骨太方針2024のポイント(総論編)

~2030年までの「経済・財政新生計画」の焦点~

星野 卓也

要旨
  • 骨太原案が公表。官民連携による投資促進、労働移動などを通じた構造的賃上げなど従来の「新しい資本主義」の枠組みを踏襲。人手不足対策など中堅・中小企業強化がより前面に出ているほか、地域経済への好循環波及に関する記載が目立っている。

  • 既存の財政再建計画を見直し、2030年までの「経済・財政新生計画」を策定へ。25年度の基礎的財政収支黒字化などの財政目標や歳出抑制の枠組みは残す一方、産業政策などへの歳出増を許容する旨も明記。基本的には従来の財政運営、予算編成の継続を志向しているとみられる。

  • 足元の円安をけん制する内容は盛り込まれず。市場で取り沙汰された「リパトリ減税」などへの言及も見られない。直接的な円安是正とは距離を置いた内容である。

目次

骨太原案が公表

11日に経済財政諮問会議から骨太方針の原案が示された。毎年の政府の経済財政政策の方向性を定める文書だ。政府は今回の原案をもとに議論を続け、月下旬ごろの閣議決定を目指す方針である。この過程で原案の内容が修正されるケースもある。

今回の骨太方針は4章構成1である。第1章では足元の高水準賃上げに触れつつ、デフレからの完全脱却や官民一体投資を通じた「成長型の新たな経済ステージ」への移行といった全体を通じたビジョンが掲げられている。

第2章では具体的な施策の内容が列挙されている。①賃上げ定着・労働市場改革、②中堅・中小企業活性化、③DX・GXへの投資拡大やAI・半導体などの基盤産業・技術の強化など、④スタートアップ政策、⑤地方創生やデジタル田園都市構想、⑥認知症施策や女性活躍など包摂社会の実現、⑦経済安全保障を含めた外交、安全保障、⑧防災・減災・国土強靭化が盛り込まれた。テーマ自体は昨年骨太と概ね変化はなく、官民一体での投資促進や労働移動重視の労働市場改革を通じた構造的賃上げが中心軸になっている。昨年からの変化を挙げるとすると順序立てであり、中堅・中小企業活性化が2番目の節に挙げられている点が特徴的だ(昨年は「地域・中小企業の活性化」として5番目の節だった)。中小企業の人手不足対策や事業再構築などを通じた生産性向上は従来からのテーマではあるが、政府が政策としての重要度を高めているように映る。

第3章は今回の注目点である中長期の経済財政政策の枠組みについて。今回骨太は財政再建計画見直しのタイミングであり、新しい計画として2030年までを対象とする「経済・財政新生計画」を掲げた。「2040年度名目GDP1000兆円」といった新しい数字も登場している。そのほか、少子化対策を含めた社会保障関連の施策もこの章で整理されている。

第4章では短期的な経済財政運営や2025年度の編成方針が示されている。第2章・第3章に沿った内容であり、賃上げの流れの中小企業・地方への波及や定額減税を通じた物価上昇を超える家計所得増加の確実な実現、来年以降の実質賃金上昇定着を目指した労働市場改革や国内投資拡大を通じた生産性向上などが掲げられている。

資料1.骨太方針2024(原案)の構成(目次)
資料1.骨太方針2024(原案)の構成(目次)

ワードクラウドで眺める骨太方針

資料2では今回と前回の骨太方針のワードクラウドを掲載した。頻出単語の傾向は変わらないが、今回最頻出単語だったものが「地域」(23年骨太107回→24年骨太原案145回)である。中堅・中小企業の活性化やDXなどへの投資などの項目で満遍なく登場。「経済の好循環を地域の隅々まで行き渡らせる」など地域への波及を意識した文面が目立つ。また、官民や地域間、政府と日銀の「連携」(96回→124回)が増加。また、財政再建計画見直しのタイミングであることもあって、「財政」(69回→85回)も増加した。

ワードクラウド上には表れていないが、「コロナ」(14回→6回)は目に見えて減少している、また筆者が注目したのは「EBPM」(7回→16回)だ。第3章の項目に「改革推進のためのEBPM強化」という節も設けられている。政府は「PB目標の達成が視野に入った」とするスタンスであり、次の課題として歳出の質的向上を重視する姿勢も垣間見える。

資料2.骨太方針の文書のワードクラウド
資料2.骨太方針の文書のワードクラウド

政策骨格は従来通り、2030年までの「経済・財政新生計画」を策定へ

今回の骨太方針は岸田政権発足後3度目である。過去の骨太方針では拡大方針を決めた防衛や少子化対策の内容、財源などに関する方針が新たに盛り込まれたことから、その内容に特に注目が集まった。今回の政策メニューをみていくと、従来から岸田政権の掲げる「新しい資本主義」、官民投資の拡大を通じた産業政策の強化、労働移動重視の制度改革やそれを通じた構造的賃上げの路線を改めて確認するものとなっている。政策の内容に新味はないが、「新しい資本主義」として進めてきた大きな政府型の経済財政政策の形が定まってきたことの裏返しでもあるのだろう。

今回の新しい内容として挙げられるものが、2030年までを対象期間とする「経済・財政新生計画」である。新しい財政再建計画に相当するものだ。財政計画については、①2025年度の国・地方PB黒字化目標の堅持、②その後のPBの黒字幅や利払い費を含む財政収支などについての数値目標導入はなし、③歳出の目安を含めた従来の歳出改革を2025~2027年度までも継続する方針、④一方で注釈として経済・物価動向等への配慮する記載が盛り込まれた点、などがポイントだろう。財政目標を提示しつつも、産業政策などへの歳出増を許容する旨も示されており、基本的には「従来通り」の財政運営、予算編成の継続を志向しているとみられる。このあたりは別稿にて詳細や今後の財政政策へのインプリケーションをまとめたい。

直接的な円安是正策とは距離

今回は第4章で日銀金融政策に関する記載があり、「日本銀行には、経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。」とされた。昨年は「日本銀行においては、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを期待する。」との記載があった。足元の春闘賃上げ率の高まりに伴い、文言が修正されている。円安を受けた文言などが入ると金融政策の引き締め観測にもつながった可能性もあったが、概ね変化はないとみてよい。

また、財務省の国際収支に関する懇談会で提案されていたことなどから、今回骨太で円安対策としてリパトリ減税等に関する内容が盛り込まれるとの観測もあったが、その明記はない。しいて挙げると、第1章に「海外の成長市場との連結性向上」との文言がある。「海外の人材・資金を積極的に呼び込み・・・」という記載がそう読めなくもないが、これは従来から掲げている対内直接投資の推進にかかっており、これをリパトリ減税と結びつけるのはやや深読みが過ぎるかもしれない。

円安については、現状では、物価上昇が賃金上昇を上回る中で、消費は力強さを欠いているものの、今後は、景気の緩やかな回復が続く中で、賃金上昇が物価上昇を上回っていくことが期待される。海外経済の下振れによるリスクや円安等に伴う輸入物価の上昇の影響には留意する必要がある。として、実質賃金のプラス転換のリスク要因として挙げられてはいるが、現状分析の域を出ていない。短期的な円安是正からは距離を置いた内容である。

以上

1 なお、昨年は5章構成だったが、これは昨年には章として設けられていた「環境変化への対応」(安全保障・経済安全保障・国土強靭化)が第2章の節として整理されているためである。

星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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