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- 2024年ジャクソンホール会議の注目点
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- 8/22-24開催のジャクソンホール会議では、パウエルFRB議長が講演において今後の政策運営の新たな手がかりを示すかが焦点となる。具体的には、①7月雇用統計後に強まった景気後退懸念、②先行きの政策金利パス(利下げペース)、③2024年内に着手する金融政策の戦略レビュー、以上3点に関して具体的な言及があるかが注目される。
8月22~24日にかけて、米カンザスシティ地区連銀主催のジャクソンホール・経済シンポジウムが開催される。ジャクソンホール会議では、各国中央銀行要人のほか、政治家や著名経済学者が参加し、世界経済や金融政策に関しての広範な議論が行われる。特に歴代のFRB議長が重要なメッセージを発信してきた経緯があり、こうした発言が市場の乱高下へと繋がることもある(図表1)。なお、今年のテーマは「金融政策の有効性と波及の再評価(Reassessing the Effectiveness and Transmission of Monetary Policy)」であり、金融政策の限界や波及ラグなどが議論される見込だ。

例年同様、パウエル議長は23日に開会挨拶を行う予定である。先行きの金融政策運営を占ううえでは、パウエル議長の講演(及び学術的な分析報告)において、下記3点に関して新たな見解が示されるかが注目される。
1. 景気後退懸念とインフレ鈍化
7月雇用統計では失業率が4.3%(6月:4.1%)と4か月連続で上昇した結果、足下の景気後退シグナルである「サーム・ルール」が点灯した。直後の金融市場では株価が急落するなどリスクオフの動きが鮮明となったものの、その後は7月のISMサービス業景況感や小売売上高が堅調に推移したこともあり、景気後退への懸念は和らぎつつある。この間7月のコアCPIは前月比+0.2%(+0.1%)と事前予想通りの着地となり、足下のインフレ基調を示す3か月前比年率が+1.6%(6月:+2.1%)と40か月振りに+2%を下回るなど、インフレの減速傾向が鮮明となっている。
パウエル議長は7月FOMC後の記者会見において、4~6月期のインフレ実績は+2%目標への確信を強めていると言及した一方、労働市場の大幅な悪化には迅速に対処する姿勢を示した。パウエル議長が23日の講演において、「景気後退の可能性をどの程度見積もっているのか」及び「7月CPIを踏まえて、先行きのインフレ認識に従来と異なる見解を示すのか」が注目される。なお、雇用統計後の5日の講演において、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁は「(単月の雇用統計と景気動向を結びつけるのは)時期尚早」、シカゴ連銀のグールズビー総裁は「(米国は)景気後退には陥っていない」とそれぞれ述べるなど、7月雇用統計はハリケーンの影響を受けている可能性もあり、FRB高官は単一の経済指標を過度に重要視することに慎重な姿勢を示している。
2. 先行きの政策金利パス(利下げペース)
パウエル議長は7月FOMC後の記者会見において、インフレの低下傾向が確認される場合には「9月の利下げが検討される可能性がある」と言及した(利下げ幅が50bpsである可能性は否定)。この間、利下げに慎重なスタンスを示してきたFRB高官に関しても、アトランタ連銀のボスティック総裁が「9月利下げに前向き」、セントルイス連銀のムサレム総裁が「(利下げの時期が)近づいているかもしれない」と15日にそれぞれ言及するなど、9月の利下げ開始に向けた地ならしが進んでいる。
こうしたなか、パウエル議長が9月の利下げ幅(25bpsか50bps)、及び2024~25年の利下げペース(6月時点のドットチャートは2025年に100bpsの利下げを示唆)を巡って、何らかの手がかりを示すのかが注目される。とはいえ、9月FOMC(9/17-18開催)までには8月分の雇用統計(公表日:9/6)と消費者物価指数(同9/11)が公表されるため、8月時点において9月の利下げ幅を中心とした先行きの利下げペースに言及する可能性は低いとみられる。
一方、今年のジャクソンホールが金融政策の有効性であることを踏まえると、同イベントで報告される学術的な分析結果が今後の金融政策運営への何らかのヒントを与えるかもしれない。例えば、政策の波及ラグが長引いているとの分析結果は、これまでの累積的な利上げの影響が完全に発現していない、或いは経済指標が悪化した後の利下げでは政策対応として遅すぎる可能性を示唆するため、FRBが景気後退の予兆に対して早期に対応する必要性を正当化すると考えられる。一方、自然利子率の上昇が足下の引締め効果を弱めているとの分析が示される場合、足下の政策金利水準は過度に制約的ではなく、FRBがデータを見極めながらより緩やかに政策を調整する余裕を与えるかもしれない。
3. 5年おきの戦略レビュー
FRBは2019年に「金融政策の戦略・手段・コミュニケーションのレビュー」を開始し、2020年8月には新たな金融政策の枠組みとして「柔軟な平均インフレ目標(FAIT)」を導入した。同目標はインフレ率の構造的な低下を踏まえ、インフレ率が2%を一時的に上回ったとしても低金利政策を維持し(過去の2%下振れ分の穴埋め)、中長期でインフレ目標の達成を目指す政策方針である。しかし、パンデミック後のインフレ高騰を背景に、こうしたFAITを掲げ続ける妥当性には議論の余地がある。
長期の戦略レビューは5年毎に実施されることとなっており、パウエル議長は6月FOMC後の記者会見において「年内にレビューの開始を公表することを考えている」「レビューの範囲にはコミュニケーション全般のことが含まれる」と言及している。戦略レビューの方向性が短期的な市場動向に与える影響は限られるものの、中長期的な金融政策のあり方を占ううえでは、ジャクソンホール会議にて目標設定やコミュニケーション手法に関してどのような議論が展開されるのかが注目される。
例えば、シカゴ連銀のグールズビー総裁は5月の講演において、四半期経済見通しにおける経済指標と金利の予測を結び付けて公表する考えを示している(現状では各メンバーがどのような経済シナリオを前提に金利予測を立てているのかが不明)。また、6月にブルッキングス研究所が実施した会合(バーナンキ元FRB議長やFRBのリサーチスタッフなどが参加)においては、戦略レビューの論点として「ゼロ金利制約を前提とした、政策反応関数における非対称性の再評価(FAITはインフレ低迷への対策を強調するほか、FRBは雇用の不足のみを政策判断として重視)」、「金融政策が自縄自縛に陥るのを避けるため、フォーワード・ガイダンスにおける免責条項の導入」、「シナリオ分析を含む、政策反応関数の明確化」、及び「政策フレームワークにおける量的緩和(QE)への言及(QEの反応関数の明確化や四半期見通しにおける言及)」などが挙げられている。
【参考文献】
Boocker, Sam and David Wessel (2024), “Advice for the Federal Reserve’s review of its monetary policy framework,”Brookings Institution: Research & Commentary(2024-8-15参照).
前田 和馬
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