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- 難航するフランスの予算審議
- 要旨
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- 格付け会社ムーディーズは25日、フランスの財政状況や政治環境の悪化を理由に、国債の格付け見通しを「ネガティブ」に変更した。この段階での格下げは見送ったが、政府の中期的な財政計画の実行が難しい場合、格下げの可能性を示唆している。財政運営や政治環境を取り巻く状況が早期に改善することは難しく、筆者は来年以降、格下げが行われるとみる。
- 21日に下院で始まったフランスの予算審議は難航している。政府は29日に予定していた歳入部分の採決が難しいと判断し、残る1500以上の修正案の審議を11月5日以降に先送りすることを決断した。政府の予算案に対しては、左派や極右の野党勢力だけでなく、マクロン支持の中道勢力とバルニエ首相の出身政党の与党勢力からも反発の声が聞かれる。審議の遅れが続けば、年内の予算成立に黄信号が灯りかねない。憲法上の特例措置などを駆使し、薄氷の審議が続こう。
10月11日のフィッチに続き、25日にムーディーズがフランス国債の格付けアウトルックを「ニュートラル」から「ネガティブ」に引き下げた。今年春の前回レビュー時点と比較して、財政赤字の実績値が一段と上振れし、10日に発表された2025年度の予算案でも財政再建の後ずれが確認され、6・7月の国民議会(下院)の前倒し選挙後に議会基盤が一段と弱体化するなど、フランスの財政を取り巻く環境悪化が著しい。主要格付け3社のうち、ムーディーズの国債格付けは「Aa2(AAに相当)」と、フィッチとS&Pの「AA-」より1ノッチ高いこともあり、今回のレビューでの格下げの可能性もあったが、結果はアウトルックのみの引き下げとなった。
ムーディーズはアウトルックを引き下げた理由を、「財政赤字の持続的且つ想定を上回る拡大と債務の持続可能性の悪化を阻止する措置をフランス政府が実施できないリスクが高まっている」と説明している。「フランスの財政悪化は我々の想定を上回り、同じ格付け帯の国々が財政再建に取り組んでいるのとは対照的である」と言及。「フランスの財政赤字の対GDP比率は2024年に6%を上回るとみられ、必要な財政再建の規模を考えると、2025年に5%に削減する政府計画の達成は不可能である」との見解を示した。また、「フランスの政治的・制度的な環境は、財政収支の持続的な改善を実現する政策措置がまとまる状況ではなく、信用プロファイルに対するリスクが高まっている」と指摘。「予算の管理はこれまで我々が評価していた以上に弱くなっている」との懸念を表明している。そのうえで、「フランス政府が発表する中期的な財政戦略が財政悪化の流れを変えることができない場合や、その効果的な実施に関して信頼性を欠く場合には、フランス国債を格下げする可能性がある」としている。今回の格下げは見送ったものの、今後の財政再建の取り組みや政治環境次第で格下げの可能性が相応にあるものと考えられる。
その予算審議は難航している。10月21日に下院で始まった歳入部分の予算法案審議は、左派を中心とした野党勢力ばかりか、身内の与党内からも多くの修正案が出された。左派勢力は大企業や富裕層向けを中心に政府案を上回る大幅増税を求め、極右勢力は電力料金に対する課税強化に反対する一方、バルニエ政権を支える中道勢力は政府の増税案に反対し、首相の出身政党である共和党は公的年金の物価スライドの一時適用見送りに反発する。政府は29日に予定していた採決を行うのが難しいと判断し、1500以上の修正案の協議を残したまま、26日にいったん審議を中断することを決めた。28日から11月5日の日程を予定していた社会保障部分の予算法案審議を先に進めたうえで、11月5日に歳入部分の審議再開を予定する。だが、社会保障部分の予算案にも与野党から2200以上もの修正案が出され、審議の難航が避けられない。さらなる審議の遅れは、その後に予定される歳出部分の審議や各法案の上院での審議がずれ込み、年内の予算成立に黄信号が灯りかねない。
政府には予算の未成立を回避するための憲法上の特例が幾つかある。予算審議の開始から40日以内(今回の場合は11月21日まで)に下院で採決が行われない場合、政府は下院採決を待たずに予算案を上院に送ることができ、上院は15日以内に採決を行う。議会が70日以内(今回の場合は12月21日まで)に採決を行わない場合、予算案は条例により発効することができる。年度開始時に歳入と歳出部分の法案公布が間に合わない場合、政府は緊急措置として議会に徴税の許可を求め、既に議決された政策を実行するうえで必要な資金を利用できる(何れも憲法47条)。また、政府には議会採決を迂回する特別な立法手続きが認められている(憲法49条3項)。この手続きを用いると、議会は24時間以内に内閣不信任案を提出することができ、不信任となった場合は内閣が総辞職し、信任された場合には当該法案が可決されたと見做される。政府はこの段階では49条3項を用いないことを選択したが、このまま議会審議の難航が続けば、強硬突破が必要となる可能性が高まる。
田中 理
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