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21日の会見で岸田首相が「二段構えの物価高対策」を表明。第一弾として8~10月の電気ガス補助金の再開、第二弾として秋の経済対策に年金世帯や低所得世帯の給付金・地方交付金を通じた物価高対策を据えることを示した。
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内容やフレームワーク含め、岸田政権が過去に行った経済対策と類似。秋の第2弾経済対策は9月の自民党総裁選の結果にも左右されると考えられ、情勢は流動的である。
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会見では岸田首相が「年末までの消費者物価押し下げ効果0.5pt以上とすべく検討」と具体的な数値を示した。実質賃金を前年比プラス転換させることを意識していると考えられる。
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岸田首相が「二段構えの対策」を表明
21日に岸田首相が会見で今年の経済対策について述べ、物価の高騰に対して「二段構えの対応を取っていく」とした。以下で発言のポイントを整理した。
(第一弾経済対策)
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電気ガス代補助金の再開(8~10月、酷暑乗り切り緊急支援)
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ガソリン補助金は年内継続
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年末までの消費者物価の押し下げ効果を月平均0.5%pt以上とすべく検討
(第二弾経済対策)
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年金世帯や低所得者を対象とした追加給付金
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学校給食費等の保護者負担の軽減
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飼料高騰の影響の大きい酪農、農林水産、中小企業、医療・介護・保育、学校施設、公衆浴場、地域公共交通、物流、地域観光業等に対する物価高騰に対する幅広い支援
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重点支援地方交付金の拡充によって講ずる
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秋に策定する経済対策の一環
エネルギーを中心とした物価高対策や低所得者への給付金策を講じるほか、地方交付金を通じた物価高対策とすることで地方自治体に裁量を持たせている。2022年度・23年度の経済対策でも同様の形で物価高対策が実施されており、類似のスキームが想定されていると考えられる。
第一弾は予備費、第二弾は秋の経済対策・補正予算での計上を念頭
この「二段構えの対策」のフレームワークも2022年度に例がある。2022年度は4月に第1弾物価高対策に相当する「コロナ禍における『原油価格・物価高騰等総合緊急対策』」を策定。当初予算の予備費1.5兆円を支出し、エネルギー価格高騰や業種別の物価高対策、生活困窮者への支援策などが打たれた。また、5月にはここで消化した予備費補充と施策の一部を含んだ内容の2022年度第1次補正予算を閣議決定。その後7月の参院選を経て、10月に第2弾対策の「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」、12月にはこの裏付けとなる第二次補正予算を閣議決定した。
今回は第一弾対策として8~10月の電気・ガス代の引き下げを明言しており、7月中にも対策を決定することになる。財源としては、予備費からの支出を主軸に据えると考えられる。24年度予算の予備費は通常予備費が1.0兆円(うち1,398億円を能登地震対応で支出、残額8,602億円)、物価高騰関連の予備費が1.0兆円計上されている。3か月分の電気ガス代補助であれば、物価高騰予備費1.0兆円の範囲で対応可能だろう。
経済対策第2弾の決定は9月の総裁選後となる。岸田首相は会見で“秋”の経済対策と述べている。補正予算の編成も念頭にあるとみられ、例年通り補正予算と当初予算を組み合わせた「15(16)か月予算」が想定されていると考えられる。ただ、9月に自民党総裁選を控える中で、第2弾経済対策に関する情勢は流動的。首相交代がある場合でも第2弾経済対策をやらない(補正予算を組まない)可能性は低いと考えられるが、その内容や規模は総裁選の結果次第で変わりうる。
「0.5ポイント以上」発言は実質賃金プラス転換を意識か
やや意外感があったのは、首相会見で「消費者物価押し下げ0.5ポイント以上」と、対策による物価押し下げ効果について、具体的な数字について触れていた点だ。これは報道でもしばしば注目される実質賃金の数字を意識しているためとみられる。毎月勤労統計で示される実質賃金は25か月連続の前年比マイナスとなっており、プラス転換の時期が注目されている。
直近で公表されている名目賃金(4月)の値は前年比+1.6%、実質化に用いられる持家の帰属家賃を除く消費者物価(5月)は同+3.3%である。負担軽減策縮減・終了の影響によって、目先の物価の伸びはもう一段高まる可能性が高い情勢だ(新家(2024)「消費者物価指数(全国・24 年 5 月)~電気代急上昇の一方、コアコアは弱め~」)。一方、連合集計(6/5公表時点)の春闘賃上げ率・純ベア分は+3.5%ある。夏場にかけて名目賃金の伸びも高まっていくことが想定されるが、連合純ベアの数字と同程度伸び率が高まっても、物価とトントンといったところ。さらに、春闘賃上げ率の数字は中小企業や非組合員を含まないため、実際にここまで名目賃金の伸び率が高まるかは不透明な部分も多い(春闘賃上げ率と賃金統計の差異については、「「5%賃上げ」の期待外れリスクを考える~春闘賃上げ率とはどういう数字なのか?~」を参照)。春闘賃上げの反映が進む夏場の物価を押し下げることができれば、この間の実質賃金プラス転換のハードルは下がることになる。
細かい話をすると、統計上、定額減税や給付金などの施策は「実質賃金」の数字には影響しない(賃金以外の収入や支払い税額も考慮したSNAの家計名目可処分所得には影響する。内閣府が速報値を四半期ごとに公表。家計の包括的な所得を示す有用な数字だが、あまり注目されない)。一方で、電気・ガス代の補助金は物価統計の数字を動かす形で、消費者物価やそれをもとに計算される実質賃金の数字を動かす。家計からみれば同額の減税・給付とエネルギー補助金とでは、さして差異はないかもしれないが、統計の上での見え方は異なってくる。5月に打ち切った電ガス補助金の再開という二転三転感のある施策表明にわざわざ踏み切ったこと自体が、「実質賃金の早期プラス転換」の絵姿を示すことへのこだわりを感じさせる。
星野 卓也
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