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- マクロン大統領は、極右台頭への危機感、選挙制度、選挙日程、野党の分断を味方につけようとしているが、最新の世論調査は極右が第一党となる可能性を示唆。単独での過半数獲得は困難な情勢だが、共和党党首が極右との協力の可能性を示唆している。極右政党は、移民規制の更なる厳格化、フランス第一主義、バラマキ的な財政運営を掲げており、大統領との衝突は避けられない。ただ、政権奪取後の極右政党が次の目標に見据えるのは、2027年の大統領選挙での勝利。イタリアのメローニ首相に倣って、EUとの全面衝突を避け、現実主義的な政権運営を行うとみる。
マクロン大統領が国民議会(下院)の解散・総選挙を決断した以降に行われた世論調査が幾つか発表され、欧州議会選挙と同様に、極右政党・国民連合(RN)が30%以上の支持を獲得し、10%台後半の大統領支持会派・アンサンブルを大きくリードしている(図表1)。大統領としては、極右台頭への危機感、選挙制度、選挙日程、野党の分断を味方につけようとしているが、大逆転で極右勢力による議会支配を阻止できるかは予断を許さない。

過去の大統領選挙や国民議会選挙では、極右台頭への危機感から、初回投票で敗北した候補の支持者が大統領支持に回ることも多かった。だが、国民連合はユーロ離脱などの極端な政策を封印、排外主義的な主張を弱め、28歳のバルデラ氏を党首に据え、ソーシャルメディアを駆使するなど、党のイメージ刷新を進めている。国民連合の支持者は、引退した高齢者や過激思想の持ち主だけではなく、若者や一般市民に広がっており、かつてのような危機バネが働くとは限らない。
右派政党間での協力を模索する動きも出ている。2022年の大統領選挙を前に著名文筆家のゼムール氏が旗揚げした新興極右政党・再征服(R!)は、今回の欧州議会選挙でかつて国民連合に所属したルペン氏の姪が選挙戦を率いて、5.5%の支持を獲得した。両党は国民議会選挙に向けて共闘の可能性を模索している。また、かつての二大政党の一角を占め、多くの首相を輩出してきた中道右派政党・共和党(LR)のシオッティ党首は11日、極右政党との協力可能な政策分野があることを示唆した。こうした動きに対しては共和党内に反対意見もあり、党分裂で一部議員が大統領会派に合流する可能性もあるが、右派勢力が協力すれば、大統領支持会派の逆転勝利は益々難しくなる。
選挙制度を考えると、大統領支持会派が決選投票に進んで勝利するには、極右勢力だけでなく、左派勢力の動向も鍵を握る。2022年の国民議会選挙では、社会党(PS)、不服従のフランス(LFI)、欧州・エコロジー=緑の党(EELV)、共産党(PCF)などの左派政党が統一会派・新人民連合環境社会(NUPES)を結成し、最大野党となった。左派勢力は11日、今回の国民議会選挙で再び統一会派を結成する方針を表明した。左派と右派の支持基盤が異なり、フランス全土を対象とした世論調査通りの結果にはならないが、左派の統一会派結成は大統領支持会派に不利に働こう。
極右を中心とした勢力が議会の過半数を握った場合、マクロン大統領は極右政党出身者を首相に任命せざるを得なくなる可能性が高い。極右が第一党となったが、極右勢力、大統領支持会派、極左勢力が何れも議会の過半数に届かない場合の対応は極めて不透明だ。複数の勢力を横断して支持が得られる人物がいるのか、議会第一党となる極右勢力が非多数派政権を樹立するのか、二番手や三番手に沈む可能性がある大統領支持会派が非多数派政権を樹立するのか、現時点では見通せない。なお、議会解散前の調査結果も含む世論調査に基づく予想獲得議席によれば、国民連合が235~265議席でリードし、大統領支持会派が125~155議席、NUPESが115~145議席で二番手を争っている(図表2)。国民連合の予想獲得議席は定数577の国民議会の過半数(289議席)には届かないが、共和党が協力した場合、過半数到達が視野に入る。選挙戦が本格化するなか、今後の世論調査の動向にも注目が必要となる。

極右首相が誕生した場合、大統領との関係や政策にはどのような変化が現れる可能性があるのだろうか。フランスでは国家元首である大統領が政治の中心で、大きな権限を持つ。大統領は首相・閣僚の任命権や議会の解散権などを通じて、首相に圧力を掛けることができるが、議会が決めた法案の拒否権を持つ訳ではない。過去にも大統領の所属政党と議会の多数派が異なる事態(コアビタシオン)があったが、このまま極右首相が誕生すれば、大統領と首相の主張は真っ向から食い違うことになる。一般論としては、大統領が主に外交と国防を、首相が閣僚とともに内政全般を担う。外交・国防分野では大統領が大きな権限を持つため、ウクライナ支援の見直しにつながる可能性は低い。他方で国民連合は、欧州人権条約に違反する形での移民規制の強化、EU予算へのフランスの拠出負担の軽減、フランスの事業者や農家の優遇(フランス第一主義)、バラマキ的な財政運営などを主張している。こうした主張を通そうとすれば、大統領との衝突は避けられない。マクロン大統領の辞任観測も一部で浮上し、大統領はこれを否定したが、極右首相誕生時の政局展開は極めて不透明だ。
ただ、首相輩出後に極右政党が狙うのは、あくまでマクロン大統領が退任する2027年の大統領選挙での勝利だ(フランスの大統領は三選禁止)。その間の政権運営に失敗すれば、大統領の座を奪取する可能性が遠退く。イタリアのメローニ首相に倣って、EUとの全面衝突を避け、公約の部分実現にとどめ、現実主義的な政権運営を行う可能性が高いとみる。
田中 理
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