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- ドイツで連立崩壊、来年春に総選挙へ
- 要旨
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- 経済や財政運営を巡って不協和音が続いてきたドイツのショルツ政権が6日に崩壊。来年3月に前倒しの連邦議会選挙が行われる可能性が高まった。過去数年、ドイツ経済の不振が続いているが、財政規律の呪縛と連立政権内の不協和音で、早期の政策対応も期待できない状況にあった。今回の連立崩壊は、ドイツ政治の不安定化を意味すると同時に、現政権のレームダック化による政策停滞を早期に打開することにもつながる。
米大統領選でのトランプ氏勝利の余韻が覚めやらぬ6日夜、ドイツで連立政権が崩壊し、来年秋の議会任期満了を待たずに連邦議会選挙が行われる可能性が高まった。ショルツ首相が率いる中道左派の「社会民主党(SPD)」、環境政党「緑の党(Grüne)」、リベラル政党「自由民主党(FDP)」の連立政権は2021年の発足以来、経済政策、気候変動対策、財政運営などを巡る意見相違から政策が停滞し、支持率の低迷が続いてきた。最近でも来年度の予算審議が本格化するのを前に、同国独自の財政均衡規定(債務ブレーキ)の遵守に必要な90億ユーロの財政の穴をどう埋めるかを巡って対立していた。また、精彩を欠くドイツ経済の立て直しを巡って、FDPのリントナー党首は減税、規制緩和、気候変動対策の軌道修正などを主張。緑の党のハーベック経済・気候保護相兼副首相は、ドイツ進出を見送った米IT企業に対する補助金予算を財政の穴埋めに活用することを提案したが、溝は埋まらなかった。米国の大統領選挙の結果を受け、保護主義的な政策によるドイツの輸出産業への影響に危機感を強めたショルツ首相は、債務ブレーキの緊急条項発動で財政緊縮を回避し、経済再生や国民支援に回すべきと主張したが、財務相を務めるリントナー氏がこれを拒否。ショルツ首相はリントナー氏の財務相解任を決断し、連立政権の崩壊が決定的となった。
ショルツ首相は今後、野党の協力を仰ぎ、所得税制の変更、年金改革、企業のエネルギー負担軽減策、自動車産業支援、EUの難民規則変更などの重要立法作業を進めたうえで、来年1月15日に内閣信任投票に臨む意向を示唆している。来年度の予算案が議会を通る見込みは立たず、ひとまず今年度予算に準ずる暫定予算を組んだうえで、新政権発足後に改めて予算審議を行う可能性が高い。各種の世論調査でリードする最大野党で中道右派の「キリスト教民主同盟(CDU)」とバイエルン州の姉妹政党「キリスト教社会同盟(CSU)」は、早期の解散・総選挙に意欲をみせているとされる。ショルツ首相は近く今後の議会運営を巡って野党党首との協議を予定しており、今後の政権協力や前倒し選挙を巡るCDU/CSUの出方を確認する機会となろう。内閣不信任が可決された場合、ショルツ首相は議会の解散権を持つシュタインマイヤー大統領に解散を要求するとみられる。大統領は21日以内に議会の解散是非を決断し、解散から60日以内に総選挙が行われる。連立与党が世論調査でリードするハンブルク州議会選挙が行われる3月2日か、その直後に連邦議会選挙が前倒しで行われるとの観測が高まっている。
各種の世論調査では、連立与党の支持率低迷が続いており、CDU/CSUによる政権奪還が確実視されている(図)。CDU/CSUは最近、CDUのメルツ党首を首相候補とすることを決め、メルケル元首相のライバルであった同氏の次期首相就任が有力視される。CDU/CSUの単独過半数獲得は困難な情勢で、連立相手として考えられるのは、SPD、緑の党、新興左派政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」の3党だろう。過去に連立を組んだことがあるFDPは議席獲得に必要な得票率5%に届かない可能性が高く、CDU/CSUは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」との連立も否定している。支持率が低迷するSPDや緑の党が党勢回復を優先して政権参加を見送る場合、旧東ドイツの支配政党の流れを汲むBSWが唯一の連立相手となる。9月に旧東ドイツの3州で行われた州議会選挙ではAfDとBSWが躍進、州政府の発足に向けた連立協議で、主要政党はAfDとの連立を拒否した一方で、BSWとの連立協議を開始している。親ロシアのBSWが連立に加わる場合、ウクライナ支援の行方が不安視される。
過去数年のドイツ経済の低迷は、歴史的な物価高や大幅利上げなどの循環要因に加えて、脱ロシア・脱化石燃料を急ピッチで進める過程での企業のエネルギー負担上昇と産業空洞化の進展、中国の経済不振と電気自動車(EV)対応の遅れによる自動車産業の苦境、財政健全化を優先した長年の投資不足によるインフラ老朽化、高齢化の進展と人手不足、産業の新陳代謝やイノベーションの弱さなどの構造要因が重なったものだ。財政規律の呪縛と連立政権内の不協和音で、現政権が続く限りは早期の政策対応も期待できない状況にあった。今回の連立崩壊は、政治安定を重視するドイツの不安定化を意味すると同時に、連立政権のレームダック化による政策停滞を早期に打開することにもつながる。次期政権の下で、債務ブレーキの変更に向けた憲法改正、気候変動対策の推進と産業競争力強化の両立、トランプ再登板による米国との貿易摩擦への対応などに注目したい。

田中 理
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