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- 猛暑・酷暑と個人消費
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猛暑は夏物消費や日照時間の増加によって夏場の個人消費を刺激すると言われることが多いが、気温の上昇が常に消費を押し上げるとは限らない。①猛暑関連消費が増加する一方で、それ以外の消費が減りやすいこと、②気温の上昇が行き過ぎる場合、外出の手控えを通じて消費を押し下げる可能性があること、がその理由。
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猛暑で増加する支出の代表格は「電気代」だが、これは暑さに耐えかねてやむなく増やさざるを得ない消費。電気代への支払額が増加した分、他の消費を減らす行動に出やすいほか、負担増がタイムラグをもって個人消費の抑制に繋がる可能性がある。また、猛暑による生育不良で野菜価格が上昇する可能性にも注意が必要。生活必需品である野菜価格の上昇は購買力の抑制を通じて消費の下押し材料になるほか、マインドの悪化にも繋がりやすい。
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記録的な暑さとなった昨年の夏は、個人消費がむしろ減少。賃金の増加や減税の実施による夏場の消費持ち直しを期待する向きが多いが、仮に気温の上昇が行き過ぎ、「暑過ぎる夏」となった場合には、猛暑・酷暑が消費の足を引っ張るリスクがある。
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「猛暑効果」への疑問
今年の夏も暑くなりそうだ。昨年は夏の平均気温が観測史上最高となり、最高気温が40度を超える地域も出るなど歴史的な暑さとなった。東京都心でも7月6日から9月7日まで64日間連続で最高気温が30度を超える真夏日が続いたほか、35度を超える猛暑日も22日を数えるという異常気象だったが、今年の夏も昨年に匹敵する暑さになるとの予想が出ている。仮に今年の夏も猛暑になった場合、景気にはどういった影響が出るだろうか。
「猛暑効果」という言葉に象徴されるとおり、猛暑は夏場の個人消費を増やすと言われることが多い。直接的には、飲料や家電といった猛暑関連消費が増加するといった効果が挙げられる。もう一つの間接的な影響としては、外出機会の増加を通じた効果がある。夏場に気温が上昇するケースでは、同時に好天に恵まれて日照時間も長くなることが多い。その分、外出が増え、消費が刺激されることになる。過去の例をみても、猛暑の夏に消費が増えることが多いのは事実である。今年についても、猛暑効果による夏場の消費増を期待する声が出てくると思われる。
もっとも、気温の上昇が常に夏場の消費にプラスに効くわけではない。まず、猛暑関連消費の増加には注意すべき点がある。確かにエアコンやビールなど、気温の上昇によって消費が増加する品目は存在するものの、逆に気温の上昇により消費が減る品目もある。また、猛暑関連消費を増やしたことで財布の中身が減る分、猛暑関連以外の消費を薄く広く減らすといった行動にも出やすいだろう。気温の上昇による消費全体への効果は必ずしも明確なものではない。
外出機会の増加についても考慮すべき点がある。確かに暑い夏と日照時間の増加の組み合わせはレジャー等への需要増をもたらすことが多いが、気温の上昇が行き過ぎて「酷暑」となった場合には、期待される効果とは逆に外出の手控えに繋がる可能性がある。実際、昨年も危険な暑さが続いたことで、全国各地で連日のように「熱中症警戒アラート」が出され、命を守るための不要不急の外出手控えが呼びかけられた。なお、星野(2022)では、35度近辺までは「気温が上がると消費が増える」が、それ以上になると「気温が上がると消費が減る」可能性があると指摘されている。「暑過ぎる夏は消費を冷やす」ということだ。
また、近年はゲリラ豪雨の増加や季節外れの台風、記録的な大雨の発生など、猛暑の時期に不安定な天候となることも多い。この場合、外出どころではないだろう。近年は天気予報の精度が向上しており、数日前から天候にある程度の目処がつくことも多い 。天候が大きく崩れることや、記録的な暑さが予想される日には前もって外出予定を入れないといった行動も増えているようだ。このように、猛暑 → 日照時間の増加 → 外出の増加というパスも、そう簡単に成立するものではない。
