株高不況 株高不況

ヒントなしで迎える金融政策決定会合

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月44,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月150程度で推移するだろう。
  • 日銀は9月に利上げを実施するだろう(政策金利は+0.25%)。
  • FEDは9月に利下げを開始、FF金利は25年末に4.00%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.1%、NASDAQは+0.1%で引け。VIXは16.6へと上昇。

  • 米金利はツイスト・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.250%(▲0.4bp)へと低下。
    実質金利は1.923%(▲1.6bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲22.7bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが堅調。USD/JPYは154近傍へと上昇。コモディティはWTI原油が75.8㌦(▲1.3㌦)へと低下。銅は9026.0㌦(▲85.0㌦)へと低下。金は2377.8㌦(▲3.2㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 金融政策決定会合の前日にもかかわらず、これまでのところマスコミ各社からのリーク報道、観測記事はどれも決定打に欠ける内容になっており、利上げの有無はまさに五分五分と言ったところ。なお筆者は従前7月の利上げを予想してきたが、24日に9月へ変更した。

  • 金融政策決定会合における判断について、利上げを促す要素とそうでない要素を上表に整理した。この7月に限って言えば、特に重要なのは為替だろう。7月10日にUSD/JPYが162円近傍まで上昇した段階で筆者は「更なる円安を招く恐れのある利上げ見送りは相当な勇気が必要」と考えていた。4月の金融政策決定会合(特に記者会見)がハト派と受け止められ円安が進行した後、その次の6月会合でも長期国債の買入れ減額を即時決定しなかったことで円安が進行し、それぞれ財務省が為替介入を発動した経緯がある。そうした状況下、7月も利上げ見送りで円安が一段と進行する事態を日銀は避けると考えていた。しかしながら、その後のUSD/JPYは為替介入に対する警戒とFedの利下げ観測の合わせ技で円安は落ち着いている。日銀は余裕を持って様子見(利上げ見送り)を選択できる状況にある。また7月に利上げを見送る(長期国債の買入れ減額との同時決定を避ける)ことで、為替市場において「材料出尽くし感」を避けることができる。

  • そして個人消費の弱さも重要。現在、GDPベースの個人消費は4四半期連続でマイナスとなり、負の需給ギャップも残存する中、金融引き締めを講じ、賃金・物価に下押し圧力をかける意味は乏しい。米国のように強すぎる個人消費がインフレ圧力の根底にある訳ではない。この点は日経新聞、ブルームバーグ、ロイターが何れも「関係者」からの取材で言及しており、日銀内部で中心的な論点となっていることに疑いの余地はない。7月会合で利上げを選択する場合、日銀は個人消費の持ち直しに極めて強い自信を示す必要がある。ただし個人消費の先行指標として消費者態度指数や景気ウォッチャー調査に目を向けると、双方とも力強さを欠いた状態にあり、利上げの根拠としては心許ない。最新の6月データを見る限り、個人消費の押し上げ効果が期待されている定額減税が不発に終わった可能性すら示唆しているように思える。こうした個人消費の弱さは、日銀に9月以降まで待つことを要請しているようにみえる。もっとも、日銀が「円高→輸入物価下落→家計の実質的購買力増加→個人消費回復」という経路を重視するなら、更に円高を進行させるべく早期利上げに踏み切る可能性もある。

  • 反対に名目賃金は明確に加速し、利上げを正当化する存在になっている。一般労働者(≒正社員)の所定内給与(≒基本給)は5月に前年比+2.7%を記録。パートを含んだ数値も前年比+2.5%と、1990年代前半と同程度まで高まっている。物価上昇を加味した実質賃金がマイナスであることから、あたかも賃金が上がっていないような印象もあるが、現実の名目賃金は大幅に上昇しており、しかも向こう数ヶ月は更なる加速が見込まれている。最新値の5月段階では、ベア等実施前の賃金が支払われている企業が相応に多いためだ。賃金の根幹とも言うべき一般労働者の所定内給与は3%台半ばへの加速が予想される状況にあり、植田総裁が就任当初に強調していた「賃金上昇を伴った物価上昇」は既に実現していると言える。もっとも、実質賃金がまだマイナスであることは事実。この点を重視し利上げを見送る可能性はある。

  • ここで改めて認識したいのは「利上げは消費に追い風」とも取れる分析が政府・日銀から出ていること。たとえば、日銀は金融システムレポート2024年4月号(https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr240418.htm)では、利上げによってマクロ的な家計の金利収支が改善するという試算結果が示されている。住宅ローンを抱えていない世帯は預金金利の増加等を通じて利息収入が増加することから、1%の利上げで可処分所得対比の金利収支が0.7%増加するという内容であった。また内閣府の経済財政白書(令和5年経済財政白書 https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je23/pdf/p010002.pdf)にも同様の分析がある。もちろん、それによって個人消費が回復するかは疑問であるが、利上げの理論武装が整いあることは認識しておきたい。

  • 最後に政治的日程も考慮しておきたい。9月末に自民党総裁の任期満了を控えていることを踏まえれば、9月会合(19-20日)や10月会合(30-31日)よりかは7月の方が政治に対する配慮を気にせず動くことが可能であろう。この点を重視すれば7月に利上げを実施、逆に9月や10月を「様子見」の場にする選択肢も考えられる。

藤代 宏一


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