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フランスで内閣不信任、首相辞任へ

~政府閉鎖回避も、極右の政権奪取が不安視~

田中 理

要旨
  • 予算審議の混乱が続いてきたフランス議会で4日、内閣不信任案が賛成多数で可決した。6・7月の下院の解散・総選挙後、非多数派政権を率いてきたバルニエ首相は近く退陣し、財政再建を盛り込んだ予算案も廃案となる。マクロン大統領は速やかに後継首相を任命するとみられている。
  • 来年度予算の年内成立は困難となるが、特別法で前年度予算をそのまま踏襲する暫定予算を組むことで、政府閉鎖や財政危機は回避可能とみられる。新政権の発足後、改めて来年度の予算案を編成するが、議会審議の難航が続くことは避けられない。
  • 下院の解散・総選挙が解禁される来年後半に再び選挙が行われる可能性が高い。政府閉鎖や財政混乱の回避は、今回の不信任投票での極右の責任論を封印することにつながる。当面の財政危機を回避できたとしても、極右の政権奪取への不安が続くことになる。

フランスの国民議会(下院)は4日、内閣不信任案を賛成331、投票不参加242の賛成多数で可決した(下院定数は577、過半数は288)。不信任案は、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って来年度予算の成立を目指そうとした政府への対抗措置として2日に提起され、議会の最大勢力である左派会派「新人民戦線(NFP」と、「国民連合(RN)」を中心とした極右勢力が賛成に回った。バルニエ首相は5日に大統領府を訪問し、マクロン大統領に辞意を表明するとみられる。2ヶ月29日での首相辞任は、1958年に現在の政治体制(第五共和制)が始まって以来で最短となる。内閣不信任案が可決されるのは、1962年のポンピドゥー首相以来、第五共和制下で2回目。

首相の任命権を持つ大統領は、後継首相を速やかに任命するとみられている。5年前に火災で焼失したノートルダム大聖堂の再建式典が7日に開催され、米国のトランプ次期大統領等が出席する予定となっており、それまでに後継首相を任命する意向を伝える報道もある(ロイター、4日)。事態の早期収拾に失敗した場合、マクロン大統領への退陣要求が一段と強まる可能性がある。内閣不信任で大統領が辞任する法的義務はなく、マクロン氏も2027年の大統領任期を全うする方針を示唆しているが、左派や極右は早期退陣を要求している。後継首相候補として名前が挙がるのが、ルコルニュ国防相やバイル元司法相など(ルモンド紙、3日)。ルコルニュ氏は、バルニエ首相と同じ中道右派の「共和党(LR)」出身だが、後にマクロン大統領が旗揚げした中道政党「共和国前進」に加わり、歴代首相の下で閣僚を歴任してきた。大統領に近い人物であると同時に、極右政党のルペン氏との関係も比較的良好とされる。バイル氏はマクロン氏の大統領就任を早くから支えた中道政党の党首で、政権と対峙する左派会派内の穏健左派「社会党(PS)」や、極右政党のルペン氏とも建設的な関係を構築できる人物とされる。次期首相がバルニエ氏と同様の内閣不信任を回避するためには、左派会派内の穏健派を切り崩すか、不信任に投票しない程度の極右政党の消極的な支持が必要となる。後継首相候補の人選などで早期の政権発足が難しい場合、バルニエ氏が暫定首相としてひとまず残留することや、テクノクラートが暫定首相に就くことも考えられる。大統領は議会の多数派や最大勢力が支持する首相候補を選ぶ法的な義務はないが、議会の多数派が支持しない人物が首相に就任しても、今回同様に内閣不信任に晒されることになる。

司法関係者によって見解は異なるが、バルニエ首相の辞任により、議会で審議中だった来年度の予算案は廃案となる可能性が高い。脆弱な議会基盤と時間的制約を考えると、次期政権が速やかに発足した場合も、新たな予算案を編成し、年内に成立させることは難しい。憲法47条は予算未成立時の特例として、予算案の提出から70日以内に議会が採決を行わない場合、政令による予算の発効を認めている。次期政権がこの特例を使って予算を成立させることは政治的に極めて困難なうえ、既に年末まで1ヶ月を切り、70日を待っていれば年内の予算成立はできない。公共調達や公務員給与の支払いが滞り、行政サービスの継続が困難となる米国型の政府閉鎖を回避するには、予算組織法45条に基づき、今年度の予算を来年度の予算にそのまま引き継ぐ形の特別法の議会承認を進めることになる。財政危機を招いたとの批判をかわしたい極右政党は、特別法による暫定予算の成立を認める方針を示唆しており、政府閉鎖は回避される公算が大きい。ただ、暫定予算では新たな税徴収や歳出は認められないため、新政権の発足後に改めて来年度の予算案を編成し、議会に諮る必要がある。特別法の議会承認が難しい場合の最終手段として、公的機関の機能不全時に必要な措置を講じる大統領権限(憲法16条)を発動する可能性も残される。

憲法12条は、前回選挙から1年間の下院の解散を禁止している。来年7月までは下院を解散し、再び総選挙を行うことができない。極右政党が9月の政権発足時に左派が提起した内閣不信任案に同調せず、政権発足を消極的に支持した背景には、当面は選挙ができず、政権を打倒するよりも、自らの政策要求の受け入れを迫る方が得策との判断が働いてきたものと考えられる。また、いたずらに政治危機や財政不安を引き起こせば、かえって有権者の反発を招く恐れもあった。極右政党は次の大統領選挙や下院選挙での政権奪取を視野に、責任政党であることをアピールし、最も効果的なタイミングで不信任カードを切る方針だったとみられる。今回の首相退陣でも早期の選挙に持ち込むことはできないが、フランス政局は今後、下院選挙が解禁される来年後半以降、いつ選挙が前倒しされてもおかしくない臨戦モードとなろう。この際、暫定予算で政府閉鎖や財政混乱を回避できることは、金融市場にとって一見すると良いシナリオにみえるかもしれないが、今回の首相退陣や予算不成立で極右が責任を問われることがなくなり、次の選挙に向けて逆風を回避できた点は見逃せない。前回選挙で極右の政権奪取を阻止した左派と中道の間にも秋風が吹いている。当面の財政危機を回避できたとしても、極右の政権奪取への不安に怯える日が続きそうだ。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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