「電気代」への支出増加はプラスとは言えず
電気代負担の増加も懸念材料だ。猛暑で増加する夏物消費はいくつかあるが、なかでも夏場の気温上昇と明確な相関があるのが「電気代」である。仮に今夏も猛暑となれば、家計の電力消費は大幅に増加する可能性が高い。だがこれは、猛暑によって消費が活性化されたというものではなく、暑さに耐えかねてやむなく増やさざるを得ない消費である。こうした形での電力消費の増加は、喜べる形の消費増でないことは明らかだ。こうした場合、家計は電気代への支払額が増加した分、他の消費を減らすという行動に出やすいほか、負担増がタイムラグをもって個人消費の抑制に繋がることも考えられる。
政府は現在、「酷暑乗り切り緊急支援」として電気代・ガス代の補助金を8~10月の期間限定で復活することを目指している。もっとも、再エネ賦課金単価の引き上げなどもあり、仮に補助金が復活したとしても、水準としての電気代はまだまだ高い。また、現在予定されている8月使用分からの補助金復活の場合、夏真っただ中の7月には負担軽減が行われないことに加え、8月に使用した分が実際に請求されるのは9月となる。家計は負担が軽減されたとの実感を持つことは難しく、夏場の緊急支援として機能するかどうかは分からない。
野菜価格も上昇?
もう一つ懸念されるのが野菜価格の上昇だ。日照時間の増加は野菜の生育に好影響を与える一方、気温の上昇が行き過ぎれば、逆に野菜の生育に悪影響が生じることも多い。特にキャベツやハクサイ、レタス等の葉物野菜は影響を受けやすいほか、果物等でも品質の低下に繋がることが多い。仮に今夏が猛暑・酷暑となれば、実際に出荷される夏から秋にかけての野菜価格上昇が実現する可能性があるだろう。
野菜を生活必需品と考える人は多く、節約が難しい。その分、他の消費を削らざるを得なくなる。特に、野菜への支出比率が高い高齢者層への影響は大きくなるだろう。また、野菜は生活に身近で購入頻度が高い分、他の財と比べて価格上昇を意識しやすいという特徴をもっている。こうした体感物価の上昇が心理的な面を通じて消費に悪影響を及ぼす可能性にも注意したい。
昨年は猛暑効果が不発
このように、猛暑と個人消費については考慮すべき要因がいくつかあり、両者の関係はそう単純なものではない。実際、記録的な猛暑となった昨年についても、23年7-9月期のGDP個人消費は前期比▲0.3%と減少していた。猛暑効果による押し上げ期待に加え、新型コロナウイルスの感染法上の分類が5類となった後の初めての夏休みであり、リベンジ消費の活発化が予想されていたことを考えると明らかに弱い結果に終わった。猛暑が消費を押し下げたとまで言えるかどうかはともかく、少なくとも猛暑が消費を押し上げた形跡はない。
もちろん筆者も、気温の上昇がこの先の消費を押し上げる可能性があることを否定するものではないが、それも程度問題である。気温の上昇が行き過ぎ、「暑過ぎる夏」となった場合には、逆に消費の足を引っ張る要因に転じかねない。賃金の増加や減税の実施による夏場の消費持ち直しを期待する向きが多いが、猛暑・酷暑が思わぬ伏兵になる可能性に注意しておきたい。
(参考文献)
- 新家義貴(2003)「冷夏と消費の関係の検証」内閣府・今週の指標 No.463
- 新家義貴(2018)「今年の猛暑は消費を増やすか、減らすか?」Economic Trends
- 新家義貴(2022)「猛暑と個人消費を考える」Economic Trends
- 星野卓也(2022)「日次データでみる暑すぎる夏と消費の関係」Economic Trends
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 新家 義貴
しんけ よしき
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経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測
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