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バイデン撤退後を巡るQ&A

~ハリス氏の経済政策とは?トランプ氏に勝てる?~

前田 和馬

目次

(本レポートは日本時間7月22日15時時点の情報に基づく)

7月21日(米国東部時間)、バイデン大統領(81歳)は再選を目指していた2024年大統領選挙からの撤退を表明した。バイデン氏は6月27日のテレビ討論会で高齢懸念が強まるなかにおいても、これまで選挙戦を継続する意向を示していた。しかし、バイデン氏はその後のメディアインタビュー等でも高齢懸念を払しょくできず、民主党内において撤退を求める動きが強まっていた。また、共和党候補のトランプ氏(78歳)が13日の暗殺未遂を経て大統領候補としての力強さを示した一方、バイデン氏自身が17日に新型コロナウィルスに感染したことも同氏の撤退判断に影響した可能性がある。

以下では、今後の2024年米国大統領選の展開を巡る主要な疑問にQ&A形式で答える。

Q. 今後の民主党の候補者選びは?

バイデン氏が民主党予備選にて獲得した代議員の票は解放され、約3,900人の代議員による指名投票で新たな大統領候補が選ばれる(投票が複数に及ぶ場合には党幹部などの約700人の特別代議員も投票に参加)。民主党全国委員会のハリソン委員長は「透明かつ秩序あるプロセス」で選任することを表明しているものの、具体的な手続きは未定だ。正式な候補者指名は8月19~22日にシカゴで開催される民主党全国大会、或いはそれ以前のオンライン投票によって決定される可能性が高い。

Q. 有力候補は?

現時点ではハリス副大統領(59歳)が最有力であるものの、若干の流動的な要素が残る。

バイデン氏はハリス副大統領(59歳)を後継候補に指名したほか、カリフォルニア州のニューサム氏やペンシルベニア州のシャピロ氏などの民主党州知事、クリントン夫妻、ウォーレン上院議員なども相次いでハリス氏への支持を表明している。ハリス氏には選挙資金を含むバイデン選挙陣営のインフラを引き継げるメリットが大きい。

とはいえ、ハリス氏は現職の副大統領であるため、インフレや移民政策に対する国民の不満など「バイデン政権の負の遺産」も引き継ぐ懸念がある。オバマ前大統領やペロシ元下院議長のほか、上下院の民主党トップであるシューマー院内総務、ジェフリーズ院内総務はハリス氏への支持を明確にしていない。また、2024年大統領選に無所属での出馬が取り沙汰されていたマンチン上院議員(76歳)が、民主党に復帰したうえで候補指名を目指すことを検討している。今後も複数の政治家が候補指名に名乗りを上げる可能性がある。

Q. ハリス氏が不人気な理由は?

各種世論調査の集計(RealClearPolitics)に基づくと、ハリス氏を「好ましい(Favorable)」と回答する米国民は全体の40%弱と、「好ましくない(Unfavorable)」の50%強を大きく下回っている。

ハリス氏の不人気の背景には複数の要因が考えられる。まず、副大統領の支持率は政権の評価と連動する傾向があり、バイデン政権への不満が根強い中でハリス副大統領が単独で人気を博すことは簡単ではない。次に、ハリス氏は現政権下で移民・国境政策を主に担当しているものの、米国ではメキシコ国境からの不法移民流入に歯止めがかかっておらず、政策担当能力に疑問符がついている。最後に、副大統領に就任した当初はスタッフの入れ替わりが目立つなど、ハリス氏のマネジメント能力や人望を懸念する声もある。 

とはいえ、バイデン大統領とトランプ前大統領も「好ましくない」の回答割合の方が明らかに多く、政治の二極化が強まる米国において、万人に好まれる政治家が生まれにくい環境であることには留意が必要である(図表1)。

図表1:各候補の支持率の推移
図表1:各候補の支持率の推移

Q. ハリス氏の経済政策スタンスは?

バイデン政権の政策スタンスを概ね引き継ぐとみられるものの、バイデン氏と比べてより左派的との見方がある(図表2)。税制を巡っては、低中所得者層への税額控除を拡大する考えを過去に示したほか、法人税率の35%への引き上げを主張したことがある(現行の21%に対して、バイデン氏は28%への引き上げ、トランプ氏は15%か20%への引き下げを主張)。また、環境政策への取り組みにも熱心とみられており、過去には気候変動対策のために官民総額で10兆ドルの投資や炭素税導入を提案したことがある。一方、2019年の予備選時には「私は保護貿易主義者ではない」と述べており、直近においてもトランプ氏の掲げる10%の一律関税に対して「生活コストを上昇させる」と明確に反対するなど、(自由貿易を推進するほどのリベラルとは考え難いものの)関税の更なる強化には消極的とみられる。

