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2024.09.03
アジア経済
台湾経済
国際的課題・国際問題
台湾政界を揺さぶる「政治とカネ」問題の行方は?
~与野党双方で政治とカネを巡る疑惑が噴出、中国本土の対台湾工作にも影響を与える可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- 台湾では、1月の総統選で民進党の頼清徳氏が勝利する一方、同時に行われた立法院総選挙では民進党が議席を減らして少数与党に留まった。立法院では第1党である国民党と第3極を目指す民衆党が野党となり、政権と議会のねじれ状態となるなど政治はこう着状態にある。民衆党は次期選挙での党勢拡大を目指すが、党首の柯文哲氏が台北市長時代の疑惑で逮捕される事態に発展し、支持率低下に直面している。他方、与党・民進党内でも有力政治家の鄭文燦氏が桃園市長時代の収賄疑惑で逮捕・起訴されており、与野党双方で「政治とカネ」の疑惑が噴出している。政界を巡る混乱は台湾統一を目指す中国本土の習近平指導部の動きに影響を与えると予想されるほか、地域情勢に影響する可能性にも要注意と言える。
台湾において今年1月に実施された総統選挙では、蔡英文前政権下の与党である民進党から出馬した頼清徳氏が勝利し、8年ごとに政権交代が行われる展開が続いてきたなかで初めて3期連続となる民進党政権が継続することとなった。他方、同時に実施された立法院(議会)総選挙では民進党は議席数を減らして半数を下回るなど少数与党となる一方、最大野党である国民党が議席を積み増して第1党になったものの、いずれの政党も単独で半数を上回ることはできなかった(注1)。その結果、選挙において『第3極』を謳った民衆党も議席を積み増し、同党がキャスティング・ボートを握ることになった。その後に行われた立法院長(議長)選挙では、主要3党が独自候補を立てたことで第1党となった国民党の韓国瑜氏が選出され、副院長(副議長)にも同党の江啓臣氏(前党主席)が選出されるなど政権と議会は完全な『ねじれ状態』となっている。5月の頼清徳政権発足後も民衆党は野党に留まる方針を維持したほか、立法院では野党が提出した政治改革法案を巡って議論が紛糾するとともに、議会外では双方の支持者がデモ活動を活発化させるなどねじれ状態を理由に政治はこう着状態に陥っている。なお、政治改革法案については、その内容に関する妥当性を巡って憲法裁判所で審査される事態となっている。こうしたなか、先月に民衆党は結党から丸5年を迎えるとともに、主席(党首)の柯文哲氏は独自性の発揮により次の選挙における党勢拡大を目指す方針を示したものの、先月末に同党は柯氏が1月の総統選での政治献金に関連して不適切な処理を行ったことを理由に、党主席職を3ヶ月休職した上で党の規律審査を受けることを明らかにした。さらに、柯氏が台北市長時代の2020年、同市で行われた大規模不動産開発事業に関連して業者に対する不正な便宜供与(業者の要求に沿う形で容積率引き上げを決定したとされるもの)を行ったとの疑惑が持ち上がり、検察当局は柯氏を事情聴取するとともに関係先の家宅捜査に動き、先月末には柯氏を逮捕した。なお、同疑惑に関連してはすでに国民党所属の台北議員のほか、便宜供与を受けたとされる業者の幹部などが逮捕・拘留される事態に発展している。柯氏と民衆党は不正な便宜供与を行ったとの疑惑を否定した上で、当局の捜査手続きの違法性を主張するとともに、検察当局に対する批判を強めるなど与野党間の新たな攻防戦の舞台となる動きがみられる。なお、検察は柯氏の拘留を請求したものの、2日に裁判所は容積率の引き上げそのものを違法と認定する一方で当時市長であった柯氏自身が違法性を知っていた状況は見当たらないと判断して拘留請求を却下する一方、柯氏とともに拘留請求の対象とされた当時の副市長は拘留されており、捜査の行方に注目が集まっている。上述したように、柯氏と民衆党は2028年に行われる次期総統選挙、次期立法院総選挙での捲土重来を期す構えをみせているものの、一連の疑惑が噴出するとともに、マスメディアなどを通じて連日報道されていることも影響して支持率低下を余儀なくされるなど痛手となっていることは間違いない。また、柯氏は上述した総統選での政治献金に関する不適切な処理を巡る問題を理由に主席職を休職しており、この問題に対する説明責任も併せて問われる状況にあり、台湾政界においても『政治とカネ』を巡る問題が野党を揺さぶる事態に発展している。一方、与党・民進党においても7月に対中国交流窓口機関である海峡交流基金会のトップ(董事長)であった同党所属の有力政治家の鄭文燦氏(元行政院副院長(副首相))が収賄容疑で逮捕、起訴される動きもみられる。逮捕容疑は鄭氏が桃園市長時代の2017年に同市で行われた不動産開発事業に関連した業者からの収賄とされる。なお、鄭氏自身は2014~22年にかけて桃園市長を、2023~24年にかけて行政院副院長を務めた後、蔡英文前総統の後継候補として頼氏とともに取り沙汰されるなど、民進党内では頼氏とライバル関係にあった。とはいえ、頼氏の下で民進党は清廉な政治を強調する動きをみせてきたなかで民進党の支持にも少なからず悪影響が出ている。さらに、鄭氏と柯氏の両者にまつわる疑惑は市長在任時代の不動産開発事業に関わっている点で一致しており、政治不信が深刻化する可能性も考えられる。こうした台湾政界を巡る混乱は、台湾統一を目標に掲げる中国本土の習近平指導部にとってこれまで以上に硬軟を取り混ぜた形での攻勢を掛ける材料になると見込まれるほか、そうした動きが東シナ海や南シナ海を巡る地域情勢に影響を与える可能性にも留意する必要性が高まっている。

注1 1月15日付レポート「台湾総統選は頼氏勝利も与党・民進党は少数与党に、中台関係の行方は」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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阿原 健一郎

