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フィリピン中銀、8月次回会合での利下げに言及、ペソ相場はどうなる

~レモロナ総裁は年2回の利下げの可能性にも言及、ペソ相場は混乱の度合いを増す可能性も~

西濵 徹

要旨
  • フィリピン中銀は27日の定例会合で政策金利を6会合連続で据え置く決定を行った。このところの国際金融市場では米ドル高が再燃するなかでペソ相場は調整の動きを強めている。この背景には、生活必需品などの物価上昇にも拘らず中銀がハト派姿勢に傾く動きをみせているほか、南シナ海問題の激化を受けた中国による「経済的威圧」への警戒感、政治不安が顕在化していることが複雑に影響している。こうした状況にも拘らず中銀は今回こそ金利を据え置く一方で将来的な利下げに言及するとともに、政策スタンスは幾分ハト派に傾いているとの認識を示した。レモロナ総裁は7-9月と10-12月と年内2回の利下げの可能性に言及するなど8月の次回会合での利下げを射程に入れる一方、インフレ懸念がくすぶるとともに米ドル高が意識されやすい環境での早期利下げはペソ相場の混乱を招く可能性に注意が必要と捉えられる。

27日、フィリピン中央銀行は定例の金融政策委員会を開催して政策金利である翌日物リバースレポ金利を6会合連続で6.50%に据え置く決定を行った。このところの国際金融市場では米ドル高の動きが再燃するなかで多くの新興国通貨に調整圧力が強まる動きがみられるなか、足下のフィリピンの通貨ペソの対ドル相場は2022年11月初旬以来のとなる安値水準で推移するなど周辺のアジア新興国などと比較しても調整の度合いが大きくなっている。同国では昨年初めを境にインフレは頭打ちの動きを強めてきたものの、昨年後半以降は食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とする物価上昇を反映して底打ちに転じているほか、足下ではペソ安による輸入インフレが懸念される状況に直面している。こうした状況にも拘らず、このところの中銀は度々将来的な利下げの可能性に言及するなど、『ハト派』姿勢に傾く動きをみせてきた(注1)。さらに、このところは南シナ海問題を巡って中国との対立が激化しており、仮に中国が同国に対して『経済的威圧』の動きを強めれば外需のみならず、対内直接投資などを通じて幅広く経済に悪影響が出ることが懸念される事態となっている。また、一昨年の大統領選でマルコス氏はドゥテルテ前大統領との『蜜月』を演出することで圧勝による当選を果たして政権樹立に漕ぎ付けたものの、政権発足後はマルコス氏や側近が主導する憲法改正の動きのほか、南シナ海問題や麻薬対策などを巡って路線転換を図ったことを機にドゥテルテ氏は反発を強めている。今月にはドゥテルテ氏の長女で副大統領を務めるサラ氏が兼務した教育相を辞任するとともに、来年予定される中間選挙(上院選)にドゥテルテ氏とサラ氏の兄(パオロ下院議員)、弟(セバスチャン氏)の3人が出馬する意向が明らかになるなど、マルコス派との全面対決となる可能性が高まっている。こうした経済、政治の両面での不透明感がペソ相場の足かせとなるなかで、国際金融市場においては中銀がどのような政策スタンスを示すかに注目が集まっている。なお、中銀は今回も政策金利を据え置いたものの、会合後に公表した声明文では先行きの物価動向について「見通しを巡るリスクは下向きに傾いており、目標の中央値に向かう」との見方を示した上で、「今年のリスク調整後のインフレ率は+3.1%、来年も+3.1%」と前回会合時点(それぞれ+3.8%、+3.7%)から下方修正している。その理由に「今月発令された大統領令62号と行政命令10号(コメに対する関税を2028年までに35%から15%に引き下げるもの)の施行」を挙げている。そして、先行きの政策運営を巡って「インフレ期待は固定されており、年後半は物価上昇圧力が緩和する」とした上で、「外部環境による不確実性には要注意」としつつ「インフレ見通しの改善は政策スタンスの引き締め度合いを後退させる余地が広がる」との認識を示している。また、会合後に記者会見に臨んだ同行のレモロナ総裁は「外部環境を巡る不確実性を注視しているが、7-9月の利下げは可能」とした上で、「7月にはインフレが目標域に回帰すると見込まれる」としつつ「足下のスタンスはこれまでに比べて幾分ハト派に傾いている」との認識を示している。そして、先行きの物価や為替動向について「食料インフレや電気料金、輸送コストの動向には不確実性がある」とした上で、「ペソ相場を注視している」としつつ「ペソ相場の急落は望まないが日々為替介入を行っている訳ではない」との考えを示している。その上で「利下げは25bpずつ」とした上で「7-9月と10-12月に1回ずつの利下げがあり得る」としつつ、「預金準備率の引き下げについて議論したが実施時期は未定」とするなど、金融引き締めからの転換を示唆する考えをみせている。ただし、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ時期の後ズレによる米ドル高が意識されやすいなか、インフレを巡るリスク要因が山積するなかで中銀がハト派に傾く姿勢をみせたことはペソ相場の重石となることは避けられず、混乱が増す可能性にも注意が必要になると捉えられる。

図1 ペソ相場(対ドル)の推移
図1 ペソ相場(対ドル)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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