株高不況 株高不況

半導体からみると現在の株式市場は「楽観の中で成熟」の状態にある

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月42,000程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150程度で推移するだろう。

  • 日銀は12月に政策金利を0.50%に引き上げ、25年末までに1.0%への到達を見込む。

  • FEDは9月に利下げを開始、FF金利は25年末に4.00%(幅上限)への低下を見込む。

目次

金融市場

  • 前日の米国株は軟調。S&P500は▲0.0%、NASDAQは▲0.2%で引け。VIXは15.7へと低下。

  • 米金利はツイスト・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.160%(+0.6bp)へと上昇。
    実質金利は1.701%(+2.0bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲3.6bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは145近傍へと上昇。コモディティはWTI原油が75.9㌦(+1.4㌦)へと上昇。銅は9244.0㌦(▲16.5㌦)へと低下。金は2536.7㌦(+35.7㌦)へと上昇。

米国イールドカーブ
米国イールドカーブ

米国イールドカーブ(前日差)
米国イールドカーブ(前日差)

米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国長短金利差(2年10年)
米国長短金利差(2年10年)

経済指標

  • 7月米中古住宅販売成約指数は前月比▲5.5%と予想外に減少。前年比では▲4.6%となり、水準はリーマンショック後のボトムである2010年を明確に下回った状態にある。現在のところ住宅ローン金利の低下が販売増に寄与した形跡はみられない。

中古住宅販売件数・成約指数
中古住宅販売件数・成約指数

  • 新規失業保険申請件数は23.1万件と前週比で概ね横ばい。失業率の更なる上昇を示唆するような一方的な増加は回避できている。

米国新規失業保険申請件数
米国新規失業保険申請件数

注目点

  • 日本の7月鉱工業生産は前月比+2.8%と2ヶ月ぶりに増産も、市場予想(同+3.5%)や経産省予測値(同+4.0%)を大幅に下回った。6月からの反発が鈍かった要因の一つは、供給側に問題を抱える自動車生産の弱さであり、この点はある意味で安心感がある。需要側に大きな問題が生じない限り、品質問題発覚以前の水準へと回復が見込まれることから、鉱工業生産全体としても増産が予想される。もっとも、株式市場との連動性が強い電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスはこれ以上の改善が見込み難いところまで来ている。半導体関連銘柄が期待先行で買われる局面は既に終わった印象だが、ここからは業績をより慎重に見極める段階に移行するとみられる。

鉱工業生産指数
鉱工業生産指数

生産自動車工業
生産自動車工業

・鉱工業生産全体の方向感を決める自動車工業は、大手メーカーの工場稼働停止によって1・2月に垂直的落下(累積▲24.0%)を経験した後、大幅な振れを伴い回復傾向にあり、7月も前月比+1.9%の増産であった。しかしながら、生産水準は依然として2023年10-12月期を約5%pt下回った状態にあり、増産の余地がある。自動車と並ぶ基幹産業である半導体関連については、電子部品・デバイス工業が同+9.7%と大幅な増産であった。また生産用機械に分類される半導体製造装置は同+30.2%と大幅な増産。このところ極端に振れが大きく基調が掴みにくいが、7月の指数水準179.2は2023年度下期平均の151.3を明確に上回っている。

・8月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は8月が前月比+2.2%、9月が同▲3.3%であった。経産省経済解析室が生産予測指数の上振れバイアスを補正した8月の予測値は同▲0.9%と減産示唆だが、この予測値はこのところの自動車生産の振れを上手くコントロールできていない可能性があり、予測精度が落ちている印象だ。注目の輸送機械工業の生産計画は8月に同▲0.7%、9月に同±0.0%と概ね横ばい。自動車工業は、品質確保を優先する動きから生産台数を抑制する動きが続く見込み。もっとも、やや長い目でみれば本格的な工場再開に加え、過去数年の世界的供給制約(半導体不足)によって積み上がった潜在需要を背景に息の長い増産が期待できる。自動車ローン金利の高止まりによって販売が頭打ちになっている北米市場では、9月に予想されるFedの利下げが追い風となろう。

・株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業の生産に目を向けると、上述のとおり8月の生産は前月比+9.7%となり、前年比では+20.4%と回復が明確化している。生産計画は8月に前月比+5.7%となった後、9月は同▲3.6%と力強さに欠けるが、在庫調整の進展に鑑みると先行きは増産が予想される。この間、世界半導体売上高はノートPCやスマホの需要停滞が足かせとなっているものの、AI向け半導体の爆発的需要を追い風に前サイクルの頂点に近づいている。

生産IT関連財
生産IT関連財

世界半導体売上高
世界半導体売上高

・電子部品・デバイス工業の出荷と在庫に注目すると、8月は在庫が前年比▲26.2%と減少ペースが鈍化した反面、出荷が同+15.4%と一気にプラス圏を回復したことから、出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は+41.7%と大幅に改善。3ヶ月平均では+33.7%へと小幅に低下したものの、依然として高水準にある。

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランス
電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランス

・ここで長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと日経平均株価が連動性を有してきたことを再確認したい。株価指数において半導体を直接手掛ける企業の存在感は必ずしも大きくはないが、半導体製造装置や化学品など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体のうねりを作り出すという構図があると筆者は理解している。では、ここから出荷・在庫バランスが更に伸びを高めるかと言えば、恐らくその可能性は低い。

日経平均・出荷在庫バランス
日経平均・出荷在庫バランス

・先行きの出荷・在庫バランスを見極めるために在庫循環図の位置取りを確認すると、現在は右下領域(在庫減・出荷増)にあり、進路を「東(出荷増)」にとっている。過去の経験則に従えば、今後は出荷増に対応するための在庫積み増しによって右上領域(在庫増・出荷増)に向けて「北上」すると予想される。この時、在庫の増加が出荷のそれを上回る傾向にある(※在庫循環図のグラフは横軸が▲20から+20、縦軸が▲50から+50)。そのため出荷・在庫バランスは下方向に推移する公算が大きい。株式市場との関連で言えば、出荷・在庫バランスが上向きに転じている局面は、半導体市況に反転の兆しが見えてきた頃と一致し、関連企業の業績についてはダウンサイドリスクの後退と共に期待が膨らみ株価が大きく上昇する。まさに相場格言で言うところの「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育つ」状況と言える。それに対して出荷・在庫バランスが高水準にある現在の状況は「(強気相場は)楽観の中で成熟し」に近いものがある。しばらくは上値を追うと期待されるが、伸び率は縮小が予想される。

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。