、景気下支えに向けて一段の金融緩和に動く姿勢を示したほか、住宅市場と株式市場の安定化を目指す方針をみせていることは、上述のように足下で息切れが意識される中国本土株を取り巻く環境を改善させることが期待される。ただし、住宅市場と株式市場の安定に向けた具体的な方策は示しておらず、今後実施予定の中央経済工作会議や来春の全人代(全国人民代表大会)に持ち越されるものと見込まれる。なお、このタイミングで最高指導部が方針転換に動いた背景には、先月の米大統領選でトランプ氏が勝利し、中国からのすべての輸入品に10%の追加関税を課す方針を明らかにしているほか、EU(欧州連合)も中国製EV(電気自動車)に追加関税を課すなど、貿易摩擦が激化していることも影響している。こうした動きを念頭に、重点領域におけるリスクと外部ショックを予防・解決するとともに、持続的な経済回復を推進する方針を示しており、外需の下支えに向けた取り組みを進めることも見込まれる。ただし、内需喚起には調整が続く雇用を取り巻く環境の改善が求められるが、一連の対応が雇用環境の回復を促す流れに繋がるかは現時点において見通せない。その背景には、習近平指導部が引き続き製造業をけん引役にした経済成長を目指す一方、中国はすでに1人当たりGDPが1万ドルを上回るなど「中所得国」入りを果たすなど人件費の高騰に直面しており、コスト競争力の高さを追い風にした生産拡大のハードルは高まっている。事実、製造業においては省力化投資の動きが活発化しており、足下では雇用なき生産拡大の動きが確認されており、財政出動や金融緩和に過度に依存する形での景気下支えの動きを強めれば、新たなバブルを招くだけに留まるとともに、習近平指導部が目指す共同富裕に逆行した流れを招くことも予想される。そうなれば、当局が一転して政策を巻き戻すことも考えられるだけに、今後示される具体策を慎重に見極める必要があると捉えられる。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