なお、こうした政策への考えはあくまで2020年の民主党予備選に向けた発言を中心としており、今後どのような政策アジェンダを示すのかが注目される。

図表2:ハリス氏の過去の政策方針
図表2:ハリス氏の過去の政策方針

Q.トランプ氏と新たな民主党候補のどちらが有利か?

賭け市場を中心に、引き続き共和党のトランプ氏が大統領選で優勢とみられている(図表3)。仮にハリス氏が民主党の大統領候補として正式に指名される場合、副大統領候補として誰を選出するか、無党派層の支持をどの程度拡大できるかが当面の焦点となるだろう。前者に関しては、ペンシルベニア州のシャピロ知事やブディジェッジ運輸長官など、激戦州で有利に戦いを進められる副大統領候補が選ばれるとの見方がある。また、無党派層の支持拡大を巡っては以下の3点が注目される。

まず、ハリス氏が民主党内の支持をまとめたうえで、民主党の大統領候補として最も適した人材であることを示す必要がある。バイデン氏は自ら立候補を辞退したものの、共和党は「一部の民主党幹部が民意(予備選)で支持されたバイデン氏を降ろした」との主張を展開する可能性が高い。このため、対立候補の立候補を事実上認めないなど、ハリス氏の大統領候補就任が早期に既定路線化するほど、「バイデン撤退とハリス選出」のプロセスが民主主義を否定するイベントとして強調されるリスクが強まる。一方、11月5日の投開票日まで4か月足らずであることを踏まえると、民主党は挙党一致体制をなるべく早く作り出し「反トランプ」で結束する必要もある。このため、民主党幹部やハリス氏はこうしたバランスをうまくとりながら、党内の混乱を最小限に留め、無党派層へのアプローチを開始する難しい舵取りが求められる。

次に、ハリス氏はインフレや移民流入に対する国民の不満といった「バイデン政権の負の遺産」を引き継ぐ懸念がある。このため、バイデン政権下における経済的な成果を適切にアピールするのみならず、移民対策に対する批判に関しても「反撃」することが求められる。移民政策とその評価を巡っては、6月4日に発表した大統領令(一定の不法越境者が確認された場合、亡命申請を受け入れずにメキシコ等へと即時送還)の政策効果が今後顕在化し、不法入国者の減少を通じて移民の問題を矮小化できるかが注目される。

最後に、ハリス氏が民主主義や中絶権への脅威を有権者に対して喚起できるか、である。7月初めに米連邦最高裁はトランプ氏が大統領在任中の免責特権を一部で認める判断を下すなど、米国の大統領がより強権的に振る舞える懸念が強まっている。また、トランプ氏や副大統領候補のJ.D.バンス氏は「もし選挙が公正であれば、2024年のいかなる選挙結果も受け入れる」と述べており、11月の選挙で敗北した場合でも不正を主張することで選挙結果を受け入れない可能性がある。ハリス氏はこうした民主主義への懸念を訴えることを通じて、無党派層の支持を拡げられる可能性がある。また、妊娠中絶権を巡って、共和党の政策綱領ではその判断を州に委ねる方針を示しているものの、J.D.バンス氏はより強硬な中絶規制を支持しているとみられており、民主党が善戦した2022年中間選挙と同様、中絶を選挙の争点に押し上げられればハリス氏への追い風となりうる。

なお、ハリス氏は黒人女性であることからマイノリティや女性の支持獲得に優勢との見方もあるものの、現時点において、ハリス氏がバイデン氏よりもこうした有権者に対して明確な強みを持っているようには見受けられない(図表4)。

図表3:賭け市場の予想する各候補の勝率
図表3:賭け市場の予想する各候補の勝率

図表4:属性別の投票意向
図表4:属性別の投票意向

【参考文献】

  1. The New York Times(2024), “A Harris Economy Could Prove More Progressive Than ‘Bidenomics’,”(2024-7-21参照)

  2. Politico(2019), “How Kamala Harris would address climate chang,” (2024-7-21参照)

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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